・THE STALIN/I was THE STALIN ~絶賛解散中~完全版 (2013)

以前に発売されていた不完全ライブ盤「For Never」の焼き直しだろうけれど、ザ・スターリンの音源だし…と思って軽い気持ちで買った。もう散々、ザ・スターリンの音源やライブ盤も聴いたし、今更衝撃を受ける事もないと思っていたから驚いた。

こちらは「完全版」のタイトル通りだ。以前にもザ・スターリンの解散ライブはCD2枚組で「For Never」というタイトルでリリースされていたが、そちらは当日の曲目から何曲かをカットして発売したものだった。また曲順も変えられていた。当時からライブを完全収録したCDはリリースの予定があったらしいが、マスターテープがみつからず断念されていた。それがマスターテープがみつかり、遠藤ミチロウ30周年と共に「完全版」として発売されたものだ。

まず何が違うのか。曲の順番自体が全く違う。以前の「For Never」では出だしの1曲目から「虫」で始まり、ハードコアパンクソングを求めるファンは正直「かったるいな」と思うスタートだったと思う。しかし2曲目からはパンクロックなアップテンポの曲が連発されて、いやにテンポが良いものになっていた。

しかし「完全版」では、実際は「虫」の後に「Fish Inn」収録曲を中心としたミドルテンポの曲が7曲も続き、地獄のサイケデリックな世界にリスナーを誘う。それと同時に、遅い曲のあと速い曲が連発されるという「For Never」の構成自体が、当時のパンクファンに向けて曲順が大幅に変更・曲がカットされていた事を身を持って知ったのだ。

確かに「For Never」は聞きやすい構成ではあったが、それが現実と違うのであれば、解散ライブ自体を疑似体験したかったファンとしてはなんとも複雑な気持ちになる。

しかし「Fish Inn」以降のドロドロとしたミドルテンポの曲があったからこそザ・スターリンであり、それを無視した「For Never」は今では罪な作品だったと思う。パンクファンが納得しなかったとしても、これが解散直前のザ・スターリンであり、良い、悪い以前のドキュメントなのだ。それを完璧な形で「疑似体験」出来る事にファンとして感動している。

そして2枚目では「爆竹を投げたら演奏は終わりです」とのアナウンスが入り、過激な爆竹行為がしっかりと禁止された事を知る。たかがアナウンスだが、これはファンにとってはやはり貴重なドキュメントだ。その後は「For Never」2曲目からと同じく、パンクソングの連発となるが、最後はミドルテンポの「Fish Inn」で締められる。当時の遠藤ミチロウがもうパンク・ハードコアに飽きていたのではないかと思わせる選曲だ。

本当にアップテンポでハードコアパンクな、ノリに乗った時期のザ・スターリンを聴きたければ「絶望大快楽」という83年の後楽園でのライブを収録した好ライブ盤がある。こちらの「~絶賛解散中~完全版」はファンに媚びないドキュメントだが、やはりザ・スターリンファンなら持っておく価値がある1枚(2枚組みだが…)であると言える。

こういった作品がしっかりとリリースされる事自体に価値がある。まさにリアルなライブだ。ライブ盤に感動させられたのは久しぶりだった。