💕いのやま69
妄想小説・闇愛-yamilove-
第69話【同じ気持ち】
★山田side★

中島「‥‥‥涼介‥‥‥やっと二人きりになれたね‥‥‥」

山田「くっ‥‥‥!離せっ」

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さっき黒い物が動いたとき、右手をつかまれたとき、すぐに誰か分かった。
俺にこんなことをするのは、中島裕翔しか居ない。

いのちゃんにも、ついてきてもらえばよかった。
「‥‥俺が持って行こうか?」と言ってくれたいのちゃんの優しさが、今さら心ににじむ。

しかも、課長は何も焦った様子は無かったんだし、もっと遅くに持って来れば、もしこうなっても課長たちが来るのに。
早く持って来たせいで会議までまだ時間があるし、いのちゃんたちもまだまだ終わらねぇよ‥‥‥。




また、あの雨の日と同じ悲劇を、俺は繰り返さなければいけないのか?




中島裕翔が、俺の首もとに唇を近づける。
またあのときと同じように、俺の両手首をつかむ。


山田「‥‥‥‥‥‥っ」
中島「フフフッ‥‥‥涼介‥‥‥ずっと涼介のこと考えていたんだよ‥‥‥」
山田「‥‥‥っ‥‥‥」


いのちゃん‥‥‥いのちゃん‥‥‥



山田「‥‥‥っのヤロー!」



ゴッ!と俺は頭つきをした。俺自身も、目から火が出たぐらい痛かった。


中島「ぅっ‥‥‥いっつ‥‥‥」

中島裕翔がひるんだ隙に、俺は逃げようとドアのところへ走る。
だけど、俺はまたあの昔の記憶を鮮明に思い出したショックでか、足のひざに力が入らない。
ひざがカクカクして、今にも倒れそうで机に手をついて歩く。

中島「待って涼介‥‥‥。ダメだよ逃げないで‥‥‥」
山田「やめろよ気持ち悪ぃなっ!!!」


俺は必死の思いで腕をブンブンと振り、イヤだということを伝えようとする。

中島「‥‥‥気持ち‥‥悪い‥‥‥?」

中島裕翔がひるんだ声をして言うから、少し振り向くと

中島「気持ち悪いの?‥‥‥僕のこと‥‥‥‥‥‥」


そ、そういえば、同性同士の恋愛をしている人たちは『気持ち悪い』と言われるのが傷つくと何かで聞いたことがある。
中島裕翔は傷ついてしまったのか?
た、たしかに、俺だって「伊野尾くんとつきあってるんだってー。気持ち悪いよねー」なんて言われたら、傷つく‥‥‥。ましてや好きないのちゃんからそう言われたらズタズタだ。

中島裕翔は俺に好意を寄せていて、俺から言われたら傷つく‥‥よな。
俺、悪いこと言っちまった‥‥‥‥‥。



中島「‥‥‥フフフッ‥‥‥大丈夫。涼介のことは責めないよ」


山田「え」
俺が考えてることが分かったのか?


中島「涼介のことは責めないけど‥‥‥‥‥僕のことを気持ち悪いと言うのなら、涼介はどうなんだい?」
山田「え?」
中島「だって‥‥‥‥‥‥ホラ」


そう言いながら、中島裕翔は俺に自分のスマホの画面を見せた。


俺は画面を見て、冷や汗が出る。




中島裕翔の持つスマホの画面には、ついさっきの昼休みのときの、俺といのちゃんが写っている。
でも、俺といのちゃんがキスをしそうになった、あの瞬間の俺たちが写っている――。


