蛇・にょろにょろ問題④ 今野緒雪「マリア様がみてる」全39巻・完読マラソン  | トトやんのすべて

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猫写真。
ブンガク。
および諸芸術作品への偉そうな評論をつづっていくブログです。

はい。がんばって完走いたしました。

夏休みの読書感想文とかで、「マリみて」を選ぶ勇者は――さて、いるのかな(笑)

 

①今野緒雪はにょろにょろフェチなのではないか?

(長くてにょろにょろしたものに異様な執着がある)

②紅薔薇三姉妹(祥子・祐巳・瞳子)は、ヘビ三姉妹なのではないか?

この2点を中心に 「マリア様がみてる」を解読しようとしております。

 

28,「クリスクロス」

作中の時間:某年2月

 

(寸評)

「マリア様がみてる」はこの作品で終わり、だとおもってます。

瞳子の、あの発言で。

 

ミハイル・バフチン「ドストエフスキーの詩学」で、何か所か

「最後の言葉」

というのがでてきて、

このロシア人のオッサンは一体何のことをいってるんだろう? とおもったのですが、

あれって、瞳子のあの発言のことを言ってるんじゃないか、などと今はおもうのです。

本来はユダヤ・キリスト教の文脈で解釈すべきものなのだろうとはおもうが、

バフチンおじさんに「マリみて」を読ませたら、案外うなずいてくれるのではなかろうか?

 

「天空の城ラピュタ」の「バルス!」ではないが、

あの言葉で「マリみて」世界は崩壊し、以降、なんだか松平瞳子というキャラクターは生気をなくしてしまうような気がしてしまう。

もちろん 由乃-菜々がまだ姉妹になっていないわけですが……

彼らの間に何かごたごたは起きそうにないわけですし……

 

タイトル「クリスクロス」――

音が、KSKSですね。佐藤聖に対する加東景のように。

「祥子さま」―「柏木さん」もそうだな。

傑作「涼風さつさつ」もそうです。

 

「お宝探し大会」という「ゲーム」が描かれるわけですが、

・ゲームのルールが進化する。

・ゲームに読者を参加させる(まあ、推理小説がやっていることではあるが)

というあたり、さすが、今野緒雪です。

「ウァレンティーヌス」を細かくアップデートさせて、読者に提供するわけです。

実に丁寧な仕事です。

 

p46

「弱い部分を突きつけられるのが、何なの? それは確かにきついけれど、耐えられないことではない。そんなことより、祐巳と一緒にいられなくなる方が辛いわ。私はね、今の自分に嫌な部分があるのなら、祐巳という鏡に映りながら、その部分を好ましく変えていけばいいと思うようになったのよ。真っ直ぐな若木がうらやましいのなら、もたれながらでもいい、巻きついてでもいい、一緒に太陽を目指して枝を伸ばそう、って決めたのよ」

(瞳子&祥子。祥子さまのセリフ。校舎内廊下にて)

 

「鏡」モチーフは「マリみて」によく登場するのですが、

吉野裕子先生によると 「鏡」は「蛇」と深い関係があるようなのです。

 

 鏡は蛇の目との相似から、蛇目(カカメ)とよばれ、転訛して「カガミ」となったが、時代が移るにつれてこの「カガミ」は鏡を意味すると同時に、「蛇」そのものの意味ともなった。蛇の目は呪力に満ち、蛇そのものを象徴するに足るものとして古代人によって捉えられていたからである。

(法政大学出版局、吉野裕子著「蛇 日本の蛇信仰」100ページより)

「祐巳という鏡」

「巻きついて」

……ヘビ三姉妹の長女・祥子さまが 三女・瞳子をお説教するのにこれ以上のセリフはない、わけです。

 

(「マリみて」と「鏡」ですが――

……聖-志摩子の白薔薇姉妹のエピソードにでてくる「鏡」は なんとなく新約聖書の「鏡」……タルソスのパウロのいう「鏡」のイメージなのかもしれない、という気もする。ただ今野先生、あんましキリスト教には詳しくないような気もして……わかりません)

 

p96

(ああ、それにしても)

 カードを探しにいける状態でありながらそれが適わず、ただタイムリミットが来るのを待つのみという、蛇の生殺し状態はあとニ十分以上も続くのか。

(令さまの心理描写。校内、銀杏の並木道にて)

 

「クリスクロス」……さすがに気合がはいっているからでしょうか?

「蛇」が三か所も登場します。↑↓

 

p149

「祐巳」

 名前が呼ばれた。

「は、はい」

 蛇に睨まれた蛙、ってこんな感じなのだろうか。どうにか返事をすることはできたが、身体が硬直して身動き一つできない。

 祥子さまがゆっくり、祐巳のもとに歩きだした。

 硬直が解けて、今度は震えがやって来た。

 ガタガタという手足の震えと、心臓の激しい鼓動、心臓に押し出されて全身を駈けめぐる血液。もう、身体がどうにかなってしまいそうだ。

(祥子&祐巳。薔薇の館にて)

 

この巻。えんえん祐巳ちゃんは動かないんですけど、

わたくし的には ヘビ娘・祐巳がトグロをまいているんじゃないか? とみております。

ちなみにトグロは――

 

 トグロを巻く姿勢は、蛇にとっては特に努力のいる動作であるらしい。一番楽な姿勢と考えがちだが、そしてそういう場合が多いが、トグロを巻いたまま死ぬ蛇がいないところをみると、われわれが寝るときのような楽な姿勢とはまるで意味がちがう。

 トグロは蛇にとって身を守る一番安全な姿であり、敵に対して、どのようにでも対応出来る姿勢なのである。

(同書、9-10ページより)

