被害未経験 逃げず
■釧路避難率 最多時で3割
人口約18万人。太平洋沿岸に港を構える釧路市には、3月11日の東日本大震災で最大2・1メートルの津波がきた。津波は釧路川河口からさかのぼり、川沿いの住宅街を中心に274棟が床上・床下浸水した。
市は津波警報が出ると同時に避難勧告を出し、広報車や消防車で避難を呼びかけた。最も多くの人が避難していた際の避難率は約30%だった。
同市は1995年の釧路沖地震で2人が亡くなるなど、地震の揺れによる被害には遭ってきた。しかし、津波被害は経験がない。同市は「市民は津波の怖さをあまり知らない」という。
太平洋側に面するため、津波警報が発令されたことは何度かあるが、観測された津波は1メートルに満たなかった。そのことも、「大丈夫」という思いこみを助長する要因の一つになっているという。
■「テレビ見て」判断
市によると、過去に避難勧告を出した際の平均避難率は約8%。今回は、それに比べれば高かった。大津波警報が出され、太平洋沿岸東部に「6メートル」という予報が出ていたが、同市総務課の佐々木信裕・防災危機管理主幹は「(大津波の予報というより)東北の大津波がテレビで映され、避難所に来た人が多かった」とみる。釧路川近くに住む60代の女性も「テレビを見て驚いた。あわてて(避難所に)来た」と話す。
しかし、想定される大津波が釧路に到達するとき、各地の津波をテレビで確認していたら逃げる時間がないかもしれない。揺れた後、停電になればテレビはつかない。
釧路市が、最大の津波被害を受けると想定する「500年間隔地震」。市のハザードマップによると、地震発生から30分程度で津波が到達。市中心部は、釧路川づたいに広く浸水すると考えられる=図。地震の規模を示すマグニチュード(M)は8・5級。避難対象者数は5千人以上だ。
釧路市中心部の避難には課題が山積する。釧路川を挟んで北側には低地帯が広がる。一帯には、市役所や市の消防本部などが集まる。消防本部は2階まで、市役所も1階が浸水する。
釧路川を挟んで南側は30メートルほどの高台。しかし、津波警報が出れば幣舞(ぬさまい)橋などが通行止めになり、対岸との行き来ができなくなる。北側の川沿いにいる人が浸水域外に逃げるには、2キロ近い移動が必要だ。
車を使った避難も課題は多い。今回、幣舞橋を含め釧路川下流の三つの橋が通行止めになった。その結果、市内のメーンストリートの一つである幣舞橋から釧路駅までの道道は大渋滞した。
■死者最大で340人余
道のシミュレーションによると、市民の避難意識が低い場合、同市だけで最大340人余りが死亡する。市は、想定される浸水域で、高層ホテルなどを「津波緊急一次避難施設」に指定。いざというとき、最短で高い場所を目指すとしたら、こうした施設になる。
一方、釧路川の南側は、川沿いに古い住宅街がある。高台へ逃げやすい位置ではあるが、高齢者が多いため、支援も必要だ。市の試算では、災害時における要支援者は5千人のうち約350人となっている。
市では、大津波の発生が予想される場合などに要支援者に連絡を取り、必要があれば職員を派遣すると決めてある。しかし、休日や夜間に災害が発生したら、郊外に住む職員らが市役所に集まるのに1時間以上かかる。
佐々木・同主幹は、住民の津波対策について「とにかく揺れたら逃げる。地域の人々が助け合うことが必要」と訴える。しかし、市民にそうした意識が浸透していない。また、市庁舎や消防本部も浸水したとき、市の指揮はどうなるのか。明確な答えは出てこない。
(横山蔵利)
朝日新聞
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000951104180001
人口約18万人。太平洋沿岸に港を構える釧路市には、3月11日の東日本大震災で最大2・1メートルの津波がきた。津波は釧路川河口からさかのぼり、川沿いの住宅街を中心に274棟が床上・床下浸水した。
市は津波警報が出ると同時に避難勧告を出し、広報車や消防車で避難を呼びかけた。最も多くの人が避難していた際の避難率は約30%だった。
同市は1995年の釧路沖地震で2人が亡くなるなど、地震の揺れによる被害には遭ってきた。しかし、津波被害は経験がない。同市は「市民は津波の怖さをあまり知らない」という。
太平洋側に面するため、津波警報が発令されたことは何度かあるが、観測された津波は1メートルに満たなかった。そのことも、「大丈夫」という思いこみを助長する要因の一つになっているという。
■「テレビ見て」判断
市によると、過去に避難勧告を出した際の平均避難率は約8%。今回は、それに比べれば高かった。大津波警報が出され、太平洋沿岸東部に「6メートル」という予報が出ていたが、同市総務課の佐々木信裕・防災危機管理主幹は「(大津波の予報というより)東北の大津波がテレビで映され、避難所に来た人が多かった」とみる。釧路川近くに住む60代の女性も「テレビを見て驚いた。あわてて(避難所に)来た」と話す。
しかし、想定される大津波が釧路に到達するとき、各地の津波をテレビで確認していたら逃げる時間がないかもしれない。揺れた後、停電になればテレビはつかない。
釧路市が、最大の津波被害を受けると想定する「500年間隔地震」。市のハザードマップによると、地震発生から30分程度で津波が到達。市中心部は、釧路川づたいに広く浸水すると考えられる=図。地震の規模を示すマグニチュード(M)は8・5級。避難対象者数は5千人以上だ。
釧路市中心部の避難には課題が山積する。釧路川を挟んで北側には低地帯が広がる。一帯には、市役所や市の消防本部などが集まる。消防本部は2階まで、市役所も1階が浸水する。
釧路川を挟んで南側は30メートルほどの高台。しかし、津波警報が出れば幣舞(ぬさまい)橋などが通行止めになり、対岸との行き来ができなくなる。北側の川沿いにいる人が浸水域外に逃げるには、2キロ近い移動が必要だ。
車を使った避難も課題は多い。今回、幣舞橋を含め釧路川下流の三つの橋が通行止めになった。その結果、市内のメーンストリートの一つである幣舞橋から釧路駅までの道道は大渋滞した。
■死者最大で340人余
道のシミュレーションによると、市民の避難意識が低い場合、同市だけで最大340人余りが死亡する。市は、想定される浸水域で、高層ホテルなどを「津波緊急一次避難施設」に指定。いざというとき、最短で高い場所を目指すとしたら、こうした施設になる。
一方、釧路川の南側は、川沿いに古い住宅街がある。高台へ逃げやすい位置ではあるが、高齢者が多いため、支援も必要だ。市の試算では、災害時における要支援者は5千人のうち約350人となっている。
市では、大津波の発生が予想される場合などに要支援者に連絡を取り、必要があれば職員を派遣すると決めてある。しかし、休日や夜間に災害が発生したら、郊外に住む職員らが市役所に集まるのに1時間以上かかる。
佐々木・同主幹は、住民の津波対策について「とにかく揺れたら逃げる。地域の人々が助け合うことが必要」と訴える。しかし、市民にそうした意識が浸透していない。また、市庁舎や消防本部も浸水したとき、市の指揮はどうなるのか。明確な答えは出てこない。
(横山蔵利)
朝日新聞
http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000951104180001