「大学病院に行ってください。」
その一言と共に、市立病院作の紹介状、CTのデータCDをもって翌週、大学病院に向かいました。O先生の外来診察日をネットで調べて出かけたのですが、本当に便利な世の中になったものです。
受付を済ませた後、予約なしの外来診療ですので適度に待たされた後(約2時間)、診察室に呼ばれました。
O先生は問診した後に、ファイバースコープで鼻の中を確認して一言、
「確かに腫瘍がありますね。まず、生検は必要なので行います。市立病院からいただいたCTデータでははっきりわからないので、造影剤を入れて取り直させてください。それに加えて、血液検査、尿検査、首のエコーを取って今日は終了になります。来週に生検結果がわかりますので、それに合わせてMRI等、他の検査予約をしておきます。」

痛覚はないので大丈夫だと思います・・と言いながら、2か所ほどジョキジョキと組織を切り取られ、サンプルとなりました。まあ、痛みはなかったのですが、それをきっかけに腫瘍が張れてしまったようで、鼻づまりがひどくなってしまいました・・・orz
所でこの大学病院、耳鼻咽喉科だけで9か所の診療室があるのにもびっくりしたのですが、血液検査も15人ほどの技官さんがひたすら採血をしていました。未だかつてこの規模の病院は初めてで、素直にびっくりしました。そして初造影CT。(ほんの少し前に市立病院で初CTでしたが)これは独特ですね・・・全身が熱くなる感覚というか、粘膜が温かくなるのがわかります。一番感じるのはお尻の穴でしたが(笑)。

その後は、造影剤の排出を促進するために水分を取るため、ペットボトル片手に帰りました。相変わらずこの時点では「大事になったけど、まあ大丈夫だろう。」と深刻には考えていませんでした。というよりは、あえて考えないようにしていたのだと思います。
そして一週間後、運命の日がやってきます。
わざわざ大学病院に?と聞いてみると、E先生は正直に答えてくれました。

「まず粘膜の生検になりますので、もともと判断が難しい組織です。当院は、病理医も一人しかいませんので、信頼性でどうしても劣ります。はっきり’悪性’と診断されれば治療できますが、’良性’と診断されたときに、それで良いのか、私自身、確信が持てません。また、病理医の判断が難しければ、大学病院で再検査となります。
更に、鼻の癌であれば非常に稀な癌で、私自身、ほとんど治療したことがありません。大学病院であれば、多人数の経験豊富な病理医で診断しますし、治療例も多いのでそちらのほうがいいと思います。特にKusさんはまだ30代でお若い。悪性でないことが一番ですが、悪性であった場合は一刻も早く治療を受けるべきで、二度手間になる可能性があるなら、最初から大学病院のほうがいいと思います。」

この時、初めて悪性かもしれないと意識しました。その時の不安が少し顔に出たのかもしれません。先生は続けてくれました。

「不安ですよね。詳細な検査を追加しないとわかりませんが、CT画像を見る限りでは腫瘍も限局している状態だと思います。仮に悪性だったとしても、きちんと治療できると思いますよ。それで紹介先ですが、Y市立大学病院か、T大学病院になります。病院の規模と頭頸部癌の症例数は、Y市立大学病院の方が大きいです。が、鼻腔ということならT大学病院のO先生のほうがいいと思いますので、そちらに紹介状を出します。」

ここで何度目かの幸運に恵まれています。とんとん拍子に大学病院に行くことになったこと。明らかに癌というわけでもないのに、ここまで短期間(2回の診察)で大学病院を紹介されることは稀だと思います。また紹介先が副鼻腔・鼻腔癌の経験豊富なO先生であったこと。

「大学病院行けって言われたよ・・」と家内に愚痴を言ってましたが、今思えば最善の提案をしていただいたと思っています。
鼻が詰まるなぁ・・からわずか一週間で大学病院に行くことが決まりました。ついに癌を意識せざるを得なくなった瞬間です。そして、専門家の片割れでありながら、知識が乏しくて気が付いていませんでした。

きちんと治療できると思いますよ。

E先生のこの言葉。今ならこの言葉の重みがわかります。癌であった場合、治療できない可能性も大いにあり得るのです。治療できたとしても、根治を目指した治療ではなく、延命治療しかできない場合もあり得るのです。
この時はまだ、「大丈夫だろう。」と気楽に考えるだけでした。「癌」は生命に直結する病気なのに、まだ危機感が足りていませんでした。
CTを撮るために市立病院に行くことになりました。ここで幸運が一つ。
私と同じく、家内も薬剤師です。私は企業研究者で、名ばかり薬剤師ですが、家内は病院で薬剤師業務をしています。パート先はなんと市立病院。なんという偶然・・・と思いつつも、早速聞いてみます。

「市民病院でCTを撮ってもらえと言われたんだけど、いつがいいのかな?一応、悪性の疑いがあるみたいだけど・・」
「うちの耳鼻咽喉科は小さくて、二人しか先生がいないよ。しかも一人は新人で当てにならないから、部長の診療日に行ったほうがいいね。月水になるかな。」