だそうです。ヘビもがんばっているらしいです。

 

p151

「祐巳さまっ!」

 そこに現れたのは、予想だにしていなかった人だった。

 ――松平瞳子。

「瞳子ちゃ……」

 瞳子ちゃんは、熊でも一頭倒してきたみたいな荒々しい息づかいで、祐巳を睨むように見据えていた。

 トレードマークの縦ロールが、見る影もなくグチャグチャに絡んでいる。

 目の錯覚だろうか、二月の平均的な寒さの中で、彼女の制服からは湯気が立ち上っているようにさえ見える。

 さっきの祥子さまが蛇なら、今の瞳子ちゃんには「なまはげ」の怖さがあった。

(瞳子&祐巳。薔薇の館にて)

 

「蛇」の登場、三か所目。

この瞬間に、祥子-祐巳-瞳子 のヘビ三姉妹が完成されるわけですから、

――、完璧です。

明らかに意識してますよね、今野先生。

 

p178

「うーん、だめかー」

 ランチでメリーさんでゴロンタの、リリアン女学園在住メスのトラ猫に見立てられたシャーペンは、それからしばらく諦めきれずに校内を縦横無尽に駆けめぐっていたが、やがて芯がポキリと折れたのをきっかけに、ピタリと動きを止めた。

(由乃さん。薔薇の館にて)

 

 トリックスター・由乃さんがとんでもないことを考えるシーン。

 たぶんシャーペンで書いた線は「にょろにょろ」しているはずです。

 

 

29,「あなたを探しに」

作中の時間:某年2月。

(寸評)

「クリスクロス」で「マリみて」は終わった!――などと偉そうに書いた手前、

「あなたを探しに」を褒めるわけにはいかないのですが……

 

p152

 でも、リベンジってのはいいアイディアかもしれない。リベンジという単語が攻撃的でいい印象ではないのなら、上書きでもいい。しょっぱい思い出の場所を、愉快な場所に塗り替える。それはとてもいい。賛成、って思わず手を上げたくなった。

(由乃の心理描写。田沼ちさととのデート)

 このシーンは、なにやら「マリみて」の基本構造を美しく描いていて、感動するより他ないわけです。

 

つまり、

◎「マリア様がみてる」=「壊れたものの回復」

なのです。(テストに出ますよ!)

 

「あなたを探しに」の、祐巳-瞳子の小旅行がいい例です。

回復のために、健気な少女たちが編み出すのが トマス・ピンコのいう「儀礼」「ゲーム」なわけです。

ついでにいうと、祥子さまはなにかというと「リベンジ」したがりますね(笑)

 

p11

 二人の間に、何か誤解が生じているはずだった。だからしばらくは距離を置いて、急激に上った血が瞳子ちゃんの頭から引くのを待ってから、絡んだ糸をほどくように、その誤解をといていこうと思っていた。多少、時間はかかるかもしれない。腰を据える覚悟もした。

(祐巳の心理描写。薔薇の館にて)

「糸」という「にょろにょろ」

というか、「糸」の比喩は頻出しますね。

 

p51

 翌日。

 前日に緊張して椅子に座りっぱなしだったのが原因と思われる、軽い腰痛と筋肉痛を抱えて登校すれば、祭りの後に薔薇の館で「兵どもが夢の跡」なんて一人黄昏れていたのが嘘のように、リリアン女学園高等部は結構な騒ぎであった。

(祐巳の心理描写。二年松組の教室にて)

 

祐巳ちゃんの座りっぱなし作戦はやはり「トグロ」だったのではないか?

などと疑わせる一文です。

 

p83

「あ、じゃないわよ。あなた、ずいぶんご無沙汰じゃない。イベント終わったんだから、そろそろ剣道部に出てきなさいよ」

「……そうね」

「せっかくお隣に道場があるのに、どうせ帰宅したって竹刀握ったりしていないんでしょ」

「……まあ」

 藪蛇だった。選挙とかイベントとかにかこつけて、結構部活をサボっていたのだ。どうせ令ちゃんは来てないし。寒いしで。

(田沼ちさと&由乃。二年菊組の教室にて)

 

藪蛇……「ヘビ」が出てきましたのでね、書き写しました。

田沼ちさと&由乃、なんですが、

↓↓ キツネも登場します。

 

p162

「あれま。本当に、純粋デートなんだわ」

 取り残された二人は、狐に摘まれたような顔をして見送った。

 キツネの柵は、残念ながら逆の方向だったけれど。

(田沼ちさと&由乃。動物園にて)

 

「キツネ」は由乃さんの文脈で登場するパターンが多いような気がする。

いまいち確信が持てないですが、

狐=トリックスター=由乃の構図です。

 

p192-193

 事故現場に行ってからこっち、おとなしくなっちゃったと思ったら、いきなり「大嫌い」パンチ。その上、祐巳のドロドロを肯定する。普通は「そんなことありません」くらい言って、フォローするものではないのか。しかし、萎れた花より、棘むき出しで咲いている花の方が瞳子ちゃんらしいと、座った左側にぬくもりを感じながら祐巳は思った。

「ドロドロした部分がない人なんて、人間らしくありませんもの」

 瞳子ちゃんは小さく笑って、「だから」と言った。

「私はきっと祐巳さまのようになりたかったんです。なりたかったのになれない。それでうらやましくて、悔しくて、反抗して。もう側にいない方がいいとさえ思ったのに。祐巳さまってば、私が必死でこしらえた垣根を、どんどん壊してやって来るし」

「人を怪獣みたいに言わないでくれる?」

「本当のことですもん」

 瞳子ちゃんは、しらっと言った。私は怪獣に押しつぶされまいと必死で逃げまどう市民でした、と。

(瞳子&祐巳。電車内にて)

 

祐巳さま=怪獣――、と瞳子が語るわけだが、

とうぜん思いだしたいのは、「プレミアムブック」所収の短編で

祥子さま=怪獣

なる構図が出てきた点です。

 

そして怪獣というと 巨大爬虫類なわけです。当然。

 

30,「フレーム オブ マインド」

作中の時間:さまざま

 

(寸評)

表紙に大きく蔦子さん、そして タケシマツタコと書かれたフィルムをめぐるおはなし

フィルム=にょろにょろ

な、わけですが――

 

わたくしとしましては、「温室の妖精」!

