2020年11月14日

トランプが残したもの、バイデンが見ようとしないもの


「THE正論 ~「正論」編集部の彷徨記」様より

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THE正論 ~「正論」編集部の彷徨記


日本を想い、日本を愛する―。オピニオン誌の最前線を彷徨する雑誌「正論」編集部員が本音を綴ります。


雑誌「正論」は1973年10月1日に誕生しました。雑誌「正論」は何を訴えているのか。その答えとなるのが、創刊第4号に文芸評論家の佐伯彰一氏が寄せた「国民とは何か―定義するための覚書」の一節です。「一体『国民』とは何か。/ぼくなりの定義としては、時間的なタテ軸を、歴史的、文化的な連続性をまず強調したい。・・・途切れざる連続性にこそ、日本の文化、文学の特質があり、日本人の精神生活の際立った特徴をなしている」。日本という国を拓き発展させてきた父祖に感謝し、敬い、その偉業を学んで子孫に責任を持って伝えていく役割を国民一人ひとりが意識すること。この「時間的なタテ軸と連続性」を意識することは、保守の根本的な立場です。弊誌は、この「時間的なタテ軸の連続性」を意識する立場を編集方針の「定義」として守り続け、これからも「国民」と共に、歴史をめぐる闘いの最前線に立ち続けたいと思います。


アメリカの大統領選挙は、現時点(2020年11月8日)でバイデン候補の勝利はほぼ確定した。


トランプ大統領は今後不正選挙を訴えて訴訟に持ち込む模様だが、私の判断ではそれはほぼ無効と思われるため、以上を前提として論を進めたい。


トランプ大統領個人の評価を越えて、現代のアメリカは、少なくとも60年代に始まる「文化運動」を抜きにしては語れない。


1960年代のアメリカは、カウンターカルチャーの勃興期だった。


性の解放、ドラッグとヒッピー運動、ベトナム反戦運動、公民権運動、黒人やマイノリティの権利獲得運動、そして学生運動など「文化運動」と「政治運動」が同時に発生したのだ。


しかし、政治運動は次第に過激化してゆく。キング牧師、そしてマルコムX暗殺後の黒人運動は、一部はブラック・パンサー党の武装化や暴動に至った。


白人学生運動の中からも、ウエザーマン派のような爆弾闘争を決行したグループが生まれた。街頭や大学を「解放区」として占拠し自治を要求するバークレー大学の運動などは、今回のBLMやUNTIFAの中でも再現されている。


しかし、運動の過激化は、一般市民からの孤立を生み、ニクソン政権によるベトナム撤兵以後、急速に政治革命は収束する。


だが「文化運動」は、アカデミズムやジャーナリズムの世界に定着した。マイノリティの価値観を認める文化相対主義が推奨され、差別反対運動はポリティカル・コレクトネスを生んでゆく。


社会制度上は、歴史的に差別されて来た黒人には入学試験や就職面で一定の優遇措置を与えるアファーマティヴ・アクションの施行、貧困層のための福祉制度の強化などが行われた。


一方で、勤勉、キリスト教信仰、家族意識、アメリカンドリーム、減税を原則とし国家や社会制度に頼らぬ自立精神などは、いずれも時代遅れで白人優位の価値観の押し付けとみなされた。


レーガン政権に代表されるアメリカの「保守革命」は、ある意味この文化運動への反抗だったともいえる。


しかし、ソ連・東欧の共産主義体制を崩壊させたレーガン政権だったが、その後のアメリカもこの文化革命の進行は止まらなかった。


グローバリズムの推進は、国内生産の低下、新たな富裕層・エリート層の形成と、本来アメリカを支えていたはずの農民や労働者階級の経済的没落を招いた。


いわゆるアメリカ中西部の「ラストベルト化」である。


トランプ大統領は、60年代の文化運動、90年代のグローバル経済、いずれからも見捨てられ、時には時代についていけない遅れた存在として軽蔑された人々、しかし、生まれた地域で生涯勤勉に働き、福祉にも頼らず、信仰と共同体の価値を信ずる、アメリカの原点というべき精神を抱き続ける人々に呼びかけたのだ。


「アメリカン・ファースト」という言葉は、少なくとも貧しい労働者にとって、福祉ではなく職業を、白人の伝統的価値観への回帰、他国への干渉よりも自国内の格差是正、不法移民とそれがもたらすドラッグの廃絶といった切実な要求を象徴していた。


トランプ大統領が現実にどこまで成果を出せたのかは議論もあろうが、少なくとも、それまでの政治に絶望していた白人労働者に、希望を与えたことは確実である。


これはもっと評価されるべきトランプ大統領の最大の功績だろう。