どちらにせよ、難しい判断は部長さんがいないとできないということで、無駄足を避けるためにも次の月曜日に行くことにしました。
紹介状を持って月曜日に市立病院へ・・・なんでこんなに待ち時間がかかるのかなぁと思いながらも受付をして待っていると、耳鼻咽喉科の看護師さんから、CTを撮ってくるように指示がありました。
人生初CT!と、少しハイテンションになりながら受けましたが、1分ほどで終了とあっさりしたものでした。
その後しばらくして診察です。ファイバースコープによる診察と、CTの映像を見比べて、E先生は一言・・・
「左の鼻に腫瘍がありますね。触ると出血もあります。ただ、CTの映像を見ると、大きい割には骨を犯してはいないようです。正直、悪性良性の判断が難しいです。骨を犯していればほぼ悪性で間違いないのですが。ということで、生検をして診断を確定したいのですが、大学病院に行ってもらえますか?」
んと・・話が急すぎてついていくのに苦労しましたが、大学病院という重い表現がでた瞬間でした。

「右の鼻が狭くなっている」「鼻づまりがひどい」
取り敢えず、何かが起こってると感じて近所の耳鼻咽喉科クリニックに駆け込みました。

一通りの問診、ファイバースコープによる診察を受けた結果・・・

「気になってる右のほうは問題ないですね」
「むしろ、左側に問題があります。立派な鼻茸ができてますね。」

ファイバースコープの映像を見せてくれながら、分かりやすく説明してくれました。
確かに、左の鼻の奥のほうが大きな腫瘍でふさがれてしまってます。そりゃ鼻づまりがひどいわけだ・・・その時はなるほどなぁと思うだけでした
副鼻腔炎(通称:蓄膿症)にかかった場合、鼻茸(粘膜が肥大した物)ができることを知っていましたので、当分抗生物質の治療かなぁ・・・と感じてました。

「ただ、少し気になるのは、触ると出血があるんですよね。以前から副鼻腔炎等がありましたか?」
「いえ、特に鼻のトラブルはなかったです。」

答えながら「あれ?」と思いました。副鼻腔炎は若年期に患い、なかなか完治せず定期的にぶり返すことが多いので、私くらいの年で発症するのは違和感があります。3年前に引っ越してきたので、環境が変わったのが原因かもしれませんが・・
少し不安になっていると、先生から提案がありました。

「市民病院を紹介しますので、CTをとってもらいましょう。Kusさんに隠しても仕方ないのではっきり言いますが、悪性の可能性が0ではありません(保険証を診れば製薬企業勤務と分かるのでこのようなコメントです)。見た目では綺麗な腫瘍・骨を犯したりしていないのでおそらく大丈夫だと思いますが、はっきりさせたほうがいいでしょう。」

こうして、初診日に紹介状をもらって、地域中核病院に行くことになりました。
治療方針はいくつか考えられますが、一番可能性が高い方針は、「取り敢えず副鼻腔炎の治療を開始し、効果がなければさらに検査をする」でしょう。
希少癌が30代で発生する可能性は極めて低く、副鼻腔炎と判断して治療するのは、特におかしい診察・治療ではありません。
ただ、私に関していえば、「可能性は低くとも重篤な病気を除外診断する」という判断をしてくれたクリニックの先生に感謝、感謝です。
今になって思い返せば、「(触った時だけとはいえ)出血性」「片側のみ(副鼻腔炎は両側同時発生が多い)」「副鼻腔炎を罹患していたわけではない」と、しっくりこない症状になっています。

「うーん。少し大事になってきたけど、まあ大丈夫だろ」

と思いつつ紹介状を持って帰りました。
そして実はここで第2の幸運が起こっています。
その話は次回に・・・

今回は違う話題です。

ここ10年ほどで癌の治療法は大きく発展しました。
あくまで「早期発見できれば」ですが、治る可能性が高い癌も増えてきました。
また、低い確率であるとしても、昔は助けられなかった人が再度、生を掴むこともできるようになってきています。
そんな中、「早期発見であったとしても」治癒率の低い癌があります。

通称「癌の王様:膵臓癌」

早期発見自体が難しく、手術、放射線治療をしても再発リスクが高く、抗がん剤もそれほど効果がない。最近ではアップルの創始者・スティーブ=ジョブズが亡くなった癌です。
今日、坂東三津五郎さんが膵臓癌で亡くなったと報道がありました。
残念・・としかコメントできませんが、本報道に接し、ブログを更新することを決心しました。(他人のことになってしまうので、ブログにすることを迷っていました)

自分が癌になり、多数の方の闘病記を読ませて頂きました。その中で、心から尊敬できる患者の方が2名いらっしゃいます。
副鼻腔癌の後に、膵臓癌を発症された「D.まさ」さん。副鼻腔癌を克服したと思った矢先に膵臓癌が発覚し、重粒子線治療等、全力で戦われていました。
そしてもう一人は「hdさん」。
膵臓癌発覚時点で、延命宣告を受けるも、海外論文を調べ、自己責任で判断し、新たな抗がん剤治療法にチャレンジして手術まで持ち込んだ闘士。
特にhdさんは「専門家を超えた知識を得、データに基づいたリスクテイク」を実践されていると思います。そんなhdさんがいよいよ追いつめられています。それは、医者から見ても傍から見ても、そして本人・家族から見ても事実。それを分かったうえで本人は何も諦めていない。
私も似た状態になった時、同じことができるのだろうか・・と思いつつ、その姿勢に敬服しています。
hdさんは何度も「三途の川のほとり」どころか、「三途の川をわたって、閻魔を張り倒して帰ってきた人」です。医療従事者・研究者としては間違っているのかもしれませんが奇跡は起こらないのだろうかとも思います。これ以上頑張れとは言えないですが・・・

ご本人に確認をとっていないので、直接リンクは張りません。興味のある方は検索して、是非一度ブログをご覧ください。