何度読んでもすごい、傑作短編だとおもいます。

・名前・コトバがテーマ

・リリアンとはまったく別のシステムで動く世界。

これは、リリアンのシステムが強固にできているがゆえに構築できる世界なのでしょう。

そういや「マイ・ネスト」もそうです。

 

繰り返しますが 「マリア様がみてる」は実質、「クリスクロス」で終ってしまったわけです。

瞳子の、あの発言で。

そして。

「フレーム オブ マインド」「リトル ホラーズ」

所収のすさまじい短編群を目にすると――

今野緒雪の興味はもはや「祐巳ちゃん物語」にはなく、

「お釈迦様」およびリリアン女学園舞台の短編に向っているのではないか? という感じがしてしまう。

 

p57

 いわゆる「黄薔薇革命」と呼ばれる、妹から姉に姉妹解消を宣言するという前代未聞のその事件は、少なからず生徒たちに衝撃を与え、一時は由乃さんの真似をしてロザリオを姉に返すパフォーマンスが流行った。

 私も、その時期に栄江さまとお別れした。

「どうして」

 私の首から外されたロザリオを見て、栄江さまはキツネに摘まれたような顔をした。

(「三つ葉のクローバー」より)

 

キツネですよ。「マリみて」はキツネ&ヘビでできているのですよ。

そして 黄薔薇=由乃=キツネ なのでしょう。

気になる方は吉野裕子先生の「狐」を読んでみてください。

 

p107

 その時、江利子は見たのだ。彼女の指先から伸びる、黄色く光る一本の糸を。

(「黄色い糸」より。鳥居江利子さまが支倉令さまをはじめて目にしたときの描写)

p122

「単刀直入に聞くわ。私の妹にならない?」

「は?」

 突然の申し出に、「支倉」はキツネに摘まれたような顔をしてみせた。そのことも、江利子を十分満足させた。

(「黄色い糸」より。鳥居江利子&支倉令)

p127

「そうね……、手始めに教えてもらおうかしらね」

 お姉さまになったばかりの、江利子が言った。

「あなたの下のお名前を」

「えっ」

 「支倉」改め妹は一瞬絶句し、それから笑いながら宙に右手の人差し指を走らせた。

「令」

 そう書いた彼女の人差し指から、光る黄色い糸が伸びている。江利子は自分の指を前にかざして、そっとその糸を巻き取った。

 たぶん、窓から差し込む夕日の、悪戯だったのだろうけれど。

(「黄色い糸」より。鳥居江利子&支倉令)

 

また、黄薔薇=キツネです。

あ。というか、鳥居江利子様……鳥居……お稲荷さん……キツネか……

 

糸=にょろにょろなんですけど、

そういえば 「ステップ」にも「糸」がでてきますね。

なんでそうなのか? というと……

いや、ネタバレになるのでやめておきます。

 

p225

 ぼんやりしていてミルクホールの場所を間違える生徒がいるだろうか。もしかして、これはキツネかタヌキに化かされているのではないか――。

(「ドッペルかいだん」より)

p228

 アリコが、顔を寄せ合う二人に向けてカメラを構える。水奏は、言われるままにポーズをとった。もう、アリコが狐狸の妖怪だって構わない。出来上がった写真をネタに一本作品を描いてやろうという、半ばやけくその境地だった。

(「ドッペルかいだん」より)

p230

「ははは」

 涼子さまは、水奏の肩を抱いて笑った。

「で、そのいちご牛乳はどうしたの?」

「キツネにもらったんです」

(「ドッペルかいだん」より)

やけにキツネが登場する巻です。

このあたりをみても ヘビ娘・祐巳ちゃんのおはなしは終わってしまったんだな、と確認できます。

 

「温室の妖精」が一番好きなのですが、「ドッペルかいだん」もいいですね。

民族学者・今野緒雪の本領発揮、な短編だとおもいます。

 

31,「薔薇の花かんむり」

作中の時間:某年2月~3月(p109に三月初めという記述あり)

 

(寸評)

ロザリオの授受は序盤であっさり終わってしまって、

あとは「三年生を送る会」のおはなし。

 

ひたすら少女たちの日常を描きます。

白・紅・黄 どこも平和。

おもしろいといやおもしろいが――

「クリスクロス」→「フレーム オブ マインド」の傑作短編群 と読み進めてくると、

なにか物足りないものがあるのは事実。

 

やっぱりどこかの姉妹が揉めてないとおもしろくないなあ(笑)

まあ、次の巻、大いに揉めますが。

 

p21

「あら、そうなの? 祥子さまは早めに来ていそうなタイプに見えるけれど」

「用事がなければこんな早くは来ない」

 低血圧だから朝は弱い。冬場は特に、身体も頭もエンジンがかかるまで時間がかかるのだ。

(祐巳とクラスメイトの会話。祥子さまの描写である。二年松組教室にて)

やはり祥子さまは爬虫類なのである(笑)

