兄が、部屋に鍵をかけた。
そう、麟太郎流、必殺の秘奥義の稽古をするのだ。
友田家に伝わる幻の、、
いや、ぶっちゃけ誰もが使えるし、やっている。
ただ、奥義はその秘密を知られてはならない。
友田家に伝わるものだから、わたしも使えるし、使う。
でも乙女だから、一応恥じらって、ふだんは言わない。もちろん。
秘するが花。
昔の偉いひと、世阿弥さんというひとが残した言葉だ。
あらゆる芸事は、そのカラクリを明かしてしまえば、なんだ、そんなことかということが多い。
だからこそ、あえて明かさないことが、見る者への配慮にもなり、
芸事の最大の奥義とも言える。
兄への想いのように。
きっと、明かしてしまったら、このもどかしい、
けれどだからこそ快感と興奮があるこのきもちは味わえなくなる。
人は、ゴールに近づくと、
ゴールしたくなくなったりする。
スタートに逆走して戻っていく人すらいる。
好きなアニメやドラマやライブを見ていたとき、
終盤や最終回に近くなると、終わってほしくないから
ゆっくり見たくなったり、
なんだか見たくなくなるのと同じだ。
サプライズのいちばん肝要な部分も、ひみつにすること、
秘するが花だ。
明かしていたらサプライズにならない。
恋にはサプライズが必要とかいうけど
世界中には無数の秘密にされた花があるのだろう。
いつかたいせつなひとの前で、サプライズとして咲かせるために。
ロマンチックなせりふで気持ちがわるいし、なんだかダサいからやめよう。
ちなみにわたしは、
稽古を終えた兄の部屋に、こっそり忍び入って、
兄が使い終えた稽古道具である、
白い花をそっと持ち帰って、かぐわしい香りにうっとりしたり、味わってみ(ry
俗世間では「テ」がつく名前の、紙のようなものだ。
しかしその姿がきれいな花に似ていることから、わたしは
「白仙花」と呼んでいる。
読み方は自由だ。
なんだか修行や奥義に関係していそうでしょ。
さて、兄といえどしょせん、男なんてこんなものだ。
毎日のようにエクササイズをしている。
健康だし、がんばり屋さんなことじゃないか。
果たしてなんのスキルが上がるかは置いておこう。
妄想力や、右手の筋力や操作性のステータスが特にアップしそうだ。
そんなことは兄には言えない。
秘するが花である。