小津安二郎作品の服装調査 その22b「晩春」(1949)笠智衆ほか | トトやんのすべて

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および諸芸術作品への偉そうな評論をつづっていくブログです。

「晩春」(1949)服装調査・後編です。

笠智衆

杉村春子

宇佐美淳

三宅邦子

月丘夢路

の服装を調査いたします。

 

表に関して、追加で説明しますと、

・笠智衆の服装の変化は多いです。

ただし初期作品の主人公(学生たち)のように 洋服(外の世界)→和服(普段着)の変化ばかりで

服のバリエーション自体は多くはありません。

また、表のS95 S101 S102 などはすべて結婚式用のモーニング姿です。

帽子をかぶったり、上衣を脱いだりという小さな変化だけです。

・同様に、杉村春子の S74 S76 S81も同じ着物で、

草履を脱いだり、風呂敷包みを抱えたりという小さな変化だけです。

 

以下、キャストごとにみていきたいとおもいます。

・笠智衆

S9

笠智衆は東大教授という設定。

自宅で原稿の清書をしています。

和服。

メガネをかけていますが、老眼鏡でしょうか。

(モノを読んだり書いたりする時にかけているので)

 

弟子の宇佐美淳のほうはスーツ姿です。

 

「晩春」以降、小津は 若い男性主人公をあまり描かなくなっていきますが、

和服(普段着)→洋服(外出時) というリズム自体は

初期作品の若い男性主人公と一緒です。

 

S14

出勤時の服装。

スーツにきちんと中折れ帽をかぶっています。

 

S26

自宅にいますので和服(普段着)

小料理屋「多喜川」で忘れた手袋が戻って来たところ。

 

やはり「手袋」はお気に入りの小道具のようです。

 

S31

東京にある妹の家を訪問。

洋服……スーツ姿です。

S14のスーツと同じかな??

 

ネクタイの柄、

このあとの能楽堂のシーンのネクタイと一緒です。

あまり服装にはこだわらない人物と描かれていますので、

普段はこれ一本なのか?

同じ柄が何本かあるのか?

 

で、帰宅。

S34

小津作品お決まりのお着替えシーン。

 

唐紙やら家具やらを使った鮮やかな着替えです。

 

何度見ても感心してしまう。

 

S37

で、着替え完了。

和服になります。

 

S43

老眼鏡をかけて新聞を読んでいる。

と、月丘夢路が原節子をたずねてくる。

 

S45

老眼鏡をとったところ。

 

月丘夢路との会話。

 

S55↓↓

これは、とくに服装がかわったわけではないので表には書いてないですが、

足の爪切り。

和挟での爪切り、相変わらずやってますね。

 

S62

能楽堂のシーン。

前回書きましたように、原節ちゃんの服装はガラッと変わります。

おそらくそれを引き立てるためもあってか、

笠智衆はいつものスーツ。

 

上述の通り、

S31とおなじ柄のネクタイです。

 

S63

中折れ帽にステッキ。

 

原節子とのカットバックのところ。

 

S71

和服。

とにかく スーツ→和服→スーツ→和服 の繰り返し。

能を見に行く、というような特別なイベントであっても、いつものスーツを着ていきます。

 

まあ、社会全体がまだまだ敗戦のダメージから回復していない状況ということもあるのでしょうが、

この曾宮周吉という人のキャラクターでもあるのでしょう。

 

・外出時はかならず洋服(スーツもしくはワイシャツ&カーディガン、帽子、ステッキ)

・自宅にいる時は和服を着て、端然と座っている。

という確固としたルールのある、明治生まれのインテリ、というキャラクター。

 

お見合いの話を切り出すところ。

原節ちゃんとの対比。

S74

鶴岡八幡宮のシーン。

外出時はとにかく洋服、というルール。

ステッキ、下駄という組み合わせがおもしろい。

 

あと小津安っさんは「カーディガン」が好きですね。

 

真正面からのバスト・ショット。

 

S76

で、帰宅すれば律儀に和服です。

 

 

 

で、京都旅行。

S84

S74と同じカーディガン。

スラックスも同じものか。

 

寝台列車で京都に朝到着したところ、という設定です。

電車の中で寝て、起きて

寝起きの歯磨きを、旅館でしている、というわけ。

このあたりは現代人にはわかりにくい。

 

ここも、まあ、メインは純白スカートの原節子ですから、

笠智衆はできるだけ目立たないような格好です↓↓

 

シャツは鶴岡八幡宮のシーンとは別のモノか?

