「真昼の虹と虹(仮)~その⑩(妖竿の末路)~」 | 鮎釣り師Kuuの 今日は何 食う?

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2015年6月1日より鮎釣りに遅過ぎるデビュー☆
鮎釣りの絶滅を危惧し、なんとかしたくて、
2024年、鮎釣りのでてくる映画「鮎、虹の空へ」を製作。
なんとかなれーっ!精神で挑む日常を綴るしがないブログ。

 

 

・前回のお話はこちら「真昼の虹と虹(仮)~その⑨カメラマン旗野の宿命~」

 

㉖吉野川支流地蔵寺川・川原  

  鮎釣り姿の空、川に囮鮎の入った曳船をつけて、旗野の元へ駆けよる。

  旗野と剛士はカメラの話をしている。      

空 「旗野さん、早く早く!」                

旗野「ほおれ、これじゃ。こっちがオリジナル末永になる元竿じゃが、これは、近くに置いておくだけじゃぞ!

  決して使うでないぞ。」

空 「はいはい、わかってま~す。貸し切りだし、空のトモカンとこに一緒に置いときます」                

剛士「この川もまた綺麗ですねえ~、初めてきました。」    

空 「うん、ここも人は少ないし、それに、大豊インターからも近いから、剛士、帰るの、ちょっとでもラクだと思うよ」   

剛士「そんなことまで気を遣ってもらって・・・本当にありがとうございます。

  ちょっと少し向こうの方の写真を撮ってきていいでしょうか?」                     

旗野「お、あのあたりもええ感じじゃのお~、嬢ちゃん、ほならちょっと肩慣らし程度に釣りょ~て、剛士、わしも行くわい」

   

  手を振ってふたりを見送るといそいそと鮎釣り準備をする空。妖竿末永の穂先に仕掛け糸をはる。

  複合メタル007。掛け針は7.0の3本錨。囮鮎をだしていよいよ友釣り開始。    

空(N)「頼むぞ、囮鮎一号、・・・よしよしええ感じ~、軽いな9メートルでもそんなに重たくない」 

  すぐに目印が飛んだ。かかった。嬉々としてたも網をぬいて竿と一緒に持つ、丁寧に引き寄せてきて思い切って引き抜く、

  が、力加減がわからずキャッチミス。慌てて振り向いた途端、仕掛けを背後の木の枝にひっかける。鮎は宙づり状態。           

空 「あ~っ!もう、最悪じゃん・・・やっぱり9メートルは使いにくいなあ・・囮鮎一号、君はもう再起不能だ・・・」

 

  やっと絡まった仕掛けを外し、一息つく。置いてある元竿の入った袋に目をやる。 

                  

空 「囮鮎二号まで弱ったらお終いだよなあ。こいつの方が絶対、扱いやすいよなあ。

  ・・・ちょっとだけ。ちょっと釣れるまでだけなら大丈夫でしょ。」

                

  トラブルで竿をたたんだついでもあり、元竿を取り替えた。

 

空 「よし、やっぱり、こっちの方が断然釣りやすいわ」 

 

  仕掛け糸を調整すると急いで囮鮎をつけて放りこむ。いつもの足元から泳がせるのではなく。

  だがすぐに一匹目がかかった。不思議なほど簡単にかかり、しかも竿をたてると綺麗に囮鮎と掛かり鮎がとんできて

  すいこまれるかのようにたも網に入る。

 

空(N)「すご~い!末永、最高じゃん!」 

        

  次もまた直ぐにかかる。走られることもなく同じく竿をたてると手元に飛んでくる。

  思った通りの動作が難なくできる。入れ掛かりが続く。何も考えることなく循環する鮎。

 

空 「楽しい~っ!」 

                 

  入れ掛かりで何匹釣ったかわからない。数を数えることも忘れ写真をとるなんてことも一切考えず、

  休むことなく釣れ続けている。まだまだ釣れそうなのに曳船がいっぱいになってきて、煩わしそうな空。

                       

空 「あーもういいとこなのにトモカンに移さないとだな、ちっ」

 

  いつの間にか、普段なら決して立たないような荒瀬に立って竿を握っている。

  剛士と旗野が近づいてくる。

      

剛士「空さ~ん、釣れてますかあ~」

旗野「どうじゃあ~、調子は」

 

  ふたりの声掛けに返事もせず目もくれず釣り続ける空。 

  