 

p42-43

「ですから」

 祐巳は言った。

「お姉さまの前で、儀式を行ってもいいでしょうか」

「え……」

 祥子さまは目を見開いた。赤い唇に添えた白い指が、微かに震える。

 たぶん祥子さまは、ここまでの道すがら祐巳が話すであろう内容をいろいろ想像してみたはずだ。だが、儀式のことまでは予測していなかったようだった。

 まるで突然大きな風が吹いて、穏やかだった水面に波が立ったみたいに動揺していた。

「お姉さま」

 祐巳は意向を尋ねた。

「いいの?」

 祥子さまは祐巳を見た後、瞳子ちゃんに視線を移した。瞳子ちゃんは「はい」と神妙にうなずく。

「二人の希望です。瞳子ちゃんも私も、お姉さまの前で、って」

(祥子、祐巳&瞳子。マリア像の前にて)

 

この会話の直前に

p42

「二人は姉妹になったのね」

 あまりに静かで、すみきった湖の鏡のような水面を思わせた。

「いいえ」

 祐巳は首を横に振った。

というのがあって、

 

重要なシーンに織り込まれた「水」イメージがなんとも美しいです。

紅薔薇姉妹=ヘビ姉妹=水 という別の意味もあるとおもいます。

黄薔薇だと 水面イメージは似合わないし

(「ハロー グッバイ」の由乃-菜々のようにコメディタッチになる)

白薔薇姉妹だと「花びら」とか「鏡」とかいう耽美的な小道具が登場するわけです。

 

p47

「瞳子、と呼び捨てにしてください」

「えっ」

 とっさの申し出にすぐさま対応できず、祐巳は前方よりの攻撃から身を守るみたいに身構えた。

(瞳子&祐巳。ロザリオの授受の直後)

瞳子=毒ヘビと、あらためて思うのであった。

 

p53

 令さまは明るく笑って、祐巳の肩をつかむと後ろから押した。

「しゅっぱーつ」

 汽車ぽっぽのつもりらしい。かなりのハイテンションだ。

p54

「去年のことがありますからね」

 ふっふっふ、と二人は汽車の前後で意味ありげに笑った。

p55

 突然、令さまは足を止めた。連結していた手前、機関車役の祐巳も引っ張られるように停車した。

「元気になったのはいいんだけれど。もう少ししっかりしてもらわないと」

 背後から、妙にしんみりした声が聞こえてきた。

「えっ」

「祐巳ちゃん。由乃のこと頼むね」

 不意打ちだった。

 こんな突然「遺言」を言われるなんて、心の準備もしていなかった。

(令&祐巳。三年生教室付近の廊下にて)

 

汽車、というにょろにょろです。

あと……令さまと祐巳ちゃんは 「無印」の頃から意外とイチャイチャしてますね(笑)

 

p70

 そう言うからには、志摩子さんのデートもレポートには書けないエピソードがあったということだろうか。えっと、何ていったか。志摩子さんとデートした相手の名前。カエルをアミで捕まえるみたいな感じの――。

(祐巳の心理描写。薔薇の館にて)

またでた、「カエル」

ヘビ娘・祐巳ちゃんの心理描写ですので、カエルの意味は深い。

 

p89

「できているなら、なぜ出さない」

 今度は背中を丸めて低い声を出した。まるで威嚇している猫だ。余計な仕事が増えたり、仕事が予定通りに進まなかったりするのが我慢ならないらしい。

(由乃さんの描写。薔薇の館にて)

由乃さんは動物っぽい描写が多い。

由乃さんは、どこだっけ、キャンキャン鳴く小型犬にもたとえられていたとおもう。

どこでしたっけ??

 

p109

 木曜日の放課後。

 

 リリアン女学園構内に一陣の風が吹く。

 三月初めであれば、まだ多少の冷気は含んでいる。しかし、強くも激しくもない風だ。

 花信風(かしんふう)、春嵐、東風(こち)、春一番。春吹く風の名前はいろいろあるけれど、吹いてくる方角も確定できなければ、その名で呼んでやることもできない。

 そんな風をまといながら、祐巳は足を進めた。その時、むしろ祐巳が風であったかもしれない。上履きのまま、下校する生徒を一人二人と追い抜いていく。目指す体育館は、もうすぐそこにある。

(祐巳、祥子さまとの待ち合わせのシーン)

ここ。ちょっとコメディタッチなんですけど――深い意味が隠れている、とおもいましたよ。

というか、わたくしの「マリみて」記事は 全部「深読み」なんですけど。。。

 

 諏訪明神に関して、「蛇を着る思想」はこのほかにもみられる。

 先にも述べた通り諏訪大祝(おうはふり)は諏訪明神の現人神とされ、諏訪神社の最高神官であるが、その神衣の紋様は梶の葉である。梶の葉は諏訪神社の神紋でもあるが、梶を解字すれば、木と尾である。蛇は頭と尾とで成り立っているようなもので、他の生物とこの点で非常に異なっており、蛇の蛇たる所以は正にその尾にある。陰陽五行思想において蛇はまた木気であって、その木と尾の取合わせである「梶」の字は蛇の象徴であろう。

 蛇はまた「風」と同気の四緑木気である。それ故に蛇神の支配する信濃は古来、風の名所とされ「風の祝(はふり)」がおかれていた。風はなにも信濃に格別つよく吹くわけでもないのに何故か、とこの点は謎とされて来ているが、私は以上のように解するのである。

(同書155-156ページより)

 

陰陽五行思想によると、「ヘビ」=「風」という構図があるそうなのです。

ヘビ姉妹……祥子&祐巳の決闘に「風」はふさわしいといえるでしょう。

 

p121

「ありがとう。でも、ジェットコースターには乗らないわよ」

「あれ、リベンジは?」

「ジェットコースターは最初から除外だもの」

 どうやら、それだけは譲らないようである。

(祥子&祐巳。体育館裏にて)

どうしてもジェットコースターにこだわる祥子さま。

やはり ヘビ三姉妹の長女としては にょろにょろしたものが気になるのでしょう。

 

p122

 祥子さまが、顔だけ祐巳に向けて言った。

「『burn one's bridges』」

「は?」

 諳んじられたそれは、格言とかことわざであろうか。しかしその英文を初めて耳にした祐巳には、すぐに意味を解することができなかった。

「今、橋を焼いたのよ」

 そう言い置いて、祥子さまは角を曲がった。

 