 

S88

清水寺のシーン。

律儀にスーツを着て 中折れ帽&ステッキ。

 

左の和服姿の婦人は坪内美子。

坪内美子はスクリーン上では和服しか着ない人であるらしい。

当然、ここでも和服。

……そのくせ、この人は

お酒に酔うとまわりの人をつねったり引っぱたいたりするクセがあるとか(笑)

(「小津安二郎・人と仕事」に書いてあった)

 

S90

寝間着姿。

目を細めたところが小津その人にそっくり。

 

原節子とのカットバックのところ。

ヘビースモーカーですな。

S91

竜安寺のシーン。

スーツ姿。

かたわらに帽子を置いて。

 

S93

再びカーディガン姿。

 

ここは……原節ちゃんが

「このままお父さんといたいの……」

などといってゴネる、この作品のクライマックスですから……

 

笠智衆の衣装のザラっとしたテクスチャーと↑↑

原節子の純白ブラウスのツルっとしたテクスチャーの↓↓

 

対比。というのも非常に効いているでしょう。

こんなことは今まで気づきませんでした。

S95

結婚式の朝。

礼装。モーニングです。

バスト・ショット。

手持ちの本だと、モーニングの時のネクタイは

シルバー主体の縞柄にすべし、とありますが、

そのルール通りではない。

 

もちろん全体の画調を考えたうえで このネクタイなのでしょう↓↓

銀色のピカピカは、確かにこの作品のイメージではない。

カラー作品だったらありだったかもしれないが。

 

杉村春子も礼装。

S97

花嫁姿の原節ちゃんと。

S100

多喜川にて、えんえん同じ格好。

式が終わったんだから、

上衣など脱げばいいのに、とも思うが。

 

うしろからみたところ。

凝ったセットです。

 

S101

帽子をかぶっています。

いつもの帽子かな?

本来の西洋のルールに従うと モーニングの時の帽子は、黒のシルクハットである由。

 

S102

コートを壁にかける。

 

ようやくモーニングの上衣を脱ぐ。

 

で、リンゴのシーン。

これで笠智衆の調査は終了。

 

お次。

・杉村春子

S4

この人は、まるで初期小津作品のヒロインのように、えんえん和服です。

あまり和服を着ない原節子と好対照です。

(このことは三宅邦子にもあてはまる)

 

バスト・ショット

 

S31

普段着も和服。

 

こんな柄です。

和装に関しては説明能力なし。

 

S50

これは、S31と同じ格好だとおもうのだが、

バスト・ショットになると

なんとなく、半襟のところが違うような気もする。

あるいは照明の当たり具体によるのか?

S74

鶴岡八幡宮のシーン。

 

新しく見る縞の着物。

 

S76

草履を脱いで……

S81

また草履をはいて、

風呂敷包みをもって帰宅。

 

で、さいご

S96

礼装。

 

 

 

・宇佐美淳

S9

スーツ。

この人はえんえん洋服です。

「服部さん」は、

世代的に言うと、戦場を経験してきた世代……

当時。「アプレ・ゲール」などと言われていた世代でしょうか。

 

小津好みの 彫刻的な横顔ではないかな。

 

S28

自転車デートのシーン。

小津安っさんはやはりカーディガンが好き。

 

S39

喫茶店のシーン。

スーツです。

 

原節子とのカットバック。

ランプシェードというのも好きだね。

 

S60

スーツ姿。

S39と同じ格好なのかもしれないが、

ロングのショットしかないのでよくわからない。

 

この突き放したような表現というのも、

「服部さん」が結婚してしまった、というのをうまく表している。

 

S61

写真の中の宇佐美淳。

モーニング? でしょうか?

