「あたい」の市川春代スクラップブック その3 (豊田四郎「若い人」(1937)感想) | トトやんのすべて

トトやんのすべて

猫写真。
ブンガク。
および諸芸術作品への偉そうな評論をつづっていくブログです。

一か月ぶりの記事。

ようやく「あたい」のスクラップブック終わります。

が、はじめはちょっと別のはなし。

 

せっかくいい機会なので、市川春代出演作を見たわけです。

豊田四郎監督「若い人」(1937)

 

はじめに結論をいってしまえば、そんな大した作品ではない。

函館のカトリック系の女学校を舞台にした映画ですが、

同じ「教育もの」だったら清水宏のほうが――

「信子」とか「みかへりの塔」とかのほうがおもしろいし、作品の質も高いような気がするんですが

 

映画史的にみると……

豊田の「若い人」(1937)が評判になって、

そのあと 清水の「信子」(1940)「みかへりの塔」(1941)が出現する、という順番なので、

エポックメーキングなすごい作品ではあったのかもしれない。

 

ただ、繰り返しになるが、わたくしはそんな大した作品とはおもえなかった。

 

物語の軸は

・大日方伝(教師)

・夏川静江(教師)

・市川春代(生徒・問題児)

この三角関係にあるんですが、

 

大日方も夏川も、四角四面のつまらないキャラクターで

市川春代の怪演がひたすらに目立っている、という作品です。

 

↓↓これは東京への修学旅行のシーン。

戦前帝都好きのわたくしにはたまらなかった。

 

おそろいの帽子がかわいい。

 

市川春代は若干病的な……問題児。

 

清水宏の「信子」「みかへりの塔」にも 女の子の問題児が出てくるんですが、

たぶん、この市川春代の影響があるんでしょう。(推測)

 

大日方伝と。

おはなしの序盤。

夏川静江の女教師は 自分がひそかに好意を持っている大日方伝にむかって

(生徒の)市川春代の面倒をみたいなら、彼女と結婚なさい、とかめちゃくちゃなことを言ったりします。

 

そこらへんからして現代の人間はついていけない感じ。

現代のモラルから大昔のシナリオの価値観を責めたりするのはよくないが、

これは行き過ぎだろう。

 

しかし、当時の評判は良かったらしいんである。

 

 重宗務の主宰する東京発声に移った彼女は、ここで豊田四郎の演出で「若い人」(昭和12年)をとった。石坂洋次郎が『三田文学』に連載した長篇で、彼はこの一篇で一躍、流行作家になるのだが、市川春代もまたこの一作で天下のファンを唸らせた。暗い北の港町に母と二人の生活をする女学生の、どこかエキセントリックな性格、それを彼女は実にいきいきと演じ、先生役の先輩・夏川静江を完全に食うありさまだった。大日方伝の先生も、やはり彼女の魅力には遠く及ばなかった。彼女の激しい性格、エキセントリックな行動ぶりに、われわれの世界ではエキセンという言葉が流行したくらいだから、いかに強い感銘を残したか想像にかたくあるまい。

(現代教養文庫、猪俣勝人、田山力哉著「日本映画俳優全史」251ページより)

 

なるほど、市川春代ひとりだけが輝いている、という作品です。

 

「あたい」は「若い人」見たのかな?

このスクラップブックはたぶん、「若い人」(1937)より前に出来たもののようにおもわれます。

 

「若い人」の頃は、もう別の俳優・スターに夢中だった可能性もあるな。

結婚・子育てで忙しい、という可能性だってある。

「あたい」の年齢がわからないので、なんともいえんが。

 

□□□□□□□□

閑話休題。本題に移ります。

〇52ページ―53ページ

洋服と和服の組み合わせ。

 

52ページは多色刷り。

カラー印刷の切抜はこれと、あと3ページの切抜だけです。

 

例によって斜めにスパッと切り裂く「あたい」

一体何のページを切り抜いたのか?

 

53ページ。

やっぱしこの頃の日本女性は和服の方が似合っていた、

とつくづく思う一枚です。

 

ハル坊の

子役時代の苦労話がいろいろ書いてあります。

 

〇54ページ―55ページ

 

女学生二人。

背景はどこだろう?

なんとなくアントニン・レーモンド先生の東京女子大学のような気もするが……

 

違うな。

左側にチラッと和風様式の建築がみえているあたり、違う。

どこでしょうね?

 

セーラー服がなんかもっさりしているのに

和服がキリっとしている。

わざとか??

 

現代の日本人は、セーラー服への妙な信仰があるが、

戦前は……自分が読んだり見たりした限りでは セーラー服信仰みたいのはないような感じがする。

 

やっぱり戦前の人にとっては

セーラー服=水兵さんの制服だったんだろうか。

 

セーラー服信仰は帝國海軍の滅亡と関係があるのだろうか?

 

〇56ページ―57ページ

 

謎な一枚。

おなじみ夏川静江との安定コンビ。

 

老け役をやったんでしょうねえ。

 

〇58ページー59ページ

 

左側は伏見信子かなぁ??

夏川静江かもしれない。ちとわからない↓↓

 

こういう写真をみると、戦前の男子の 和服+日本髪への執着の意味がわかります。

 

しかし乳母車ねえ。

こういう形の乳母車は不穏な予感しかしない。

はたして階段を転げ落ちていくのでしょうか……

 

〇60ページ―61ページ

 

60ページ。ゲレンデの樣子などありますが、

あまりいい表情ではない。

ハル坊、長野の人らしいのでスキーできたのかな??

 

右側はしつこく

例の珍万軒(チンマンケン)

万は旧字の「萬」ではない。

 

一体どんな映画なのか??

夏川静江の看護婦姿が清楚です。

 

〇62ページー63ページ

 

マゼンタ色で刷られたこれは↓↓

 

子供時代? 子役時代?

わからないが、たぶんそうなんだろう。

 

〇64ページー65ページ

 

夏川静江との安定のペア

この写真は前にもお目にかかりました。

 

ハル坊は何を抱えているのか?

まさか、骨壺じゃあるまいな?

(なんかサイズがそんな感じがするのよ)

 

これは片岡千恵蔵との一枚。

千恵蔵はタバコなんか手にしているから なにかの映画のスチールではなくて

撮影の合間の1ショット、なんでしょうか?

 

〇66ページー67ページ

 

66ページ ええと。この俳優さんは誰ですか。

超有名人だったりしたら恥ずかしいが。

 

新婚夫婦、みたいなショット。

カメラが気になる。

 

〇68ページー69ページ

 

68ページ

かわいいが

ごてごてした衣装。

 

この見開きはナルシスティックな印象がある↑↓

 

〇70ページー71ページ

 

70ページ

ハル坊は、こういう夢見る乙女、みたいなポーズが多い。

 

この衣装はシンプルでいいな。

戦前の洋服は68ページの写真じゃないが妙に装飾過多なところがある。

へんなところに刺繍がいれてあったりして。

 

帽子の羽根とネックレスはごてごてしているが。

背景もシンプルでよろしい。

と色々偉そうなことを書いてます。

 

〇72ページー73ページ

 

終りに近づいております。

 

〇73ページ

 

ここで「あたい」のスクラップブックは終わります。

 

 

スクラップブック全体の構成をみますと――

こういう凛々しい、ちょっとふてぶてしいような表情の一枚ではじめて……↓↓

どこか夢幻的な……

夢の中の一シーンのようなショットで終らせるという

この構成がすばらしいとおもいます。

 

服装で比べてみても

1ページ→革手袋にヴェールという重装備。

73ページ→水着。限りなく裸に近い。

 

この対照がすばらしいです。