警察内部での摩擦は日頃から多いが、一歩外に出れば
そこにもいろいろな悩みの種が転がっている。
たとえば治安を維持する上で覚せい剤などの薬物対策
は警察としても重点課題に位置づけられている。
ところが、こうした薬物の取締を担当しているのは
必ずしも警察だけではなく、厚生労働省の麻薬取締部
に所属する麻薬取締官もまた、薬物の摘発が任務と
なっている。
実際、警視庁の生活安全部と組対4課が共同で内偵を
進めていた薬物事件で、麻薬取締官もまた同じ事件を
追っていたというケースは少なくない。
ところが、問題は警察側が麻薬を柱として組織犯罪の
全体像を暴き出そうとしたり、あるいは麻薬の売人が
それまでに犯してきた売春や傷害などの過去の犯罪ま
で暴き出そうとしているのに対し、麻薬取締官は薬物
犯罪でしか検挙できないことから、他の犯罪には見向き
もせずさっさと犯人を捕まえてしまうことがある。
生活安全部の刑事が苦労して売人の愛人にくらいついて
内偵している矢先に、麻薬取締官が踏み込んできて売人
を簡単に検挙してしまうことがある。
そうなると、売人の麻薬以外の犯罪や組織との関わり
つまり麻薬犯罪の根幹そのものが見逃されてしまうのだ。
もちろん、麻薬取締官がいつも警察よりも早く麻薬
犯を検挙してしまうかといえば必ずしもそうではない。
ときには警察が麻薬組織の人間だと逮捕し、取り調べてみる
と組織に潜入捜査していた麻薬取締官だったことがわかり、
そっと組織に戻すというようなことが起きたりしたと聞く。
ひどいときには麻薬組織に麻薬取締官が潜入している事実
を知らずに、警察が一斉に踏み込んで銃撃戦になってしまい、
その負傷者の中に麻薬取締官が含まれていたことが後で
わかったということもあったという。
警察が麻薬取締官と全く協力しないかといえば、必ずしも
そうではない。
かつて、ビートルズのポール・マッカートニーが麻薬所持
の容疑で成田空港で捕まったことがあった。
これは警察による検挙ではなく、麻薬取締官によるものだ
った。
厚労省の麻薬取締部は東京・中目黒にある。
逮捕されたポールは目黒署の留置所に入れ、そこから
中目黒の麻薬取締部の事務所まで護送、さまざまな
取り調べを行っていた。
こうした問題を解決するために橋本内閣時代、警察官、
海上保安官、麻薬取締官も国家公安委員会の下に集約
するという案が検討された。
しかし、省益を維持しようという考えから、この提案
は実現しなかった。
警察官と麻薬取締官の関係のように警察が捜査上、
接触を持つ可能性の高い司法警察員はほかに、海の
安全を取り締まる海上保安官、自衛隊の不正に目を
光らす自衛隊警務隊(MP)などがある。