(11月29日) 17

実際に触れてみても、英語の教科書とノートは無傷であり、無事です。

僕がその光景を確認すると、奈留は静かに諭しました。

プレッシャー……知っているかしら? 物理的ではなく、心理的に潰される感覚よ。あなたはそれを感じているわ。本当は無責任だから、責任と言う言葉が怖いの。生徒を背負って、教師の期待を背負って、それでもまだ―――生徒会長になるつもりかしら?

当然―――っ! ……だよ。確かに僕は無責任だ。責任なんて、あまり背負いたくない。けど、約束したから……生徒会長になってやるって。他の人にとったらどうでもいいけど、僕にとっては大切なことだ

一瞬、自分の言葉にすら自信が持てませんでした。ようやく言葉を発すると、奈留は再び窓の外を眺めます。

約束……ね。最初はその程度のもの。誰かとの約束が、いつの間にか責任を持つものになる。でも、考えてみなさい。自分は生きているのよ。責任を恐れることはあっても、責任から逃げ続けることなんて……逆に難しいことなの

彼女の視線は定まらず、窓の外の光景を眺めているだけでした。

どことなく物寂しい雰囲気があり、同時に気まずくなります。

今の状況を打開しようと、僕は少しだけ話を切り替える事にしました。自分の席に座り、彼女に対する疑問を口にします。

と、ところでさ。生徒会って、具体的に何をするの? いや、何をしてきたの? あまり目立たないような気がするけど……なぁ

僕の質問に対し、奈留は外を眺めたまま答えました。

そうね。よく分からないわ。行事を運営して、学校のために頑張って……でも、これといって面白い事なんてなかったわ

消極的な回答に、僕はうなずいて口を閉じます。すると、教室の入り口に新たな男子学生が現れ、その人物は頭を下げました。

奈留様。お迎えにあがりました

様子をうかがえば、使用人のようです。

そして、奈留は両腕を組み、使用人に振り返りました。

お、遅いわよ。遅れるなら遅れるって……言いなさいよ

彼女は語尾を弱め、組んだ腕を強く締め付けます。クラスメートにはやや気丈な部分があるのですが、使用人には弱い雰囲気でした。

そして、使用人の男子学生は頭を上げ、奈留のカバンを持ちます。同時に、奈留が小走りで使用人に近づき、横目で僕に諭しました。

あなたの覚悟、しっかりと見せなさい。同じ草薙家として、同情も容赦もしませんから

分かっている。僕の器を見せてやるよ。今のうちに見ておいてくれ、この学校を覆い尽くす度量を。この僕が、今の生徒会長まで出し抜く経緯を―――僕こそが、人の心を掴み取って見せる!

こうして、僕は教室でひとりきりになり、奈留たちを見送ってから四時間も待つ事になるのです。その間、明日の勉強をしておくのでした。

〔つづく〕

登場人物

草薙 香    主人公

真田 刃(剣) 香の親友(ある事情で、兄を演じる香の彼女)

宮司 破魔  眼鏡の学級委員長

西藤あゆみ   ボクッ子の迷惑少女、香の同級生

草薙 奈留  初登場、クラスメート。香と血縁はない。お嬢様

クルミ先生 香のクラスの担任の女教師

男子学生    奈留の使用人  

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ストーリーの概要

草薙香の小説・アーカイブ(あゆみと香toベイン・ドリーム)

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