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2018/11/26 07:30

ヘルステックの勝機は医療現場の志とテクノロジーの融合にあり


Forbes JAPAN 編集部 FORBES JAPAN

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みやた・ひろあき◎1978年生まれ。保健学博士。東京大学大学院医学系研究科医療品質評価学講座の准教授を経て、2014年に同講座教授に就任。15年から現職。臨床データベースNCD(National Clinical Database)立ち上げに従事。


インテグリティ・ヘルスケア、京都大学の吉澤明彦准教授(日本病理学会のAIネットワーク)、メディカルノート、コニカミノルタを取り上げるにあたって、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の宮田裕章教授から協力を得た。日本は電子カルテの普及率が約3割にとどまるなどICT化の遅れが指摘され、世界のヘルステック産業でも存在感が乏しい。


宮田教授は、日本企業が世界の競争で優位に立つには「医療現場の志とテクノロジーの融合が必要だ」と話す。


─次世代のヘルスケアを担うイノベーターとして、4例を選んでいただきました。


その共通点を教えてください。


共通点は、「信頼」と「リスペクト」です。


例えばインテグリティ・ヘルスケアは、遠隔診療の普及に立ちはだかる大きな壁に穴を開けたといえます。


遠隔診療は、少子高齢社会の日本に多大な恩恵をもたらす可能性があるものの、対面診療を重視する医療従事者には抵抗感が強い。同社のYaDocは、現場の開業医をエンパワーメントするツールにすることで信頼を得ています。


─YaDocは、国内で初めて国家戦略特区での特例として、オンライン服薬指導が認められました。


開けた穴は小さく見えますが、大きな価値があります。


臨床現場からの「信頼」を得たことで、次の一歩に進めるのです。


メディカルノートや日本病理学会のAIネットワークも「信頼」を大事に、現場に支持されるプラットフォームを築こうとしています。


医療におけるICT化、AIの導入は程度の差こそあれ、今後のスタンダードになっていくでしょう。AIには評価・予測・介入の3段階があると言われています。


現在は、評価の部分で様々な挑戦が行われていますが、最終的にインパクトを出すには「介入」部分です。


その視点から考えると、現場との信頼関係の中で活用され続け、介入部分も含めた価値の高い情報を収集することができるシステムや取り組みに高い可能性があります。


─AmazonがPillPackを買収するなど、IT大手のヘルステック産業進出が本格化し、世界の競争は熾烈化しています。日本企業が遅れを挽回するチャンスはあるでしょうか。


コニカミノルタは技術的な強みをデータ駆動型のシステムと組み合わせることで、新しい可能性を生み出しています。


これまでは、技術的なイノベーションからニーズをつくりだすことが日本の企業の一つの勝ちパターンでした。


しかし、今後は使い方のデザインが求められています。職人を打ち負かすような最高精度のテクノロジーだけでなく、普及した技術を組み合わせてシステムイノベーションを実現することも重要です。


使い方をデザインできるのは人間です。職人たちが誇る技術に、探究心やアントレプレナーシップの精神を組み合わせれば、世界で優位に立つことは可能だと考えています。


─少子高齢化、人口減少が進む日本において、次世代型のヘルスケアには何が必要でしょうか。


高齢化は社会問題だといいますが、本当にそうでしょうか。長寿は本来いいことです。


重要なのは健康寿命を延ばすことです。


慶應大学精神科の調査によると、認知症の社会的コストは年間15兆円に上ると推計されています。


認知症の多くは根本的な治療法が見つかっておらず、10年先までその状況は変わらないと言われています。


ただし、早期対応によって悪化を食い止めることは可能です。


病気を治すという視点も重要ですが、病気になる前の兆候を見つけてサポートを行うことで15兆円の資源が新しい可能性に変わります。


人々の多様な価値にあわせて、ヘルスケアのあり方も根本的に変わっていくでしょう。


医師の役割も変化しています。


海外では、医師の仕事がAIに奪われることを懸念する声をよく聞きます。


一方で日本は医師不足の地域が多い。


「私の後継者はAIだ」と言うシニアの医師もいます。


AIをトレーニングして、社会システムとして育て、次世代に渡す。


人手不足を補い、効率性を最大化しないと日本がもたないからです。


ピンチを逆手にとって、世界をリードする新しい社会システムをつくるチャンスだともいえるでしょう。


構成=フォーブス ジャパン編集部