剛士「あれえ・・・聞こえないのかなあ」         

  さらに近寄って声をかける剛士、やはり無視している空。

  旗野も近づいてくる。                

旗野「どうかしたんか」 

                 

空 「ドウモシナイ、イレガカリダ ジャマスルナ」

      

  いつもと様子の違う空を不審に思いながらも写真におさめようと少し下におりてカメラをむける。

  旗野がファインダー越しに空を覗く。血の気が引く旗野。 

             

旗野「黒いモヤじゃ、いかん!あれは!」

  慌ててカメラを構えたまま、大声で叫ぶ旗野。

旗野「早よー、その竿を放せ!離すんじゃ!」           

  剛士が気がつき大声で叫びながら空に近づいていく。       

剛士「空さん、空さん、危ないです、ダメです」         

  剛士の声は届いているはずだが一向にやめる気配はなく釣り続ける空。

  その時、また大きく竿が曲がる、  

           

空(N)「これは、大きい、たも網キャッチできない、返し抜きだ」

  真っ黄色の鮎が勢いよく宙を舞う、たも網をぬかずに両手でしっかりと竿を握りしめて上流で着水させる。

  よせてきたら手をのばして・・・摘まもうとするがまた掛かり鮎が強烈な勢いで走りだした、

  沖へ沖へ走る鮎に引きずられて竿が満月に曲がる。竿を持っている空が、じりじりと沖へ引っ張られている。 

       

剛士「ダメです、それ以上、入ったら流されます」      

空 「わかってる、でも、身体がひっぱられるんよ」      

剛士「早く、竿を離して下さい!」

  叫びながら川に入っていき,後ろから手をまわしてかかえこむ剛士。

空 「ダメだ、剛士までひきづりこんでしまう、手を離してくれ」

剛士「そんなことできません、早く竿を離して!」      

空 「そうしたいけど、離れないの、ダメ~っ」     

  剛士は必死に空を抱きかかえるが、流れ出した足元が踏ん張れなくなってきている。

剛士「もう、無理です、あ~っ!!」

 

  その瞬間、パンっっと何かが破裂したような音が鳴って、空と剛士の身体は後ろにはじかれた。

  後ろの浅瀬にはじかれた二人は水の中に倒れこんで放心する。どうにか立ち上がると空を引き起こす剛士。

  空の手元にはあの元竿だけが握られている。

 

剛士「竿が折れたおかげで助かったんですね・・・」

空 「ああ・・・そうだな・・・」 

            

  旗野が近寄ってくる。

                   

旗野「おうおう、大変じゃったな」                 

空 「ごめんなさいごめんなさい、大事な竿を折ってしまって」

 

  ぼろぼろと泣きだす空。持っていた元竿を旗野に差し出す。

               

空 「私、どうして元竿を持ち出してしまったのか…。本当にごめんなさい、ううっ(泣きじゃくる)」         

旗野「仕方なかろうて。嬢ちゃんが持ち出さんかったらわしがいつか魅入られたじゃろうて。

  この元竿は寺にでも持ち込んで供養してもらうことにするわい。兎に角、無事でえかった。」   

空 「剛士、本当にごめん、私と一緒に死なせるところだった。」

剛士「ほんとですよ。空さんにもしものことがあったら・・・」

 

  空の涙はなかなかとまらない。剛士のスマホが鳴る。深刻な表情で電話をする剛士。話終えると二人の方に向き直る。

 

剛士「宙の様態が急変したそうで、無菌室に移るそうです。僕、先にひきあげますね、車で着替えて病院にむかいます。」    

空 「そ、そうなんか、気をつけてな、私が言うのもなんだけど」

剛士「はい、大丈夫です、すみません、では」

        

  心配そうに剛士を見送る空と旗野。空も片付けを始める。重い足取りで川に入り、曳船に入っていた鮎を全部逃がす空。

         

旗野「ぎょ~さん釣ったのに逃がすんか」          

空 「いいんです、これは私の力で釣った鮎じゃないから」

旗野「また釣りゃあええよの。さて、宿に帰るかの」

     

  川原に置かれた剛士のカメラを見つけ、拾う旗野。 

        

旗野「大事なカメラを忘れて行きよったったの。じゃが咄嗟にカメラを置いて川に入っていきよったのは見事じゃったの」

 

  こくりと頷く空。会話は続かず二人とも黙ったまま川を後にする。何事もなかったかのように川が流れている。             

 

 

 

 

 

 

 
 

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