ラムサール条約:採択40年 湿地保全と振興、両立に苦心 | くしろぐ

ラムサール条約:採択40年 湿地保全と振興、両立に苦心

1971年2月にイラン・ラムサールで、湿地と水鳥の保全を目指す「ラムサール条約」が採択され、今年で40年を迎えた。現在、日本の登録数は37カ所。湿地とそこに集う水鳥、豊かな生態系との共生を実現する取り組みが進んでいる。登録地が「地域の財産」として見直される一方で、保全活動と地域振興のバランスに苦心もしている。現場を歩き、条約の意義を考えた。【関東晋慈、永山悦子】

仙台市から北に約50キロ。宮城県大崎市の蕪栗(かぶくり)沼の周辺では、マガンが早朝一斉に飛び立ち、日没を迎えるころから次々と集まってくる。鳥が沼へ急降下する際の「バサッバサッ」という小さな羽音が聞こえた。市産業建設課の鈴木耕平さん(34)が「あれが落雁(らくがん)の音です」と教えてくれた。

一帯は毎年数万羽のマガンが飛来する国内有数の越冬地で、05年、「蕪栗沼・周辺水田」としてラムサール条約の登録地になった。条約は、「湿地の保全」と「ワイズユース(賢明な利用)」を目的としている。最も重要な環境用語である「持続可能な開発」という言葉がなかった40年前、湿地の生態系を維持しながら、そこから得られる食料などの恵みを地域が持続的に活用することを表す言葉が生まれた。

蕪栗沼周辺の湿地は、戦後の干拓事業で縮小してマガンが減る一方、一部の湿地に集中して訪れるようになり、水質悪化や鳥インフルエンザ拡大の危険性が高まった。そこで03年から、冬も田の水を抜かず、農薬や化学肥料を使わないでコメを育てる「ふゆみずたんぼ」の取り組みを始めた。最近10年でマガンの数は4倍に増えた。

ふゆみずたんぼで収穫したコメは通常価格の3倍で売れる。ふゆみずたんぼ生産組合の西沢誠弘事務局長(56)は「経済と自然保護が両立し、水田面積が維持されていることが、条約登録の大きな成果」と話す。

08年の同条約第10回締約国会議(COP10)では、湿地としての水田の生物多様性の増進を目指す「水田決議」が採択された。登録地に「水田」と明記されているのは、蕪栗沼のある田尻地区だけだ。西沢さんは「水田とマガンは地域の資源。ふゆみずたんぼは、条約が目指すワイズユースの理想の形だ」と話す。

一方、マガンの観察や沼の葦(よし)の刈り取りなど、保全に取り組む地域のNPOは「蕪栗ぬまっこくらぶ」だけ。専従スタッフは、戸島潤副理事長を含め2人。あとは、ボランティアと会員から集めた年間約120万円で活動を続ける。戸島さんは「条約に直接対応する国内法がないため、社会の中で保護活動の位置づけが明確になっていない」と話す。

◇締約160カ国、登録地は1916カ所

現在の条約締約国は160カ国、登録地は1916カ所に及ぶ。国内の登録第1号は、80年の釧路湿原(北海道)。「希少な特徴を持つ」「絶滅の恐れのある種を支える」「定期的に2万羽以上の水鳥が生息する」などの条件に合った湿地を各国が指定し、条約事務局に通知することで登録される。対象地は湿地だけでなく湖沼、河川、干潟、マングローブ林と多岐にわたる。

地域の知名度が高まり文化が再評価される利点がある一方、「経済効果が十分でない」「登録地が増えて希少価値が薄らいだ」との声が出ている。環境NGO「日本国際湿地保全連合」によると、湿地自体の公的な保全計画がある登録地は3分の1程度。「計画の策定推進と保全活動に取り組む人材育成が急務」と訴える。

政府は昨年策定した「生物多様性国家戦略2010」で、国内の登録地を「12年のCOP11までに6カ所増やす」との目標を掲げた。

毎日新聞
http://mainichi.jp/life/today/news/20110228ddm016040040000c.html