 家に帰って英和辞典を引いてみた。

 ――背後にある橋を燃やせ。

 つまり、『背水の陣を敷く』という意味だった。

(祥子&祐巳)

橋という「にょろにょろ」

「火」イメージでもあるが、「水」イメージでもある。

 

p174-175

 セットは、舞台左に立つ一メートルくらいの高さのポールのみ。

 典(つかさ)さんが瞳子の手の平に、自分の手を押し当ててしきりに動かす。

「『ウォーターよ、ヘレン。これはウォーター。W、A、T、E、R』」

 ヘレン、ウォーター、といえば、

(『奇跡の人』だ)

(三年生を送る会にて、瞳子が演劇部の部長と『奇跡の人』を演じる)

引き続きの「水」イメージ。

 

32、「キラキラまわる」

作中の時間:某年3月。

 

(寸評)

どこかの姉妹が揉めてないとつまらん! という私のリクエストにこたえて(笑)

由乃さんが大暴れ、という回。

なので黄薔薇メインの巻のようにおもえますが、

実質――

蔦子-笙子が、主役のような気がする。

武嶋蔦子さん、というと、今まで――

わいわい騒いでいる女の子たちから一歩引いて、

カメラ片手にリリアン女学園の状況を冷ややかに観察するというキャラだったわけであるが、

そしてその観察結果を、主に祐巳ちゃん(および読者)に伝えるという機能を担った

ある意味最重要キャラクターだったわけであるが、

 

その蔦子さんからカメラを取り上げる、そして笙子ちゃんとデートさせるという

今まで色気なしにがんばってくれたキャラクターにご褒美という感じがします。

 

p19

 そして、一晩なんてあっという間に過ぎて、今日の日を迎えた。

 天気予報で確認するまでもなく、東の窓からはサンサンと明るい日が差している。昨日の朝の段階では、「日曜日は曇りのち晴れ」って言っていたのに、すでに晴れちゃっている。まさに、SUNSUNである。

(祐巳の心理描写。遊園地へ遊びに行く日の朝)

ちょっと古臭い……80年代みたいな文体なのですが、

今野先生の「S」へのこだわりがうかがえるわけです。

 

p41

 挙げ句の果てに、高速道路で渋滞に巻き込まれ、完全に二人の機嫌が悪くなった。

(遊園地への道中。柏木さん&祥子)

p42

「あれ?」

 渋滞に巻き込まれて大幅に遅刻したというのに、チケット売り場の手前で、見覚えのある人を見つけた。

「祐巳さん……」

 長い三つ編みを両肩にたらしたその人は、力なく笑った。

(由乃&祐巳。遊園地のチケット売り場にて)

 

自動車というと「渋滞」なのです。今野先生にとっては。

なぜなら 「渋滞」=「にょろにょろ」だからです。

そしてその にょろにょろイメージを由乃さんの三つ編みにつなげるという……

 

p47

「あー、汽車が走っている!」

 正面ゲートをくぐって間もなく、由乃さんが指をさして叫んだ。

(一同、まずは汽車に乗る、というシーンのはじまり)

 汽車は前巻にも出てましたね。

 

p110-111

「そうだわ、祐巳。まだジェットコースターに乗っていなかったわね」

「まさか、お姉さま」

 自動車免許同様、密かにジェットコースターも乗る練習をしていた、とか。

(祥子&祐巳。遊園地のレストランにて)

はい。ジェットコースターです。

「レイニーブルー」で「祥子さまはジェットコースターに乗る訓練をしているのではないか?」と

感想をおくってきた読者さんがいたそうな。

 

p170

「お菓子?」

 キツネに摘まれたような顔をして、こちらを見つめ返す祥子さま。

「食べて消えちゃう物がいいです」

(祥子&祐巳。遊園地の売店にて)

キツネです。

「蛇」はこの巻でてこなかったな。

でも、ジェットコースターという巨大「にょろにょろ」が出てきたからいいのか。

 

33,「マーガレットにリボン」

作中の時間:さまざま。

 

(寸評)

この巻はどこを褒めていいのか、よくわからない。

申し訳ないが、ほぼほぼ退屈。

唯一、

元・黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)……鳥居江利子主役の「ライバルがいいの」がおもしろいか。

 

p53

「大人がいる時しか火をつけたらいけない、って」

「じゃあ、お父さんに聞いてみて。江利子さんが蝋燭に火をつけていいかって」

 私の言葉に、亜紀ちゃんはうなずいて台所へと駆けていった。私は自分では大人だと思っているけれど、亜紀ちゃんの目から見たら大人か子供か判断に迷うのかもしれない。

「火をつけてもいいって言った」

(「ライバルがいいの」より)

 

と、今野先生にはめずらしい「火」イメージがあらわれます。

今野緒雪はあくまで「水」の作家で、

たとえば「パラソルをさして」において びしょ濡れになった祐巳ちゃんを癒すのは

あくまでお風呂……あたたかい「水」なわけです。

そんな作家の描く「火」……

 

鳥居江利子さまが妊娠疑惑をかけられたり、援助交際疑惑をかけられたり、

「性的」イメージをになっていることを考えると――

 

今野緒雪にとって「火」は「性」と関連があるのかもしれない。

「マリみて」の「水」「火」イメージを一度追いかけてみるのもおもしろそうです。

「性」が徹底的に排除されているからこそ、「火」はあまり登場しないのかもしれない。

 

