スキー、スケート選手の「生産基地」に成り下がった北海道の崖っぷち | くしろぐ

スキー、スケート選手の「生産基地」に成り下がった北海道の崖っぷち

創部2年でカーリング制覇、「打倒、中部電力」から考える北海道再建論

かつて、雪と氷の超人の生産基地であった北海道は、経済氷河期、人口衰退期と同じくして、急速にその強みを失いつつある。

「雪」、つまりスキーではわずかに雪印、日本空調、土屋ホーム、東京美装などがスキー部を維持しているが、「氷」であるスケートでは北海道は完全な生産基地だ。北海道で高校時代を過ごした選手たちは、卒業と同時に故郷を離れ、長野、山梨、富山の実業団でしか選手生活を続けられない。しかも、これは極めて少数の実力者だけで、大半は競技生活の断念を強いられる。

この傾向は今のところ歯止めがかからず、極めて近い将来、北海道からはスキー、スケート選手が消滅するだろう。

氷都・苫小牧、あのスケート五輪代表を数々輩出したスケートのまちで、遂に中学生スケート選手が消滅したのは2010~2011年シーズンだ。天狗山の山頂から石を投げれば、冬季五輪代表の家に当たると言われたスキーのまち・小樽は、苫小牧より4年ほど早く中体連スキー大会が消滅している。

しかし、それすらも驚くにはあたらない。

先月29日に札幌荒井山シャンツエで行われた、第34回ミズノ杯ジュニアジャンプ大会の参加者は、第35回全道スポーツ少年団ジャンプ大会を兼ねているにも関わらず、小学生4年以下で16人、小学生5~6年で18人、中学生で24人、計58だった。つまり、北海道を逆さにしても子どものジャンパーはこれしかいない。北海道の人口550万7456人中、わずかに58人。

こういうスポーツは、この先消滅することが明白だ。

1972年札幌五輪当時は、道内のジャンプ少年団数は、約4000人。ちなみに、北海道と面積、人口規模が似ている世界的スキー強国のオーストリアでは、圧倒的にアルペン少年少女が多いものの、ジャンプでも3万人を数える。

これらを問題に取り上げるのは、今後の北海道の強みをどう維持するか?何をすることで北海道の自立を図るか?北海道活性化の柱は何か?を、考えるヒントになるためだ。

折から、北海道知事選挙も始まる。それぞれの候補者たちは、北海道の活性化にどのようなプランを持っているのか?それを追求しなければ北海道は「冬眠するヒグマ」と化す。やがて本州や世界が、「北海道民は冬になると全く元気がなくなるんだよ!冬眠するのが習慣なんだ」と、笑う時代が来かねない。

スキー、スケートは用具に多額の費用がかかる。

練習会場への親の送迎は欠かせない。つまり、簡単にできるスポーツではない。反面、サッカー、バレーボール、バスケットボールなどは費用的に安価だ。野球はそれより少し物入りとなるが、歴史的に中学校、高校には部活が完備されている。

冬季スポーツが本当に消え去る運命にあると断言されるのであれば別だが、今、必要なのは「北海道対世界」という構造は守り抜く気概だ。

日本全国を考えた場合、県対世界などという構造はありえない。北海道の冬季競技だけが、世界に戦いを挑めるのだ。

ならば、どうするか?

行政、教育委員会、道民を横断する組織を考えて、抜本的な対策を考えなければならない。それを知事が主導できるかが問われる。

成功している市町村に学ぶ必要がある。下川町では、町・教育委員会が町出身のスキー選手を指導者として招き、小学校、中学校、高校のジャンプ一貫教育を行い大変な成功を収めている。スケートでも帯広、釧路、別海などでは同様の成功がある。

まずは指導者の確保だ。私が小学生のとき、担任の宮崎恒子先生はスキー指導員だった。私にとっては宮崎先生が最初のスキーコーチだった。転校した小学校でも担任の田元先生はスキー指導員、中学校でも担任の瀬野尾先生はスキー指導員、体育の鎌田先生は国体アルペン教員の部のトップ選手だった。

だから大胆に提案をする。北海道の教員採用は、スキー・スケート経験者を優先とするか、道・道教委が管轄するスポーツ補助教員にスキー、スケート経験者を優先採用するべきだ。そうしなければ、多くの中学校がやめてしまったスキー授業やスケート授業は復活しない。

もうひとつの提案は、中部電力に負けていて良いのか?ということだ。

今季のカーリング日本選手権は、男子はチーム常呂の2連覇。女子は創部2年の長野県を拠点とする中部電力が初優勝した。

中部電力は決勝で6連覇を狙った、チーム青森を撃破。北見市常呂町に誕生した、ロコ・ソラーレは3位。中部電力のスキップ19歳の藤沢五月選手は、北見北斗高出身。父親は長野五輪候補選手だった。その父の指導で5歳からカーリングをはじめ、08~09年世界ジュニア代表として経験を積んだ若き司令塔だ。チームは4人とも正社員で身分保障がある。練習は正規勤務後の2時間だが、海外合宿、海外試合への参加は頻繁で「練習量は国内チームで一番」という自信が初優勝に結びついた。

ならば、北海道電力にもできるのでは?

北海道では、来年から「チーム道銀」が立ち上がる。北海道で商売する、特に公的色彩の強い企業ならば、全北海道的なチームや組織をスポーツや文化を問わず支援する気概が必要ではないか?

圧倒的多数が応援する北海道日本ハムファイターズに相乗りするのもひとつだが、なかなか陽の当たらない種目を支援するのも道民の共感を呼ぶ手法だと思う。何故そういうかといえば、今、長野では本場の青森や北海道を撃破した中部電力チームが脚光を浴び、支援している中部電力に称賛の声が多数寄せられているという。

カーリングはゲーム中、心拍数が130を超えたりしない軽スポーツだ。老若男女、誰でもができる国民スポーツだ。特に北海道では将来「北海道の国技」に成り得る。

冬の北海道は、全道どこでも屋外では氷が張る。学校の校庭でもカーリング場は可能だから、北海道の全市町村にチームを誕生させることが可能だ。全市町村対抗戦すら可能になるだろう。

本場・北見市常呂町にロコ・ソラーレが誕生し、札幌国際大学に常呂町出身者でチームができ、北海道銀行が新チームを立ち上げる。北見市、札幌市には通年型の6レーンの屋内カーリング場ができる。「北海道の国技」への道筋が見え出した。

だからこそ、官民あげて北海道の将来を考える時期が来ている。政治家も企業も、スポーツマインドを持たなければ地域に受け入れられることは出来ないし、なにより北海道の未来を語る資格を持てない。

中部電力の後塵を拝するだけで良しとしますか?あなたは、「冬眠する北海道」を良しとしますか?(文、スポーツライター・伊藤龍治)

BNN 北海道365
http://www.hokkaido-365.com/feature/2011/02/post-619.html