糖尿病の服薬指導の面接演習で「どうして入院されたのですか」と質問した薬学生がいたという話を、模擬患者さんたちの会合で聞きました。入院患者への服薬指導の場面だったためか指導教員から軽く流されてしまったらしいのですが、それはもったいない。このような質問のできる学生がいることに私は感心し、「どうしてそのような質問をしたのか」尋ねてみたいと思いました。

 

 もし、この学生の知り合いや身内に糖尿病の人がいれば、このような質問をせずにはいられないはずです。「体調の不調を感じて受診したところ、血糖値がとても高いために緊急入院して、退院間近な人」なのか、「教育入院の人」なのか、「外来で治療をしていてもなかなか良くならないので入院した人」なのか、「本人の努力にもかかわらずだんだん進行してしまった人」なのか、そもそも「病気のことがよく理解できない人」なのか。今回の入院が「望んでのものだったのか、嫌々入院したのか」、入院に「満足しているのか、不満だったのか」。その患者さんがどういう経過で今ここにいるのかを知ることによって、話す内容も順番も変わってくるはずです。この学生が身近でそのような人を見ていたら(あるいは糖尿病のことを深く考えていたら)、このような質問から始めるでしょう。

 

 それは「患者情報を収集する」「患者指導をする」というより、今の患者さんの状況に謙虚に近づこうという姿勢です(患者さんと上手くつきあえていない時、「情報収集」「指導」の姿勢が前面に立っていることが少なくありません)。チーム医療の時代ですからナースステーションで情報は得ているのでしょうが(面接演習の場合にも少し情報が書かれているのが普通ですが)、それでも直接本人から話をうかがうことがお付き合いには欠かせませんし、そこからしか適切な助言はできないと思います。

 

 医療者が患者さんに質問する時には、なぜその質問をしているのかの理由も患者さんに言わないと、患者さんは戸惑ってしまいます。「診断を進める上で・・・について知りたいので」「・・・の可能性があるので、・・・についても伺っておきたいのですが」といった説明をしてから質問するようにと、私は研修医に言っています。この演習のような例の場合、「あなたの返事しだいで話し方が変わるので」とは言えないことが「つらい」ところです。

 

 「どうしてこの質問をしようと思ったのか、教えていただけますか」とこの学生に指導者が尋ねたら、深いディスカッションができたかもしれないのにと残念に思いました。演習の場にはキラリと光る原石がいっぱいあります。その原石を教育者はしばしば見逃し、臨床現場はその輝きを曇らせがちです。

 せっかくの質問がスルーされたことで、学生が服薬指導演習にがっかりしていなければよいのですが。