あ。「マーガレットにリボン」

タイトルに、「リボン」というにょろにょろイメージがありますな。

 

p96-97

 志摩子さんは作業に邪魔なのか、ポケットからゴムを取りだして、髪をまとめると後頭部で一本に縛った。

「志摩子さん、三つ編みしてもいい?」

 祐巳はお伺いをたてた。フワフワクルクルの茶色い髪の毛を、ちょっと触りたくなったのだ。

「ミシンかけている時はいじらないでね」

 ということは、アイロンをかけている今ならOKという意味。断ったところで隙を見つけてやられそうだから、渋々承諾したのかもしれないけれど。

 自分のではない髪の毛にやはり興味があるらしく、途中で由乃さんも加わった。

 お人形さんごっこしているみたいで、軽い興奮を覚えた。

 ゴムで縛った部分から始まって、毛先に向かって三つ編みをしていく。志摩子さんの髪の毛はウエーブがかかっているので、実際は見た目よりも長い。そんなわけで、長さに余裕があったから編み上がった毛先を根元に返してリボンで結んでみた。つまり、リボンの下で三つ編みの輪っかが出来上がる形だ。

(由乃、志摩子&祐巳。薔薇の館にて)

 

聖-栞の……あの有名なシーンといい、

髪の毛を使わせると、今野緒雪、唯一無二ですね……

 

もちろん「にょろにょろ」イメージです。

 

p138

三月 △日 (土曜日)

 

今日、妹の瞳子と一緒にお稲荷さんに行きました。

(ユミちゃん絵日記・未来編②より)

「ヘビ」姉妹がお「キツネ」様をお参りに行く、という構図。

 

34,「卒業前小景」

作中の時間:某年3月。

 

(寸評)

黒いリボンをめぐるおはなし。

というと、なんだかヒッチコック映画の〈マクガフィン〉みたいでかっこいいが、

「クリスクロス」の頃のあの生気はない。

 

この巻、やけに挿絵が少ないんですよね、なぜなのかな?

↓↓p63のこれと、 p107 抱き合う志摩子さんと乃梨子ちゃん、2枚だけ。

 

リボンに関する記述が多いので

代表的なものだけ書きぬいてみます。

 

p95-96

「あら、これは――」

 乃梨子がずらした段ボール箱の脇からそれを引っ張り出した志摩子さんが、紅薔薇姉妹、つまり祐巳さまと瞳子を見た。

 それは、黒いリボンだった。

 ラッピング用のリボンにしては短いし、丈夫そうだから、たぶん髪を束ねるリボンだ。

 紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)も黄薔薇さま(ロサ・フェティダ)も、リボンを常用していない。由乃さまはお下げの先につけることもあるけれど、リボンはつけない。――ということで、薔薇の館の住人で該当者は紅薔薇姉妹ということになるのだ。二人とも色こそ違うけれど、見つかった物とよく似た形のリボンで左右に髪を一つずつ結わいていた。

「お姉さまのですか」

 瞳子が、祐巳さまに尋ねた。ならば、瞳子には見覚えのないリボンだったのだろう。

 志摩子さんから回ってきたリボンを、祐巳さまはじっと見つめた。そして、

「……私のだ」

 かなりためてからつぶやいた。

「何なの、その間は」

 由乃さまが突っ込みを入れる。

「いや、まさかこんな所で再会するとは思わなかったから、ちょっとびっくりして」

(薔薇の館の一階にて)

p142

 どうして、これが、ここに。どうして、これが、ここに。どうして、これがここに。

 頭の中で、そんな言葉がグルグル、グルグル攪拌された。

 光沢のあるベルベットもどきの黒いリボンは、祐巳のお気に入りで、以前はここぞという時によく髪の毛に結んでいた物だ。

(祐巳の心理描写。薔薇の館の一階にて)

懐かしの、祐巳-ミルフィーユ-祐巳-ミルフィーユ……みたいです。

 

p183

「祐巳?」

「あの日と同じ場所なのに」

 本当に、二人はずいぶんと遠くまで来てしまった。

 ほら、言わんこっちゃない。涙腺の蛇口が壊れてしまった。でも、それが何のために流れた涙なのかはよくわからない。

(祥子&祐巳。薔薇の館にて)

久しぶりに「蛇口」……「ヘビ」が登場しまして、

美しい、美しすぎる 祥子-祐巳のラブシーンにつなげます↓↓

 

p186-187

「お、お姉さま……」

 思わぬ事に狼狽えて、祐巳の手の平は祥子さまの手の甲から滑り落ちた。けれど、何がどうなったのか、落下した右手がリボンを巻き込み、お姉さまの左手とまるで手錠のようにつながってしまった。

「祐巳に会いたい。会いに来てもらいたいわけが、わかったのよ」

 右手はリボンを放して自由になっているのに、祥子さまは涙を拭わなかった。

「私は、明日の卒業式では泣かないわ」

 泣きながら、お姉さまが言う。

「はい」

 祐巳はうなずいた。左手は空いていたけれど、やはりそれを目もとや頬に持っていこうとは思わなかった。

 この左手は、自分の涙を拭くためにあるのではない。

 大切な人を、しっかりと抱きしめるために存在しているのだ。

「だから、明日泣かない分、今日は祐巳の前で思う存分泣きたいと思ったのだわ、きっと」

 二人は空いている手で、お互いの身体を引き寄せた。

 

 黒いリボンが、二人の手首に巻きついて離れない。

 

             触れあった場所から、お姉さまのぬくもりが伝わってくる。

 

  二人の涙が混ざり合って、制服を、床を濡らしていく。

 

 祐巳も、今わかった。

 こうして抱き合って泣くことこそが、二人にとって必要な儀式だったのだ。

(祥子&祐巳。薔薇の館にて)

 

35,「ハロー グッバイ」

作中の時間:某年3月、4月。

 

(寸評)

