宝塚スカイステージで放送されていた「不滅の棘」を見ました。録画したのはファーストランだったんですけど、なかなかじっくり見る時間が取れなくて。初演は見ていませんし、真っ白な舞台だと聞きかじって、独特の美意識にあふれた私には理解できない作品なんじゃないか、と勝手に恐れていたので、恐る恐る見てみましたあせる

 

   そうしたら、それは偏見だったことが分かりました❗️登場人物が意外と等身大で、ちょっと笑える場面もあり、もちろん切ない場面も多いのですが、最後まで引き込まれて見ることができました。

 

   愛ちゃん(愛月ひかるさん)演じるエロール(エリイ)は父親に不老不死の薬を与えられ348年間生きています。昔フリーダ・プルスという女性(遥羽ららさん)を愛し、息子が生まれたのですが、彼女は息子を連れて姿を隠してしまいます。その後、フリーダ・プルスの子孫のフリーダ・ムハ(ららちゃん二役)の前にエロールは人気スターとして姿を現し、フリーダが抱える財産相続の訴訟の手伝いをしたり、プロス家のクリスティーナ(華妃まいあさん)に近付いたりします。

 

   愛ちゃんがとにかくカッコいいです😍。真っ白なコートをひるがえす身のこなし、皮肉っぽい表情や話し方。まさに人気スターのオーラでした。それなのに素の誠実さがにじみ出ているようで魅力的です。たくさんある歌もどれも素敵でした。「フリーダ、フリーダ…」…切なくて耳に残ります。

 

   最後の方で348歳であることを告白し、愛する人や息子と生きることができなかった切なさ、生き続けることへの疲れや虚しさを訴える場面は、それまでの余裕たっぷりなかっこよさから鮮やかに雰囲気を変え、抱き締めてあげたくなるような辛さを表現していました。圧巻でした。

 

  そのエロールを、周りの人達が怯えたような目で見ているのが痛々しいです。フリーダだけが、エロールが先祖のフリーダと愛し合ったことを「愛は不滅のものよ」と分かってくれてよかったです。

 

   エロールは再び不老不死の体になることをやめ、薬の調合法を誰かに託そうとしますが、受け取ったフリーダはその書類を暖炉に投げ捨て、エロールは「フリーダ、よくやった!」と叫んで砂になって消えてしまいます。ああ、切ない😭。

 

  「終わりがあるからこそ意味がある、価値がある」…エロールはそう言って、普通の人間たちの幸せが羨ましいと告げます。永遠の命を持つものの悲哀、というテーマは当時同時に上演されていた花組の「ポーの一族」にも共通のもので、話題になっていた気がします。

 

  でもどちらかというと私は「蒼いくちづけ」を思い出しました。「蒼いくちづけ」のドラキュラ伯爵も永遠の命を持っていましたが、エロールのような悲壮さはなかったなあ。2幕目がコメディータッチだったせいもあると思いますが、ドラキュラ伯爵には一緒に永遠の時を生きてくれるヴィーナスという女性がいたから幸せそうだったのかなと思います。

 

  「ポーの一族」のエドガーも、1人では生きられないとアランを誘っていますものね。

 

   実際に人間は死ぬことを避けることができません。私は子供の頃から「死」について恐怖感を周りの人より強く持っていた気がしますし、今でもこうやって考えている私自身がいなくなってしまうんだと思うと、暗澹たる気持ちになってしまいます。

 

   だからこそ、死が避けられないからこそ、限りある生の価値を謳うこのような作品が生み出されるんだろうなと感じます。また、限りあるにしても(ないとしても)理解し合い、一緒に生きる人間が大切であることも、真理であると思います。なかなか難しいことだとも思いますが。

 

   お伽話のような独特の雰囲気もありながら、考えさせられるいい作品でした。そして、愛ちゃん、ららちゃんだけでなく、自殺してしまうクリスティーナまいあちゃんの歌と演技も素晴らしかったですし、他の出演者もみんなよかったです。エロールが登場する前に4人組のコーラスガールが歌い踊ったり、大きな卵からエロールが登場したり、楽しい演出もたくさんでした。

 

   これを見て、愛ちゃんには是非トップスターになってもらいたいなあと思いました。ラスプーチンもとってもよかったけど、正統派のスターも絶対似合う😆❗️  最後の挨拶で、言いたいことが出てこなくて「詰めが甘い」と照れ笑いし、みんなを笑わす愛ちゃんが可愛かったです。そして、まいあちゃんには次の新人公演ヒロインを、是非やってほしいです❗️