⑭海部川、鮎釣りポイント川原
陽が傾いてきている。腕時計に目をやる裕子、時刻は16時。
心の中で(ああ~もうこんな時間、もう一回朝に巻き戻ればいいのになあ)と呟く。
しゃがんで囮鮎を外し曳船に戻す。立ち上がろうとした瞬間、立ち眩みがして
再び座りこんでしまう裕子。しばらく動けずじっとしている。
遠くから空の呼ぶ声。はっとして目をあけてふりむくと朝陽が眩しい、キラキラ輝く水面。
空「裕子さ~ん、囮鮎、わけますよお~っ!早く早く~っ!」
きょとんとする裕子、再び腕時計をみると8:45。
裕子「あ、、、は、はあ~い。」
狐に騙されたような面持ちの裕子と元気いっぱいの空。鮎釣りを始める準備をするふたり。
空「じゃあ、どうします?裕子さんどの辺に入りたいですかあ?」
裕子「私はもう遠くまで歩いたりはしんどいからこの辺でいいわあ」
空「了解です、じゃあ私はちょっと上の方へ行ってみますね!
お昼にはまたここに帰ってきて一緒に🍙食べましょうね!」
意気揚々と上流の川原へと歩いていく空をみつめる裕子。
裕子「・・・いったい、どおゆうこと?私、頭が変になっちゃったの?」
首をかしげながら、鮎釣りを始める裕子。鮎竿をのばす・・・と。
鮎竿「お望み通り!もう一度朝から鮎釣りできるぞ~(笑いながら)」
裕子「えっ!!ええ~っ!!・・・まさかこんなことが?」
もはや抗う術もなく、鮎釣りを始める裕子。
下から鮎釣り師が近づいてくる。
裕子「あ、またあの非常識な奴が来るのね、よ~し・・・」
鮎釣り師良男「こんにちは~、釣れますかあ~❔」
裕子「・・・え、あれ?違う人やわ・・」
鮎釣り師良男「はい?何か?どこかでお逢いしてましたか?」
裕子「いえ、違います違います、ちょっと勘違いしてました。
まだ、ここ、そんなに釣れてませんわあ。」
鮎釣り師良男「このところ雨が降ってないですからねえ、渇水やと難しいですよね。」
裕子「はい、まあ水が高いのも私らみたいなんには困るんですけどねえ。」
鮎釣り師良男「それはそうですねえ、立ちこんだりは危ないでしょうから、安全第一ですよねえ、
一歩前へ!でたくなっても我慢ですよ、命あっての鮎釣りですからねえ。」
裕子「はい、ぐっと我慢で、足元から泳がせてます。これしかできなくて・・・」
鮎釣り師良男「それが一番じゃないですか、あ、でもその竿ならもう少し流芯やってもええんちゃいますか?」
裕子「それが、なかなかそこまで泳いでいってくれないんですよ~。」
鮎釣り師良男「・・よかったら、ちょっとお借りしてもいいですか?」
裕子「あ、ええ、、、」
裕子から竿を受け取りさ~っと囮鮎を流芯近くまでもっていき、すぐに裕子に竿を持たせる。
鮎釣り師良男「その角度で持って泳がせといたら、たぶん、」
言うは早いか鮎竿が曲がっている。
裕子「わあ~っ!かかりましたあ~!!!!!」
竿を立てて引き寄せてくるとたも網キャッチで鮎をとらえる裕子。満面の笑みでふりかえる。
目を細めて拍手する鮎釣り師良男。
裕子「ありがとうございます~!釣れましたああ~」
鮎釣り良男「お見事お見事、囮鮎かわったらこっちのもの!頑張ってくださいね」
手を振って上流へと去っていく鮎釣り師良男。元気な囮鮎で循環する鮎釣り。
我が身に起こっている不思議を忘れて鮎釣りに興じる裕子。太陽が真上にきている。