「クリスクロス」で実質終わってしまった「マリみて」が

ダラダラと長いエピローグを経てようやく終わる、という感じ。

しかし 最後の最後 204ページ

今まで目にすることのなかった

「―了―」

を目にして われわれは思わず泣いてしまうわけです。

 

登場人物(動物も)総出演という感じ。 出せる人(動物)はとにかく登場させるという。青田先生とか。ミータン(猫)とか。

 

p41-42

「黒板にチョークで描いた絵なのに、まるで水墨画みたいなんだって。あと、模造紙で作った龍」

「龍?」

 祐巳が首を傾げると、機嫌の直った由乃さんがつぶやいた。

「昇り龍でしょ」

 又聞きだから詳しくはわからないけれど、どうやら黒板に鯉が滝上りしている絵が描いてあって、黒板の上の壁に龍(のオブジェ?)が飾ってあるらしい。鯉が龍になるという目出度い図案で、卒業生の門出を祝したということか。さすがは美術部の部長。話のタネに、できたら後で覗いてみたいものだ。

(卒業式の日の三年生の教室の飾りつけの描写)

この巻 「蛇」というワードが出てこないのですが、

なんと「龍」……ドラゴンが登場するんですよね……

んーすごすぎる。とだけ言っておきましょう。

 

p51

 祥子さまは、祐巳の右手首に何か黒くて長い物を引っ掛けた。

「続けて」

「……は、はい」

 安全ピンを元に戻して花の位置を整えている間に、黒く長いものはふわっと手首に巻きつけられる。

 それは、黒いリボンだった。

 一昨年のクリスマス・イブに、祥子さまが祐巳に所望したクリスマスプレゼント。

 昨日、薔薇の館の一階で見つけて、「お姉さまに返さなきゃ」って祐巳を走らせたあのリボン。

 抱き合って泣いた時、二人の手首をしっかりとつないでいたあのリボン。

 そのリボンが、今ここにある。

「預かっていて」

 祥子さまが言った。

「式が終わるまでの間」

 これはお守りだ、って祐巳にはわかった。もともとは祐巳が身につけていて今は祥子さまの所有物となったリボンを、祐巳が預かるという意味。

(祥子&祐巳。三年松組の教室にて)

また登場、黒いリボン。

でも……他になにかなかったのかな??

 

p199

 こんな風に。

 この学園では人と人とが鎖のようにつながっていくのだ。

 お姉さまが、祐巳を見た。祐巳もお姉さまを見ている。

 何も言わないでいい。

 大丈夫、自分たちはつながっている。

(マリア像の前にて)

鎖、という「にょろにょろ」です。

 

p202

 言いながら祥子さまは、祐巳の襟に触れた。その指はセーラーカラーのラインをなぞり、タイに到達するとそこで離れた。

「お姉さま?」

「やめましょう。あなたはもう、紅薔薇さま(ロサ・キネンシス)なんですものね」

 タイを直すほうも直されるほうも、小さく笑った。日常の一部と化していた習慣を改めるのは、なかなかに難しい。

(祥子&祐巳。校門付近)

正直申し上げますと、ここでわたくしは泣きました……

祥子さまと祐巳のタイの歴史を書きますと

①「無印」→祥子さまが祐巳の乱れたタイを直すことで、二人は出会う。

p10

「タイが、曲がっていてよ」

「えっ?」

②「子羊たちの休暇」→祥子さま祐巳の空白のタイを撫でる。

p66

 祥子さまはいつものように手を祐巳の胸もと付近に伸ばしたが、そこにタイがないことに気づいて、襟なしで乱れようもない襟刳りをそっと撫でてほほえんだ。

③「ハロー グッバイ」→祥子さまタイを撫でることをやめる。

 

というように三段階の、じつに美しい構造がみえてくるわけです。

月並みな物語ではなく、美しい「構造」で、今野緒雪は読者を泣かせるのです。

 

36,「リトル ホラーズ」

 

(寸評)

「ハロー グッバイ」で ダラダラだらだらと続いていた「祐巳・祥子物語」がようやく終わり……

さて、次はなんですか? とおもったら、

「フレーム オブ マインド」に引き続き、大・大・大傑作短編集がやってきました。

 

・「チナミさんとわたし」→頭がおかしい。どうかしてる。

・「ハンカチ拾い」→どうかしてる。どうかしてる。

・「胡蝶の夢」→やっぱりどうかしてる、今野緒雪。

 

「ワンペア」もおもしろいといやおもしろいのですが、

女性教師をたぶらかす美少女、というのがどうしても村上春樹の「ノルウェイの森」を思い出させるんですよね、

あと双子というのも 春樹っぽい。

ちなみにトマス・ピンコは村上春樹が大嫌いだったりします。

いや、それは別にして、誰かほかの作家を思い出させるモチーフ・イメージは使ってほしくないな、ということです。

今野緒雪はそんなレベルの作家ではないのですから。

出版社の担当はそのあたり指摘してあげるべきでしょう。

 

p107

「時間になっても三年菊組教室にはお姉さまの姿が現れなかった時には、私狐に摘まれたような気分になりましたもの。お姉さま以外は三年生も二年生も新入部員も、みんな出席していたんですよ。今日の会合は、それくらい大切な集まりだった、っていうじゃないですか。先輩方に『由乃さんは?』って聞かれて、私のほうがどうしたのか聞きたかったくらいです」

(菜々のセリフ。薔薇の館にて)

p108

「菜々。ねえ、菜々ちゃん? さっき見たでしょ? お姉さまはね、薔薇の館を水から守るために水道管を握りしめていたの。だから行きたくても剣道部の集まりには行けなかった、そういうことでしょう?」

