自治再考:市町村のかたち/7止 第三セクター /北海道 | くしろぐ

自治再考:市町村のかたち/7止 第三セクター /北海道

◇行政のツケ、住民に

釧路市の釧路西港区の一角に「企業立地用地分譲中」と書かれた看板がポツンと立っている。枯れ草ばかりが目に付く空き地が広がる。第三セクター「釧路振興公社」が75~84年に、北電の火力発電所建設用地として24ヘクタールを取得したが、計画は頓挫。約30年間、“塩漬け”状態が続いている。

同市は事業用地や企業誘致用地の確保を目的に、60年に同振興公社、73年に「釧路市土地開発公社」を設立。土地の値上がりが当然だった高度成長時代に、行政に代わって土地の取得を重ねたが、90年代前半のバブル崩壊で一変した。両公社は売れない土地を抱え、借入金の金利が雪だるま式に増えた。2月末時点で計約80ヘクタールの土地が売れ残り、帳簿上の価格と実勢価格の差を示す「含み損」は約90億円に達している。

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同市は昨年2月、両公社を解散させる方針を決定。10、11年度中に解散手続きが行われる。両公社の借入金は総額約131億円。「もはや、放置すれば行政がつぶれかねない」(蝦名大也市長)段階だった。

処理を可能にしたのは、「第三セクター等改革推進債(三セク債)」。国が第三セクター処理の財源を確保するため、09~13年度の時限措置として創設した。同市はこれを活用し、両公社の借入金肩代わりなどに約146億円を費やす。三セク債の返済は15年間となる見通しだ。

市財政健全化推進室は「処理費用は、市職員の総人件費抑制や事務経費見直しで捻出する」と説明する。しかし、市は今後16年間で累積収支不足約119億円を抱える見込みで、15%程度の手数料・使用料値上げ、約600項目の事務事業の見直しなどを断行する。両公社の処理は結果的に市民生活に影響を与える。

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江別市も昨年9月、借入金が42億円に上る市土地開発公社の解散を決めた。市は三セク債約27億円や土地開発基金約11億円などで、公社保有地約16ヘクタールを引き受けるが、地価下落の影響で8億3900万円の債権を放棄。今後15年で三セク債を返済したい考えで、財政調整基金を取り崩すなど赤字回避のため苦しい財政運営を強いられる。道内では稚内市、白老町、余市町も三セク債を利用する。

なぜ、ここまで事態が放置されたのか。96~02年に釧路市長を務めた綿貫健輔氏は「(三セク債のような)国の“徳政令”でもない限り、どうしようもなかった」と弁明する。釧路公立大学の下山朗准教授(地方財政論)は、官独特の「腫れ物に触らず」の体質を挙げ、釧路市について「将来の市の事業計画を楽観し、『何とか土地を有効に使おう』と次へ次へと先送りを続けた」と批判。「法的に問題がないからと、外から見えない、見せない体質があった」と指摘する。

実際、蝦名市長が両公社の問題を正確に把握したのは就任から半年ほど後の09年夏。「両公社の実態を調べさせたら驚く数字が出てきた。帳簿上は簿価と負債のつり合いも取れているし、『ブラックボックス』だった」と明かす。

社会状況の変化に機敏に対応できなかった行政のツケは、「隠れた借金」として数十年を経て住民に回ってくる。=おわり(この企画は、岸川弘明、和田浩幸、山田泰雄、横田信行、中川紗矢子、坂井友子、佐藤心哉、堀井恵里子が担当しました)

毎日新聞
http://mainichi.jp/hokkaido/seikei/news/20110305ddlk01010226000c.html