✳オリジナル小説です

とある地方都市の閑静な住宅街のビルの一室にある
『33』という不思議なお店。

お客様に小学生の頃に戻ってもらい、お母さん役の女性に何でも話してみて、自分は愛される存在であることを思い出してもらう場所です。

癖の強い従業員たちが色んな思いを抱えた人々を癒します。

耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳

ケンタが『33』の応接室で待っていたら、女の人が入ってきた。

「ケンタさん、初めまして。

私はこの店の責任者のミツヨと申します。

本日はお時間をいただきましてありがとうございます。」

子供の僕にとても丁寧な挨拶をしたのでびっくりした勢いで立ち上がって頭を下げた。


ミツヨはニコニコして

「わざわざご挨拶をありがとうございます。

どうぞお座りください。

本日はお母様のお仕事のことでお願いがあります。


まず、お母様にやっていただくお仕事は
 

゛話を聴く゛と゛ほめる゛をしながら

゛私はとても大切な人である゛

を思い出して、一人でも多くの人に幸せになってもらうことです。


突然ですが、
ケンタさんはお母さんと毎日お話していますか?」

ケンタは答えられず黙っていた。


「申し訳ありません。

先にお伝えし忘れました。

ここで聴いたことは一切誰にも話しません。
そして、言いたくないことは言わなくて大丈夫です。

お母様のお仕事も同じ約束です。」

「…」

ケンタはどう答えていいのかわからず怒ったような顔になった。

「質問を変えますね。
お母様がケンタさんの話を真剣に聴いてくれなくて寂しい気持ちになったことはありますか?」

「…あ、ります。」


「寂しい気持ちになったことがあるんですね。

では、ケンタさんが学校などで嫌なことがあって悩んでいる時、こんな事をお母様に話したら悲しい思いをするんじゃないかと思ったことはありますか?」

ケンタはミツヨの目を見てコクンとうなづいた。

「もう一つ。

ケンタさんがクラスで一番いい点数のテストの答案用紙を見せたのにお母様がほめてくれなかった、というようなことはありましたか?」

「………テストではないけど運動会の徒競走で一等になったのにあんまり喜んでくれなかった。
 

友達は三等でもほめてもらってたのに…」


「ケンタさんは徒競走で一等になったことがあるんですね。一等とるなんてスゴイですね。

お母様がほめてくれなかった時はどんな気持ちになりましたか?」


「…やっぱり僕のことがキライなのかな…」

ケンタは誰にも言わなかった気持ちをそっと呟いた。


「ケンタさんはお母様に嫌われている、と感じたんですね。お話しくださってありがとうございます。

少し私の話をさせていただきますね。

私には3つ下の妹がいます。

生まれたときに病気が見つかり、お母さんはずっと妹に付きっきりでした。

私はずっと寂しくても我慢していました。


ある日、家にお母さんと二人きりになったので私は少しだけお母さんに甘えてみました。

その時、

『邪魔だから離れていて。あなたは自分で何でもできるでしょ。』とお母さんに言われました。

私の気持ちは
 

゛私は邪魔な子なんだ…。゛

それからお母さんに甘えなくなりました。

そして、誰にも頼れないようになりました。


今考えると、その頃妹の治療に成果が出ずお母さんは不安で苛だっていたと思います。

だからまとわりついてきた私に構う余裕がなかったかもしれません。

小さかった私にはお母さんの事情はわかりません。
子供にとっては目の前の人の言葉と行動が全てです。

残念ながら私は誰にも頼らず甘えられず大人になりました。


ケンタは運動会の前の日にお父さんがお母さんを怒鳴りつけていたことを思い出した。

それは引っ越しをする一週間前だった。

運動会の日、お母さんはお父さんから逃げることを考えていたかもしれない。


「今までの話で質問はありますか?」

考え事をしていたケンタは我に返った。

ミツヨという人が言いたいことは何となくわかったから首を横にふった。

「少し難しい話ですが、ケンタさんは理解しようとしてくださってありがとうございます。

ここからはお母様のお仕事の内容を具体的にお話します。」




つづく