 今まで一度も聞いたことがないほど、それは甘ったるい猫なで声が、身動きできない菜々の身体にぺちゃぺちゃまとわりついてくる。

(由乃さんの描写。薔薇の館にて)

p208

「あら、まだ狐に摘まれたみたいな顔をしている」

「じゃ、これでどう? じゃじゃじゃーん」

(薔薇の館にて)

 

「キツネ」そして 島津由乃=猫 という構図がでてきます。

もう「ヘビ」はでてきません。

 

37,「私の巣(マイネスト)」

 

(寸評)

環さまがとにかく魅力的。

p20

「でも、モモッチはずーっとそのぬか床を大事にして、お嫁入り道具にしたがいいやね」

p118

「でも、その前におにぎり握ってくれない?」

と、こんなセリフを吐くキャラクターは新鮮です。

のちほど説明しますが

「筒井環」という名前は実に完璧な「名前」でもあったりします。

 

ただ正直、環さま一人でひっぱるのはきついので、

百(もも)ちゃんのお母さん・香也(かや)さんを魅力的に造型できれば良かったようにおもうのですが、

どうも……いまひとつな印象です。

 

だが、ぬか漬けの壺を探すエピソードで すんなりと大家族および大きな家を紹介するあたり、

なにか小津映画でもみているように鮮やかです。

 

p16

「あ、目が覚めたのね」

 衝立の陰から現れたのは、見知らぬ生徒だ。

「彼女、保健委員の筒井環さん」

 よろしく、とほほえむその顔は、パッとした美人。豊かで真っ黒な巻き毛が、背中で揺れていた。

(筒井環の登場シーン。リリアン女学園保健室にて)

 

環……たまき、という名前はいそうでいなかった。

・ロザリオを連想させる。

・「にょろにょろ」である。

(そして、吉屋信子「屋根裏の二處女」のヒロインの名前でもあったりも、する)

そして「筒」「井」

・筒……「にょろにょろ」である。

・井……「水」イメージである。。

――、と、完璧な字面なんですね。この子は。

 

さらに「音」をみますと――

TSUTSUI TAMAKI

T音の連続も心地よく

これはもう今野緒雪にとって、

OGASAWARA  SACHIKO

レベルの完璧な名前なのだといえましょう。(勝手に断言)

 

38,「ステップ」

 

(寸評)

ははん、

今野緒雪=女の子同士のイチャイチャだけの作家

――ではない、と証明すべく立ち上がったわけか。

などとおもうわけですが、

 

読み進めて……179ページ目に

あ⁉……

ま、まさか……

と読者はとんでもない勘違いに気付くという、

しかもその舞台は「お化け屋敷」という……

そしてわれわれはいかに自分たちが「マリみて」世界を愛しているか、思い知るのです。

 

これはさすがにネタバレは書けないな。

今までさんざんネタバレを書いてきてしまったわたくしでも。

 

p28-29

 日曜日。

 セロファンテープを使い切ってストックもなかったので、私は自宅最寄り駅から二駅分電車に乗って、この近辺では結構栄えた街に出た。地元にだって文房具店はあるんだけれど、ついでに本屋に行って買い忘れた雑誌を買ったり、先日テレビで紹介していた某ブランドのワンピースを、買わないけれど見ていきたいと思ったからだった。

 休みの日の昼過ぎは、どこもかしこも賑やかだった。

 買ったばかりのセロファンテープを手提げ鞄にしまいながら駅ビルの文房具店を出たところで、私はとんでもない光景を目撃した。

 いる。

 誰が、って。律さんが。

 私と律さんは見えない糸でつながっているから、制服なんて着ていなくても、二十メートル離れていても、見間違うことなどない。

(佳月の心理描写)

「糸」です。「糸」でなくてはいけない理由は……書けません。

 

39,「フェアウェル ブーケ」

 

(寸評)

妊婦さんの鹿取先生が、薔薇の館でハーブティーをガブガブ飲んでいるのだが……

妊婦ってカフェインNGじゃないのか??

 

まあ、そこらへんをまったく意識しないで「どうぞ」なんてニコニコ微笑んでいる祐巳ちゃんは

最後の最後まで祐巳ちゃんなのです(笑)

 

p12

それは、写生会の時に使っていたような画板に画用紙を貼り付けただけの看板だった。

「『ストレッチ愛好会』……?」

 一行目の一際大きな文字を読み終わったところで、私は肩を後ろからポンと叩かれた。

「ようこそ」

「ひゃっ!」

 ガチッ、ゴックン。

 驚きすぎて、舐めていた飴を思わず奥歯で噛んで飲み込んでしまった。舐めはじめだったから結構大きくて、喉を通過する時、目玉がぐりんと飛び出しそうになった。

(「飴とストレッチ」より)

 

「ストレッチ」……にょろにょろした長い「筋肉」を伸ばす運動です。

そして「S」で始まるコトバだったりもする……

 

p184

「そんなに早くプリントってできるの?」

 終業式のホームルームが終わるのは昼過ぎだ。それまでに色紙を完成させなければ先生に渡せない。朝写真を撮って、終業式にも出なきゃいけなくて、それで間に合うのか蔦子さん。

「気に入らないけど、デジタルカメラを使うわけ。そうしたらすぐよ」

 ふむふむ。

「蔦子さんも写るってことは、タイマーで撮るわけ?」

「それだと落ち着かないから、笙子ちゃんに来てもらうんだって」

(「フェアウェル ブーケ Ⅶ」より)

 

今からおもうと、自分でもわからないのだが、

フィルムカメラを長く使っていた人間からすると

「デジタルカメラ」というものには 蔦子さん同様「気に入らないけど」という意識しかなかったものです。

もとい、

武嶋蔦子さんがデジタルカメラを使うようになりまして、「マリア様がみてる」全39巻は幕を閉じるのであります。

んー、美しい、美しすぎる……