まだ昭和だった頃、私も一人前にお給料を貰えるようになって実家の母を連れて洋菓子屋さんに行った。
母の日だったか、母の誕生日だったか、それとも何でもない日だったのか、思いだせない。
「お母ちゃん、うちが買うたげるけん、どれでも好きなやつ選んでえよ、どれがええ?」
苺ショートやモンブラン、ザッハトルテ、他にもたくさんお洒落な美味しそうなケーキがズラリと並ぶ。
片っ端から全部!!買って食べてみたいくらいだった。
「・・・う~ん、そうじゃなあ~・・・、どれにしょ~かなあ・・・。」
なかなか決まらない、母。
「一つじゃなくてもええで、二つでも三つでも、食べてえやつ選んでええでえ。」と言っても、
「そがんぎょ~さん、食べれりゃせん。」・・・と 一つ一つ眺めたあげくに選んだケーキは、
「チーズケーキ、これがええ、これにしてえ。」母が指さす。
「え~?そんなのでええん?もっと、このフルーツがいっぱいのってるやつとかの方が美味しいそうじゃねえ?」と言っても譲らず。
結局、母はチーズケーキを嬉しそうに食べた。
・・・その当時、私は、てっきり母は、本当にチーズケーキが一番好きなのだろうと思っていた。
でもよく考えてみると田舎暮らしで田舎育ちの母は、恐らく洋菓子店など行ったこともなく、チーズケーキとかも食べたことはなかったのではないかと思う。だったら何故、チーズケーキを選んだのか?
それは、・・・いちばん安いケーキだったから。
今でこそ、プレミアムチーズケーキとか、高級品も多々あるし、本当にチーズケーキが一番好きという人もたくさんいると思う。けど、その当時は、ケーキの中で、いちばん安いのがチーズケーキだった。普段から色んなケーキを食べてて、たまにはっていうのならチーズケーキもありだが、初めて行ったケーキ屋さんで、見た目も地味でクリームもフルーツの一つものってないチーズケーキなんて、まず選ばない。
だけど、自分が母親になって初めてわかった。
子供が一生懸命貯めたお金を自分の為なんかに使うのが勿体無さすぎるのだ。
その気持ちだけで、もう、お腹いっぱい胸いっぱいになるのだ。
チーズケーキは、他の豪華なケーキより100円以上安かったんよな・・・。
同じようなことが寿司屋でもあった。
申し訳ないが、くるくる回る寿司だったけど、母が「こりゃあ美味しい!」と気に入ったのが(気に入ったように見せたのが)
茄子の漬物の握りだった。もちろん一番安い値段のお皿。
「あっさりして、ええわあ。美味しい美味しい。」と嬉しそうに食べていた。
私は、「もう、せっかくなのにもっとマグロとかハマチとか頼みなよ!!」っとふくれっ面で言ったのを覚えてる。
母の日をお祝いしていた母も、すっかり敬老の日メインになった。
私ももうすぐ敬老の日にお祝いされるようになるんだろうか・・・。
嫌だ嫌だ、私はぜったい敬老の日なんかにお祝いされたくないぞ。
いつまでたっても、「年甲斐もなく、馬鹿なことをしとらあ~!!」と笑われたい。
チーズケーキと茄子の握り寿司。
いつか私も、嬉しそうに食べるのかもしれないな・・・。
