医院や薬局の待合室で見ていたのですが、マイナンバーカードで受診手続きをする人はほとんどいませんでした(私も登録はしてありますが、ギリギリまで紙の保険証で通そうと思っています)。 

 

 一人、マイナンバーカードを出したご高齢の方がおられたのですが、「どうすればよいのか、字が見えない」(眼科だもの!)とのことで、ナースがつきっきりでお手伝いをしていました。この方の場合には、どうもそもそもマイナンバーカードに保険証を登録していなかったというオチまでつきました。

 

 紙の保険証ならば、それと診察券を手渡せば済みます。その“簡便さ”と比べれば、器械の所定の場所にカードを置き、何度か画面にタッチするという手間と時間がかかります。しかも器械が何種類もあるようで、そのつど戸惑うことになりそうです。

 

 眼科でうまくいくのでしょうか。耳鼻科では、手伝ってくれる人の声が聞こえない人もいるでしょう。リウマチなどで手の不自由な方はどうするのでしょう。乳幼児医療証などは当面は紙なので、手間が増えるだけです。

 急性の症状のために辛くても、増えた「仕事」に対処しなければなりません(手伝う職員の手間が増えることになるのでしょうか)。

 患者に手間をかけさせるということ自体、患者中心ではありません1)

 

 マイナ保険証で受け付けないと診察の順番を後回しにする診療所、マイナ保険証でしか受け付けない薬局が出現しているとのことです(2024.6.6報道ステーション)。これは法律的にもどうかと思いますが、それ以上に人権問題です。

 

 10万円の補助金2)をチラつかされて、このような行動に出ているのでしょうか。政治家/行政や医療者の人権感覚はその程度のものなのです。人権感覚が希薄だという足元が見透かされているからこその補助金なのでしょう。恥ずかしい限りです。

 

 インフルエンザなどが流行して病院が混雑する冬に全面移行するつもりのようですが、大丈夫でしょうか。年末年始に救急患者が殺到する武蔵野赤十字病院の救急外来はどうなるのでしょう。

 

 現場のことは考慮していないのでしょうが、もともと「政治」とはそのようなものかもしれません。「現場が努力して、政策に合わせろ」というのは、患者さんに「努力して医療の論理/医者に合わせろ。それがあなたのためなのだ」というのと同じです。

 

1)大昔のことですが、耳鼻科外来で「名前を呼ばれたら返事をしてください」と掲示してあるのを見て驚いたことがあります。耳の具合やのどの具合が悪い患者さんが受診するところの掲示としてはありえない(そんな感性で良いのか)と思い、文言の修正をお願いしました。

 

2)それでもなかなか普及しないので補助金を引き上げようと厚労省は考えているようです。このような品性下劣な発想の政策が行われていることに呆れますが、それに乗るくらい医者は品性が下劣だと思われているのでしょう。それが「当たらずといえども遠からず」なのが情けない。