(12月4日) 2

すると、クルミ先生が再び叫びます。

おい! 十円玉が落ちているぞ! 誰のだ!? オレがもらうぞ!

(人として最低だな……)

素直なコメントは心の奥にしまい込み、机を運びました。そして、自分のポケットに手を入れます。手元には十円玉が二枚。しかし、僕は首を傾げました。

(あれ……? 確か三十円あったはずだけど―――まさか……)

偶然なのか、必然なのか、クルミ先生の手元にある十円が人質にも思えてきます。

今回ばかりは回避可能な出来事、お金よりわが身の安全を優先し、無視する方針をとる事にしました。

すると、破魔が眼鏡を輝かせ、大きな声を出します。

ああ。そこにありましたか。香のポケットから取り出して遊んでいたのですが……見つかってよかったですね。香

破魔!? てめぇ……余計な事を!?

思わぬ伏兵でした。なくした原因まで発覚し、しかしクルミ先生は僕をにらみつけて怒鳴ることを優先します。

貴様か草薙ぃ! 金の亡者か、こらぁ!

(別にそうでもないけど!?)

もはや、チンピラと何も変わりません。十円玉一つで、ここまで怒られる生徒は僕くらいでしょう。そして、僕は仕方なく謝ることにしました。

すみません。例え一円でも、お金は大切ですよね。反省しています

腰を低くして、クルミ先生を刺激しないように言葉を選びます。しかし、クルミ先生は気が狂ったかのように叫びました。

うるせぇ! お金はもっと大切に持っておけ! こんな風に!

クルミ先生はそのまま十円玉を持った手を振りかぶり、「おらぁ!」と大きな掛け声を出して十円玉を外へ放り出します。

同時に、僕は教室の外へと放り出された十円玉を目で追いました。

そして、窓枠まで駆けます。

すると、放り出された十円玉は、校庭で掃除をしている生徒の額に直撃しました。その生徒は吹き飛ばされて昏倒し、お金は影もなく消え去ります。

え、ええええぇぇぇぇぇぇ――――――!? ひ、ひでぇ! クルミ先生も大切にしましょうよ!? お金なのに! ってか、今の行動にお金の大切さが全く感じられない!

僕の言葉に対し、クルミ先生は腕を組んで胸を張りました。

い、いや……何ていうか……神社にお金を入れる箱があるだろ。さいせん箱ってやつか? あれに入れる要領で投げてみた

そんな事は訊いていませんから! しかもあの要領で投げたら危険でしょ!? 箱に入る前に怪我人が出ますよ! むしろ箱も壊す気!?

本当に危険極まりないクルミ先生です。

そして、大きめの胸を揺らし、僕の左肩に右手を置きました。ク

ルミ先生は僕に豪快な笑みを見せ、うなずきかけます。

はっはっは! まぁ、男が小さなことで文句を言うなって

(怒鳴っていたのはどっちだよ……)

僕はコメントが出来ず、黙ってクルミ先生を見上げるだけでした。

女性とはいえ、本当に風来坊とも言える存在です。

こうして、騒がしい掃除の時間が終わり、本日の放課後を迎えました。

太陽が天に昇りきった、昼下がりの時間帯です。

〔つづく〕

登場人物

草薙 香    主人公

真田 刃(剣) 香の親友(ある事情で、兄を演じる香の彼女)

宮司 破魔  眼鏡の学級委員長

西藤あゆみ  ボクッ子の迷惑少女、香の同級生

草薙 奈留  初登場、クラスメート。香と血縁はない。お嬢様

クルミ先生   香のクラスの担任の女教師

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ストーリーの概要

草薙香の小説・アーカイブ(あゆみと香toベイン・ドリーム)

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