OSCE(客観的臨床能力試験)や医療面接演習の場面では笑顔でとても爽やかにあいさつしていたのに、その学生が演習終了後、室外の廊下で模擬患者さんに会っても挨拶もしないことがあると、しばしば耳にしました。教育が身についていないと言われれば、その通りです。

 

 でも、学生の立場になってみれば、演習室・試験室の外で模擬患者さんに会っても、どのように挨拶してよいか少し戸惑っているのかもしれません。つい先ほど、ほんの短い時間会っただけの、もともと知り合いでもない人に挨拶をしてよいものか迷います。若い人ですから、ふだんからそんなに挨拶をし慣れているわけでもありません。わざとらしく挨拶すると、「良い点を付けてくださいね」とゴマをすっているような気もしてしまいます。試験や演習が続いているのであれば、「患者さん」になりきっている人に「素」の挨拶をしてはいけないような気もします。

 

 模擬患者のことを、受けたくもないOSCEの片棒を担ぐ=学生を「いじめる」人のように思ってしまう学生もいるかもしれません。教員と親しそうに話している模擬患者は教員側の人間に見えてしまいます。教員といえば何かにつけて「教えてやる」「言うことを聞け」という存在で(違う人もいますが)、自分たちの優劣を評価する人です。そのような教員という存在に親和性がない人は、模擬患者にも親和性を持つことはありません。模擬患者も評価表をつけているとなれば、ますます模擬患者は教員の「一味」です。

 

 「学生の勉強のお手伝いをしています」「貴方たちが良い医者になることのお役に立ちたいと思って活動しています」(そのように言わなくとも、この感じ=「教員臭」は伝わります)という存在を、教員と同種の「うざい」人間と思う学生もいるかもしれません。(このような感覚には、きっと勉強も学校も、そして教師も苦手だった私の個人的経験からの偏見があります。)

 

 私は、短い時間でのささやかな見分で人のことを「決めつける」ことは避けたい(実際に出来ているかは別ですが)。どんなことにも、その人なりの思いや言い分があるはずです。医者は、患者さんの話を少し聞いただけで、患者さんから一言二言を言われただけで、時には患者さんを一瞥しただけでその人のことを即断してしまいがちです。学生に対しても患者さんに対してもその轍は踏まないようにしたい。