男性は洋装。女性(お嫁さん)は和装。

これを特に不自然におもわないのが日本文化。

 

「写真」になってしまう、ということは、小津作品において 一種「死」を意味しているようでもあります。

(「東京暮色」の有馬ネコちゃんがそうですし、「長屋紳士録」の写真館のシーンもそうです。「戸田家の兄妹」のオープニングもそうか)

 

S95

おもしろいのはここで……

ラストの宇佐美淳は、なんだかS61の写真から そのまんま抜け出てきたかのような印象です。

 

はい。お次。

・三宅邦子

S4

「晩春」の三宅邦子は登場回数は少ないし、

セリフはほとんどないし、

けれど、本当にキレイです。

 

この人も杉村春子同様、和服オンリーです。

 

S51

ここが唯一セリフがあるところかな。

女優さんとしては「おいしい役」ですね。

苦労してないのに、目立つ、という。

 

S62

能楽堂のシーン。

 

ここも、なんというか、大人の色気ムンムンといった感じで、

原節ちゃんの「紀子」が嫉妬するのもムリはない、という印象。

 

ようやく服装調査さいごです。

・月丘夢路

S45

この人は洋服しか着ない、というキャラクター。

初期小津作品のモダン・ガアル達の正当な後継者といったところか。

 

なにやらピカピカ華やかな生き物が降臨してきた、という印象。

小さな革のバッグ。

同時期の原節子は、例のバカでかいバッグを使ってました。

 

で、これは 明らかにミスなんですが……

こんなミスは今まで気づかなかった。

(たぶん有名なんだろうが)

 

S47

突然ブレスレットをしています↓↓

 

まあ、ミスではないとすると、階段をあがる途中に、

急に思いついて ブレスレットをはめた、ということになります。

S67

自宅にて。

エプロン。

 

エプロンを取ったところ。

女性でもやっぱりカーディガンを着せたがる。

 

ここらへんの、なんというか身のこなしは ザ・宝塚、という感じ。

舞台でも見てるかのように颯爽としている。

こういう月丘夢路の身のこなしは原節子には全然みられない部分。

(原節ちゃんがいいとか、悪いとかいう意味ではなく)

 

S68

表にはないですが、

このシーン……

東郷青児の絵をバックにした、このショットは好きなので載せておきます。

 

原節子の「紀子」と釣り合いをとることを考えると――

やっぱり月丘夢路、淡島千景あたりを持って来るしかなかったでしょう。

 

S75

別の柄のブラウスの登場。

水玉柄かな?

背中にボタンがあります。

女中のふみやに留めてもらうのかな。

 

前々回の……「落第はしたけれど」の分析で、

小津作品のヒロインは全知全能である、というようなことを書きましたが、

このシーンの月丘夢路が原節子に伝えるのも……

 

アヤ「平気よ。平気々々イ。とにかく行ってみるのよ。で、ニッコリ笑ってやンのよ。すると旦那様きっと惚れてくるから、そしたらチョコッとお尻の下に敷いてやンのよ」

と、いかに男性を支配するか? という内容です。

 

ここで気になるのは――

「晩春」でしきりに登場する聖なる数 「3」です。

 

あと――手の指がとんでもなくキレイ。

 

S100

多喜川のシーン。

ドレス姿です。

 

左手の薬指に指輪が見えるのが謎。

これもミスか?

月丘夢路に関してはミスが多い。なにか理由があるのかな。

 

 

こんな顔で笠智衆をみつめて

キス。

そして重要なセリフ。

アヤ「おしまい」(と盃を伏せる)

 

「晩春」という作品の「おしまい」を告げるのは月丘夢路なのです。

 

聖なる数「3」

笠智衆へのキス

「おしまい」というセリフ

 

どうみても月丘夢路は

笠智衆の亡くなった妻、原節子の亡くなった母

その女性によく似ている女性なんだろうとおもわざるをえません。

 

以上、「晩春」(1949)の服装調査でした。