▽なぜ質の高い練習をしないといけないか?
なぜ質の高い練習をしないといけないかというと、総合
格闘技自体が成長過程にあるからです。
どうして総合格闘技が成長過程にあるといえるかという
と、やることが非常に多いからです。打撃だけでなくて
レスリングもあり、寝技もある。
これらの一要素だけが強い選手というのはいっぱいいま
す。たとえば寝技だけで争うならとても敵わない人もい
ます。しかし、そういう人にも総合的には勝つことがで
きる。
▽まずは打撃で勝利することを考えるべき
現在の総合格闘技の状況を見ると、ボクシングが強くて
テイクダウンディフェンスが上手い人たちが現在のトッ
プ層に位置していると思います。
柔術がめちゃめちゃ強かったとしても、組み技に持って
いくことができない。組み技になったとしてもパウンド
の強さに差があってそれでやられてしまう。
日本人選手は打撃に苦手意識があるので、組み技で勝と
うとしますが、フィジカル差で負けてしまうことが多い。
さらに近接の打撃戦を嫌ったり、打ち合いになると目を
瞑ったりする。これでは勝てません。
外国人のトップファイターたちはみんな打撃ができてい
るので、この点では日本人だけが遅れていると僕は思い
ます。
まずは打撃で勝利することを考えるべきです。
▽臆病に考える・相手を過大評価する
「相手よりも自分の方が強い」という確信は、試合直前
くらいに持つくらいがちょうどよくて、対戦が決まった
段階くらいからそういう認識でいると危険です。
僕は慢心しない性格ですが、危うく失敗しかけた時期も
ありました。THEOUTSIDERで二冠を達成したくらいの頃で
すが、もう地元の周囲の人間とは実力差がありすぎて、
弟くらいしか練習相手がいませんでした。そうなると俺
はもう十分に強い、と思い込んでしまうんです。
慢心と自信は紙一重なので難しいんですが、この心理の
せいで練習がおろそかになったことがありました。その
状態で試合に出たら、負けることはなかったけれど、負
けそうになったりしたんです。
東京に出て来てからはトッププロの選手がたくさんいる
環境になったので、常に練習で自分の実力を再確認でき
ます。まだまだなところもたくさん見つかるので、もっ
と練習を頑張ろうと思えます。
▽分析における「空間的想像」の重要性
僕はもともと分析力に長けているということで、自分の
試合相手の研究はもちろん、弟の対戦相手の分析も全部
やってきました。
では、その分析の秘訣とは何でしょうか?
それは「空間的想像」です。
これは客観視というキーワードと対になっているともい
えます。ビデオや他の人のコメントから自分の姿を描き
出すのに対して、外側から見て得られた情報を自分の主
観で再現するというのが空間的想像です。
とりあえず、これは格闘技の試合に限ったこととして、
実際に自分がどういうことをやっているかを説明します。
分析の主な題材は対戦相手の試合映像で、僕はこれを可
能なかぎりたくさん見るようにしています。
このとき見方にコツがあります。
テレビなどの試合映像の場合、大体は選手が横並びにな
っている状態で映っており、展開のなかでたまにしか一
方の視点にはなりません。
つまり、基本的に試合映像というものは客観的、すなわ
ち第三者(三人称)的視点で表現されているといえます。
これを、主観的(一人称)的視点に組み替えるというの
がコツです。つまり、映像では横に映っていても、実際
に自分が正面から対峙しているものとして、頭の中で立
体的にアングルを替えて見るようにするということです。
これは「ストリートファイターⅡ」が二次元だったり、
カーナビが空から平面を眺めたりするものだったりした
のが、三次元の正面からの立体的な眺めを手に入れると
いったら感じなのか。「右行って、左行って、カーブが
あり」~の真正面の対処法を身につけるということだ
ろう。
そうすると、横から見ているだけではあまり認識できな
い様々な情報を手に入れることができます。
たとえば、正面から見たら相手のパンチはこういう軌道
で繰り出されるんだ、とか。
その前段階で肩が上がってガードが空くな、とか。
横から見ているだけだとこういう事実に気づかないこと
があり、せっかくの相手の癖や弱点を見逃してしまう可
能性があります。逆に、こういう風に考えて相手のこと
を見ると、ただ映像を眺めているだけでは得られない発
見があるんです。
こういう手順で何十試合も確認していくと、不可避的に
でてしまう相手の癖が分かってきます。
それを割り出したら、この癖を利用して相手の攻撃を回
避したり、あるいはカウンターを合わせたりというよう
な戦略的練習を集中的に行って、対戦相手を攻略するよ
うにします。
このように分析さえ適切なら、あとは十分な身体能力が
あれば、対策の練習をたくさん行って相手に合わせると
いうことが可能です。
▽弟・海について
弟については、空間的想像の能力が元から高くはありま
せんでした。しかし、普段から一緒に練習してきたこと
もあり今や彼は一人で十分な分析ができるようになっています。
今でも自分で考えたことが妥当かどうかを僕に質問して
きたりするんですが、かなり僕の意見と合致するんです
よ。
僕が持つような突出した空間的想像の能力に頼らなくて
も、僕の考え方を練習の中で習得して自分なりに咀嚼し
たら、他の人でも同じようなことができるようになるん
だ、と実証してくれたと思います。