本日公式ホームページならびに公式SNSにて発表がありました通り、弊社の数少ない冷蔵品である
「鎌倉の鐘」と「アップルフィーユ」が9月上旬ごろをもって、各売り場なくなり次第終売となります。



先ずは長年ご愛顧くださった両品ファンの皆さまに心からの感謝と、お届け出来なくなってしまうことにつきましてお詫びを申し上げます。

SNSではすでにたくさんの終売を惜しむお声を頂戴しております。クルミッ子の増産よりも大切にすることがあるのでは?などのご意見も頂いており、それはおっしゃる通りと感じてもおります。

終売決断の経緯を補足として私からも少しお話ししておこうと思います。

※「アップルフィーユ」は「鎌倉の鐘」の材料を使用していることから同時に終売となりますため、ここでは主に「鎌倉の鐘」についてお話させていただきます。


とは言え今までよく頑張った

先ず、はじめに終売についての個人的かつ最も率直な思いを述べますと、「むしろよく今まで続けてこれた」という気持ちです。今までも終売の議論は何度もありましたが、その度に「なんとかもう少し」と先延ばしにして今日に至ります。


終売議論の論点はいつも「製造スペースの確保」(SNSにも記載のある通り)と「売価」です。


全体の手狭感が増すと、個別の占有感も増す

「鎌倉の鐘」と「アップルフィーユ」は幸浦工場のみで製造しています。幸浦工場はお越しいただいたことのある方ならお分かりかと思いますが見た目はまあまあ大きい建物です。

ですが1階は店舗と駐車場、2階はクルミッ子のカットおよび個包装フロア、4階は商品開発ラボ、スタッフ休憩室および事務所となっており、実際に製造スペースとなっているのは3階のみです。


一見広く見えても、現在のビジネススケールで考えると、スペース的にはかなりめいいっぱいな状態となってきています。

その中でも「鎌倉の鐘」製造スペースは生地の仕込みやバタークリーム、ゾーニングされたエリアでの個包装、箱詰めまでを同フロアで行っているので、すごく広くはないですが、それなりにスペースを占めています。

クルミッ子増産と鎌倉の鐘継続のどちらかという選択をせまられ、出来るだけ先延ばしにはしてきましたが、最終的には今回の決断となりました。

ここは経営者によって様々かと思いますが、私の経営判断は終売でした。


職人起業家の最強コスト計算式
『0円の法則』!

もうひとつ、「売価」と「コスト」について簡単にお話します。

14年ほど前まで、「鎌倉の鐘」の売価はなんと500円(税抜)でした。当時の物価で考えてもあまりにも安すぎる!安さの理由は、「あじさい」の元となるパウンドケーキ生地の余り生地を使って製造していたことと、開発者である父(故人)の職人起業家ならではの原価計算式!

・残生地は捨てるものだから0円
・自分で作ってたから人件費0円
・ただで配るわけにはいかないから500円!

この(サンドウィッチマンのような笑)計算式によって鎌倉の鐘は長年500円で販売させていただいておりました。これはまさに父の人の良さが、ほんわかと価格に表れていたのかなと思います。残生地を捨てない術を得ることが出来ている時点で父としてはきっと十分だったのでしょう。

あとはそれを少しでも安くお客様にご提供し、本来捨てるはずだったものにお金までいただて、その上喜んでいただけて、それ以上何も望むものはない。

きっとそんな思いだったのだと思います。


初期設定が安すぎた

でも事業承継し、これから会社を預かる身からすると、やっぱりさすがに捨て生地とはいえ材料費0円ではないし、すでに父ではなく職人さんを雇って作ってもらってる(たまに私も!笑)状況だったので人件費も0円ではない。(いや、父でも0円ではないけど笑)

初期設定として500円は安すぎる!そう思いました。

とは言え大幅な値上げも受け入れられないだろうと悩み、私の社長就任と同時に100円だけ値上げさせていただき、600円での販売がはじまり今に至ります。

その後、最終的には「鎌倉の鐘」専用に生地を仕込むようになり、それにより更に原価もあがり、経営の本音としては売価はアップルフィーユと同じぐらい、1200円ほどでないとまるで厳しい商品となってしまいました。

流石に商品はそのままに値段を倍にするという決断は出来ませんでした。それこそ殿様商売です。


値段より高い!「値上げ交渉のハードル」

ちなみに「アップルフィーユ」の前身である「アップルケーキ」も値上げで苦労しました。

理由は「鎌倉の鐘」と同じですが、こちらもかなり安価で販売されており、相当厳しかったため値上げ交渉をある取引先スーパーさまに案内に伺った際に、「安くないと意味ない。値上げなんてしたら誰も買わない。値上げするならうちはいらない。」と門前払いされ、その場で契約終了されてしまったのを覚えています。


まあ、そのぐらい値上げって難しいです。


よく「赤字ですが長年ご愛顧いただいているので値段は昔のままで続けています」という会社や商品の紹介を目にしますが、企業なのでそれを成立させるだけの利益の仕組みと構造が必ずあるはずです。

例えば、安さでお客様を呼んで、その他の利益率の高い商品を購入いただくという広告宣伝の役割がしっかりと確立され、価値化されているなど。

でもそれをするにはそれなりの商品数も必要です。

「鎌倉の鐘」の生産は1日50個程度。これでは広告宣伝商品としても量的に難しい。こうした制約からも、赤字商品の製造をスタッフに強い続けるというのも経営判断としては違うと思いました。


父からの挑戦状!?

まるで父から「お前はこの安くて美味しい商品開発の考え方が生み出す価値にどう対抗する?」と試されているような気持ちでしたが、終売の決断をしたこのラウンドは悔しいですが父にポイントが入ったのかもしれません。


ですが、このままでその息子がこの試合を終わらせるわけはありません。


自分と開発担当者に課している今回の終売の条件は「このふたつの商品を超える新たな商品を生み出すこと」です。

SNSで書いている「今後はまた別の形で、皆様に
新しい“おいしいお菓子”をお届けできるように努めてまいります」という言葉は嘘でもその場の誤魔化しでもなく、お客様との約束です。


去りゆく商品から受け継ぐもの

そのためにも先ずは「鎌倉の鐘」「アップルフィーユ」たちから譲り受けた場所と時間をしっかりとクルミッ子に活かし、無駄にしないこと

これを絶対に積み上げていかなくてはいけません。

そしてラウンド2に向けての新たな商品開発。
ここに新たな情熱を注いでいくことが今はとても楽しみです。

生まれ変わった時、値段は今と同じ600円とはいかないと思います。前述の通り、そこに持続性を見出すのは難しいからです。安値ではなく、持続性のある新たな価値をしっかりと生み出し、伝えていけるような商品をお届けしていけるよう尽力してまいります。

そして、どうかお客様におかれましては、今回の終売を終わりとしてではなく、新しいスタートと受け止めて頂けたら幸いです。開発の着手は少し先になるかも知れませんが、随時SNSなどでもレポートさせていただけたらと思っておりますので、ぜひご期待と応援をこれからも宜しくお願いいたします。