✳オリジナル小説です
とある地方都市の閑静な住宅街のビルの一室にある
『33』という不思議なお店。
お客様に小学生の頃に戻ってもらい、お母さん役の女性に何でも話してみて、自分は愛される存在であることを思い出してもらう場所です。
癖の強い従業員たちが色んな思いを抱えた人々を癒します。
いつもの駅から電車を3回乗り継いで僕の知らない街で降りた。
そこにはお母さんの友達が住んでいて
「少しだけ世話になるわね。
すぐに部屋を探しすから。」
とお母さんは何度も友達に話していた。
僕は夏休み前にここに来たから、通知表はどうするのかなぁ~とか、転校するのかな~とか夏休みの宿題はしなくてもいいのかな~とか考えていたのを覚えている。
それから毎日、お母さんは仕事と住むところを探しに行っていたので、その間は寂しくて泣いてばかりいた。
「お母さん…」
と言葉にするだけでお母さんに心配をかけるような気がしていっぱいいっぱい我慢した。
だけどそんな生活もすぐに終わった。
お父さんが探しにきたのだ。
お母さんの友達が
「ご主人から連絡があった。
明日、ここに来るかもしれない。」
お母さんは友達に迷惑がかかると言って、すぐに部屋を出た。
僕はよくわからないけど、お母さんの目が赤いから黙って後をついていった。
夏休みの間だけでも2回知らない街に行った。
お母さんは「ここはお父さんの知らないところだから大丈夫よ。」と言った。
僕は新しい学校も決まり、新しい友達を作った。
でも、ある日帰り道の途中でお父さんが立っていた。
「家に帰ろう。」
僕はとっさに学校へと走った。
校庭にたまたま担任の先生がいたから、お父さんに会ったことを話した。
その夜、新しく出来た友達にも挨拶できずまた知らない街の駅に着いた。
この頃から、僕は゛強くなる旅゛がイヤになってきた。
なぜなら、お母さんがあまり僕を見なくなった。
そして、僕の名前を呼ばなくなったからだ。
理由は知っている。
理由は知っている。
ずっと前におばあちゃんに
「ケンタはお父さんそっくりね。」
と言ってお父さんの子供の頃の写真を見せてくれた。
そして僕の名前はお父さんと同じ漢字が一文字使われている。
お母さんは僕を見てお父さんを思い出すのかもしれない。
僕がいることでお母さんを悲しませているかもしれない。
゛ボクハイラナイコ゛
毎日、そんなことばかりぐるぐると考えた。
つづく