指揮=ジョナサン・ノット
ソプラノ=森麻季*


J.アダムス:ザ・チェアマン・ダンス(歌劇「中国のニクソン」より)

ドビュッシー:遊戯
マーラー:交響曲 第4番 ト長調*

 

来日が遅れたノット。興味深いプログラムがキャンセルになったり、代演になったりと残念だったが、なんとか2公演は実現するとのこと。演奏者、関係者のご苦労を考えると、ただただ頭が下がるばかりである。来日が遅れたため十分なリハーサルが行えなかったと聞くが、終始オケも指揮者も前傾姿勢。多少の事故には気後れすることなく、最後までChallengingな演奏。Covid-19対応後の一連の演奏会の中で、もっとも深い満足感を与えてくれた演奏会だった。

 

J.アダムズの出だしから、音の粒立ちの鮮やかさと細かなニュアンスの出し入れに軽く圧倒される。情報量がとても豊富。私はJ.アダムズの聴き方みたいなものがいまひとつよく分かっていないので間違っているかもしれないが、リズムや速度の変化とこの豊富な情報量があいまって、他の誰の作品でも聴くことのない独特の世界が広がっていく。穏やかさと焦燥感の絶妙なバランス。どこか田園の懐かしさと都会の倦怠を感じさせる響き...。不思議な音楽である。このコンビなら、全曲J.アダムズのプログラムを企画してもよいのでは。ノットの振る"Short Ride in a Fast Machine"とか、考えただけでもワクワクしてくる。

 

ドビュッシー、マーラーと進んでも、指揮者とオケの積極果敢な姿勢は持続。それにしてもノットの旺盛な表現意欲は留まるところを知らず、まるでずっと鞭を入れ続けている乗馬のよう。リハーサルが少ないとか、まるでお構いなし。テンポの伸縮、強弱の交代、音色の変化...。いろいろなアイディアを次から次と繰り出してくるので、結構な事故も発生しているのだが、意図が明確なためあまり気にならない。マーラーの1楽章の展開から再現への流れは実に見事で、とても感動的。

 

できればもう少し精度を上げるために、もう1日同じプロがあればよかったのにと思わないでもないが、とにかく来週の「巨人」がますます楽しみになってきました。