✳オリジナル小説です

とある地方都市の閑静な住宅街のビルの一室にある
『33』という不思議なお店。

お客様に小学生の頃に戻ってもらい、お母さん役の女性に何でも話してみて、自分は愛される存在であることを思い出してもらう場所です。

癖の強い従業員たちが色んな思いを抱えた人々を癒します。

耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳耳

「ナカさん、ご予約のマサオ様が着替え室に入りました。」


イチから待機室にいるナカさんに連絡があった。


開店当初からのお客様であるマサオは月一回のペースで『33』を利用している。


「マサオ、今から将棋するぞ。」

今日のナカさんは゛父親゛役だった。


マサオの目的は、父親と子供の頃にやりたかった遊びをすることである。

今までコマ回し、メンコ、囲碁等をしたが、一番落ち着くのが将棋だった。




マサオにこの店を紹介したのは、『33』が入っているマンションのオーナーのリョウである。



紹介された頃のマサオは、父親から継いだ不動産業を娘婿に譲り渡し、悠々自適な生活を送ろうとしていた。


これからどのように過ごすかを考えた時に何も思い浮かばず、自分の人生の中でし残したことはないか考えてみた。


過去を振り返るとマサオ自身で決断させてもらえず、全て父親の決定に従ってきた。


マサオは今更ながら自分の人生が父親に長年支配されていたことにがく然とした。






マサオの家系は代々資産家ではあるが、マサオの父親の型破りな商売で資産を一気に増やした。


父親は゛自分の考えが一番正しい゛と信じて疑わないため、仕事も家庭も自分の思い通りに動かした。


意に沿わないことがあると烈火のごとく怒り狂い暴力も伴うため、周りはおとなしく言うことを聞くしか生きる術がなかった。



幼い頃からマサオは父親のいつ沸き上がるかわからない怒りがものすごく怖かった。


思春期には口ごたえをしたこともあるが、その度に母親が10発殴られた。


次第にマサオは自分の意思を持つことを諦めて従順な息子を演じるようになっていった。




゛自分の人生はこれで良かったのか?゛


と疑問を持ち始めた時に、不動産関係者の会合で昔からの知り合いのリョウに少しだけ愚痴をこぼした。


「よろしければ、私の友人があなたのお悩みを軽くするお手伝いをさせていただきます。」



マサオは何の期待もしていなかったが、リョウに勧められたので仕方なく開店したばかりの『33』のお試しに行くことにした。




つづく