怖さ知り 考える教育 | くしろぐ

怖さ知り 考える教育

■子どもから意識変える

東日本大震災で、最大2・1メートルの津波を記録した釧路市。過去にたびたび地震の揺れによる被害に遭っているこの地域で、地震や津波を積極的に授業に採り入れている教育現場がある。

■堆積層に残る爪痕

釧路工業高校の小久保慶一(よしかず)教諭(36)は2003年の十勝沖地震、翌年の釧路沖地震で、当時の生徒が取った行動についてアンケートをした。

いずれの地震でも「テレビやラジオをつけて情報の確保に努めた」と答えた生徒が最も多く40~50%。しかし一方で、「津波の様子を確認しに行った」と回答した生徒も数%いた。自由回答では「地震はもう怖くない」と書く生徒さえいた。小久保教諭は「地震慣れ」を感じたという。

そこで、こうした「慣れ」を打ち消す授業に取り組んだ。一昨年度と昨年度、理科総合の授業で3年生に見せたのが、道東の地層の標本だ。根室市の海岸から300メートル以上内陸で採取された地層には、本来の泥炭層と交互に砂の層が6層ほど重なっているのが確認できる。過去に繰り返し大きな津波に襲われ、海の砂が運ばれて堆積(たいせき)したことを物語るものだ。

釧路市内の春採(はるとり)湖でも過去9千年の間、20層ほどの津波堆積物があるという研究報告も説明した。教室から見える身近な場所での津波の爪痕。生徒たちは「本当に津波がここまで来ることが分かった」などと感想を記した。

東日本大震災から1週間後。小久保教諭は顧問を務める理科部の生徒を連れて釧路川をさかのぼって調査した。河口から約7キロの地点では、割れた厚い氷が川縁にいくつも乗り上げ、近くにある貯木場の丸太が散乱していた。男子生徒は「おっかないね」と驚きを隠せない様子だった。

「津波が起こるかもしれないことを想像し、どう行動したらいいかを判断する力に結びつけたい」と小久保教諭は語る。

■水槽使い再現実験

教育現場と気象台が協力した取り組みもある。

釧路市の道教育大付属釧路小学校で昨年7月、境智洋(ちひろ)・同大釧路校准教授(45)と釧路地方気象台が、6年生を対象に津波を再現する授業を行った。

用意されたのは幅と深さ各80センチ、長さ7メートルの細長い水槽。板底を上下させて津波を起こす仕組みで、気象台が手作りした装置だ。釧路市の地形をかたどった街の模型を据え、津波の影響を観察する。

風で起こる表面的な波と津波とでは、その動きがまったく違うことを知るために、水槽の底におはじきをまく。普通の波では動かなかったおはじきが、津波を起こすと一気に陸側に移動した。小さな船の模型も、転覆したり、陸地の奥まで押し流されたりした。

同気象台と同大釧路校では、この装置を携えて釧路や根室地方の各学校で出前授業をしている。

同気象台防災業務課の谷内一弘さん(46)は「今回の大震災で、津波の恐ろしさは十分伝わったと思う。気象台が出す情報を利用しながら、その時々でどうしたらいいかを考えてもらいたい」と話す。

授業の最後で境准教授は子どもたちに、家にいた時に津波の警報が出たらどうするか、家族と相談してみるように呼びかけた。

「大人の意識を変えるのは難しいかもしれないが、子どもたちが習ったことをもとに一緒に考えてもらう。津波が来た場合、マニュアル通りの行動でいいのか、状況を見ながら判断する力をつけることが重要です」と境准教授は指摘する。
(芳垣文子)

朝日新聞
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000001104220006