1996年の夏、私は、筑波大学(当時)の大滝純司さん(現・東京医大教授)から、しばらくの間東京SP研究会(現・一般社団法人マイインフォームド・コンセント)の活動の手伝いをしてくれないかと打診されました。それまで研究会を医師として支えておられた大滝さんがアメリカに1年留学している間の代理ということで、私は喜んでお引き受けしました。

 

 模擬患者のことは少し前から知っていましたし、これからの医学教育にはぜひ必要だと思っていたことも、その気持ちを後押ししてくれました。その1年前、川崎医大で行われた医学教育学会で、COMLの辻本好子さんから東京SP研究会の代表だと佐伯晴子さんを紹介していただいていましたから、知らぬ仲でもありませんでした。

 

 ところが、ワンポイントリリーフのつもりだったのに、そのまま30年近くも研究会とのおつきあいが続くことになってしまいました。

 

 はじめのころSPやOSCEを知っている大学の教員はごくわずかだったのに、今ではコミュニケーションについての教育を行うことがどこの大学でもあたりまえになりました。試行的にわずかの大学で行われていたOSCEは共用試験として必修のものとなり、さらに多くの大学でadvanced OSCE(post-PCC OSCE)が臨床実習後に行われるようになりました。もうすぐ国家試験の扱いになりそうです。

 どの大学にも医学教育部門が設立され、コミュニケーション研究の専門家という人も出てきました(ほんとうは、誰もがコミュニケーションの専門家です)。コミュニケーションに関する本もたくさん出版されるようになりました(他人事じゃないって)。

  

 最初のうちは病院や看護大学でのコミュニケーション研修が多かったのですが、医療面接が医学教育に取り入れられるにつれ、医療面接演習を行う大学に招かれようになりました。OSCEを取り入れる大学が増えてくるにつれ、OSCEの医療面接に対応する模擬患者の派遣を東京SP研究会に依頼してくる大学が増えて来ました。私は「研究会の金魚の糞」(また私は金魚の糞をしていました)としてご一緒していただけなのですが、20以上の大学のOSCE導入に立ち会い、医療面接演習のお手伝いをした大学もいくつもあり、お蔭でたくさんの大学や病院の先生たちと知り合うことができました。

 

 でも、どうしても模擬患者が道具として扱われがちなOSCEよりは、面接後にフィードバックすることも討論することもできる医療面接演習のほうが、ずっと楽しいし意義深いと思っています。医療面接演習での佐伯さんの的を射た鋭い(しかもソフトな言葉で表現された)指摘からたくさんのことを私は学びました。

 医療面接演習は、フィードバックや討論があってはじめて学生のためのものになると思います(試験は教師のためのものです)。ちなみに、武蔵野の研修医オリエンテーションでの面接演習では、15分程度の面接と30~40分の参加者全員によるディスカッションを1クールとして行っています。

 

 2000年以降は、模擬患者の活動や、日赤本社での講演/「医療事故・紛争対応研究会」での講演1)をきっかけに、次々と全国の大学・病院・医師会・自治体などでコミュニケーションについての講演をさせていただくようになり、ここでもたくさんの出会いがありました。

 80回以上お手伝いしたいろいろな病院・組織での指導医養成講習会でもたくさんの出会いがありました(いくつかの講習会では佐伯さんもご一緒でした)。

 

 私の院外での活動のすべてが佐伯さんとの出会いから始まったのでした。その後一緒にお仕事をさせていただいたお蔭で私の活動する世界は大きく広がりました。だから、私は佐伯さんに足を向けて寝られないのです(ほんとうに向けていません、地図で確認しました)。

 

 このブログに書いていることや『温かい 医療を めざして』(篠原出版2020)に書いたことは、こうした活動での経験やたくさんの人との出会いで学んだことと、戸惑いながら右往左往してきた自分の臨床の場での経験とから生まれました。医者になった時の思いは、たくさんの方のお力添えのお蔭で、消え去らずに済んだのです(こんなに言いきって大丈夫かな・・・)。

 

1)佐伯さんとの共著である『話せる医療者』を読んだ主催者から招いていただきました。この会では15回くらいお話しすることになりました。

 

このテーマの最後の文章です。