『子どもと読書』5・6月号「植物の本のたのしさを子どもたちへ」特集に掲載されました。

 

「文庫で愛でた植物と本」  

 

今やマンションやアパートの立ち並ぶ中の家庭文庫になってしまいましたが、3人の子育て時代には、まわりは田畑で蛍が飛び、数年ヤギを飼っていました。静岡市郊外でトモエ文庫を始めたのは40年前ですが自然が年々少なくなる中、できるだけ絵本と自然体験を大切にし実物(実体験)と結び付けたいと思ってきました。本よりも庭で遊ぶのを楽しみに来る子もいますが、「文庫は本のある居場所」で、楽しい時間を過ごしてもらえばいいと気長に文庫を続けています。

 

庭の草花でままごと遊び、チェリーセージの花の蜜を吸うこと、イチジクや枇杷を木から採って食べることなど、子どもが望めば.危険がなければほとんどOKしています。隣接する小さな畑でジャガイモ掘りをし、ゆでたてを食べながら外でのお話会をしたことなど楽しい思い出です。待ちきれず、いっせいに手で掘り始めた子ども達でした。掘ったジャガイモを又地面に埋めて「また芽が出るか調べる」と言う子もいたりして、子ども達の思いがけない言動に出あうのもこんな時です。

 

畑のミニトマトがちっとも赤くならないと思っていたら子どもたちが食べていたことも・・。子ども達が川の土手で採ってきた数珠玉で腕輪作りが流行ったこともあります。そんな中での絵本体験をご紹介します。

 

これはおひさま』(谷川俊太郎作 大橋 歩絵 福音館書店) は、「これはおひさま」から始まり「これは おひさまのうえの むぎばたけ」と、次々に言葉の積み上げと展開を楽しむリズミカルな詩の絵本です。著作権が厳しくなかった頃はパネルシアターにして子どもたちと声に出して楽しみました。読む前に本物の麦を「これな~んだ!」と見せて、読んだ後、麦の茎をストローにして上に切れ目を入れてエンドウ豆をのせ、下から吹いて高く飛ばす競争をしました。

 麦を戯れに栽培したのは1年だけですが、ドライフラワーにしたので、この本を読むときには「これな~んだ!」と紹介しています。「たんぽぽ」(まどみちお詩)の手作りパネルシアター上演も春の定番です。わらべ歌や科学絵本の読みも入れて、たんぽぽやつくしなど春の野原の草花に誘っています。

そらまめくんのベッド』シリーズ(なかやみわ作 福音館書店)は、事前に各種豆類を集めます。空豆のベッドに小粒の豆を寝かせる3歳児の手つきが可愛いかったこと!

『いちご』(平山和子作 福音館書店)は、参加者が少ないときに、「お口あ~ん」と秘密を共有。我家は竹の子が採れるのでシーズンになったら皮付きの竹の子を紹介して、『ふしぎなたけのこ』(松野正子 福音館書店) 『たけのこぐんぐん』(福地伸夫作 福音館書店)を。庭にふきのとうを見つけると『ふきまんぶく』(田島征三 偕成社)を読みたくなります。

びっくりまつぼっくり』(多田多恵子文 堀川理万子絵 福音館書店)は、仲間が実験付きで披露してくれました。『どんぐり』(エドワード。ギブス作 谷川俊太郎訳 光村教育図書)も、わらべ歌と共に楽しみます。爪楊枝でコマを作って、回して遊んだものです。どんぐりの帽子の「がく」も子どもたちに人気です。

 庭のシュロの木を見つけて、葉っぱでたちどころにバッタを作ってくれたのは科学遊びの会の友人でした。近くの沼で環境保全運動をしている友人は、カヤネズミの巣をとってきてくれて、『すぐそこに、カヤネズミ』(畠小夜子作 くもん出版)などの写真絵本を紹介してくれました。科学や自然に関心が高い子どもや大人が文庫に参加したときには、自然や科学がより深く親しめるものです。

 木の実や葉っぱや草花を子ども達(大人も)が持ってきたときには科学絵本の出番です。『木の実とともだち みつける・たべる・つくる』(松岡達英 偕成社) 『草花とともだち みつける・たべる・あそぶ』(松岡達英 偕成社)、甲斐信枝氏の『たんぽぽ』(金の星社)『つくし』『ざっそう』『たねがとぶ』『みつけた!』『きゃべつばたけのいちにち』『ひがんばな』(いずれも福音館書店)等や、各種図鑑にお世話になりました。

 以上の事例は、過去の文庫の記録から思い出してご紹介しました。その過程で、コロナ禍に見舞われてから手で触れあうことにためらうようになり行動制限し「あれもこれもしなかった」失われた数年に想いを馳はせました。

 

その間に子ども達ができなかった事の大きさを再確認し、残念に思いました。どの子にとっても子ども時代は2度とありません。自然の中で思いきり身体を動かし、仲間と共に自然とふれあう体験をいっぱいさせたかった! と思います。

年が明けてすぐに能登半島では大地震に見舞われ、世界各地での戦争も、収まる気配がありません。地球の安全と平和を切に願っています。

文庫主宰者の私は80歳の大台を超えましたが、次世代に希望を繋ぎ、地方の片隅の文庫で、わずかでも出来ることを今少し探ってみたいと思うこの頃です。