ところで、現実に細胞を凍結保存するときに問題となったのは、
水の、氷ると体積が増えるという厄介な性質だった。
これのために、細胞の内部の水分も、氷ると膨張して
細胞膜を破ってしまう。そうなれば当然、解凍しても元
に戻らない。
だから、細胞を生きたまま凍結保存をするには、
できるだけ冷やしながらも、細胞の中の水は氷ら
ないようにする必要がある。つまり、精子の凍結保存
が可能になったのは、細胞内部の水分を、過冷却に
保つ事ができるようになったから。
でも、それをいったい、どうやって実現したのだろうか。
精子の場合、それは細胞をグリセリンの中につけるこ
とで実現されている。
一般に、高分子まわりの水分子は、電気力によって
整列(構造化)するので、氷りにくくなる。つまり、グ
リセリンは精子の細胞膜を通って細胞内に入り、水を
構造化して凍りにくくしているわけです。
いわば、不凍液を注入したってワケね。
もちろん、こういう操作は単細胞だからできたことで、
細胞集団である組織とか、臓器、さらには生体丸ごとの
冷凍保存に応用するのはかなり難しい。無数にある細
胞の全てに不凍液を注入するか、あるいはそれとは全
く別の方法でもいいから、とにかく細胞内の水分が
凍らないようにコントロールするなんて、
いったいどうしたらいいのだろうか?
それがわからないことが、このタイプの人工冬眠が
未だに完成していない理由だし、おそらく将来もこの
方法の延長で人工冬眠を実現するのは
かなり難しいだろう。