山田「ぇっ‥‥‥‥‥」

山田「い、いつのまに撮ったんだ!?」
中島「‥‥涼介を見によく来るからさ、そしたら偶然見ちゃって‥‥」
山田「何撮ってんだよ消せよ‥‥‥っ」

俺は、その中島裕翔のスマホを取ろうと手を伸ばす。

中島「‥‥‥フフッ」

だけど中島裕翔の微笑みを見たとたんに、勝手に腕が縮こまり、伸ばせない。
もし、また腕をつかまれたらとか考えてしまうし、第一コイツに近寄れない‥‥‥。


中島「涼介も、僕と同じ。涼介だって気持ち悪いことしているじゃないか」
山田「いや、さっき言ったのは、男同士の恋愛が気持ち悪いって意味じゃなくて‥‥‥い、いちいち俺に襲いかかるから‥‥‥っ」
中島「‥‥‥‥‥涼介。思い出してよ。昔の僕たちをさ。あんなに仲よかったじゃないか。なのにどうして、そいつはよくて、僕じゃダメなの?」


山田「‥‥‥いのちゃんは‥‥‥お、俺のイヤがることは‥‥‥しない」


中島「‥‥‥‥‥‥」



山田「それにおまえに告られたときは俺はノーマルだったけど、おまえに襲われたあの日から、自分なんかどうなってもいいって思って‥‥‥でもいのちゃんは違うんだ。いのちゃんは俺を女扱いしないし、真剣に俺なんかを好きでいてくれて、でもキスだってしょっちゅう出来ないぐらい草食系で‥‥‥いっしょに居て心地いい」



中島「‥‥‥くっっ!!‥‥‥」

中島裕翔が下を向いて、ひどく顔を歪めた。
俺、まずいこと言っちゃったかもしれない。


中島「じゃあ‥‥‥どう言っても別れるつもりはないんだね?‥‥‥そいつと別れて僕とつきあうことは出来ない?僕には1%も望みは無い?」
山田「当たり前だろ」
中島「‥‥‥‥‥‥」



ガチャ


課長「アレ?山田今ファイルを届けてくれたのか?‥‥‥あっ!中島さん!?」

課長たちが来て、なんとか逃げれそうだ。

山田「じ、じゃっ!俺は失礼しまーす!」
中島「‥‥‥」


俺が会議室から出るとき課長たちの中に、デザイン開発部の岡本部長が居た。岡本部長とすれ違うとき、目が合った。

岡本「あっ‥‥‥Hey!ちょっと待って」

岡本部長が俺の腕をつかむ。そのとき、岡本部長は俺の手首を見た。
さっきアイツにつかまれた跡が赤く残っている。

岡本「Oh?‥‥‥赤くなってるけど大丈夫?」
山田「大丈夫です。何か用ですか?俺早く戻んないと(早くアイツの視界から消えたいのに!)」


岡本「‥‥‥大丈夫?‥‥‥sorry‥‥‥」
山田「‥‥?‥‥大丈夫です!じゃっ!」


――――――


キーンコーンカーン
伊野尾「やっと終わったな。じゃあ帰るぞ‥‥‥‥‥‥俺んちに‥‥‥‥‥」
山田「あっ!おぉ!行こう行こう」


俺は企画課室に戻った後、いのちゃんが「遅くなかったか?」と聞いてくれたけど、廊下で転んだと嘘をついた。(ちょっと無理のある嘘だろうけど、そのときは俺もいろいろ気が動転していて、即座についたのがこの嘘だった)
今からいのちゃん家に泊まりに行くってのに、アイツのことなんか考えていられるかっ!忘れろ忘れろ。



‥‥‥なのに。


いのちゃんといっしょにいのちゃん家に向かう途中も、ごはんの用意をするときも

何か、胸の奥が異様にザワつく。

山田「‥‥‥‥‥‥」


岡本部長の「sorry」
あの言葉は、俺を引き止めたことに対するものじゃないと思う。
引き止めたのには、何か俺に言いたいことがあったんじゃないか?
岡本部長は、俺に何か言うつもりで引き止めた後に、手首の跡に気づいていたから
「手首が赤いけど大丈夫か」と言いたかったのではないと思う。



山田「ガ――――――ッ!!」
伊野尾「?!山田っ?!どうした?!」

俺は料理をしかけていたけど、包丁を置いて、いのちゃんに言う。

山田「やっぱダメだ。俺、いのちゃんに黙ってられねーよ」
伊野尾「なんだ?」




山田「‥‥‥‥‥本当はさっき会議室で、アイツに襲われたんだ」




第70話へつづく