💕いのやま63
妄想小説・闇愛-yamilove-
第63話【飛び交う予想】
★山田side★

♪~

家に帰り、晩ごはんを食べ終わったとき、俺のケータイが鳴った。
だけど知らない人からの電話番号だった。

俺は、あの人――中島裕翔――の一件があって以来、電話番号やメアドも全て変えたけど、それでもアドレス帳外からの電話には極力出ないようにしている。
もし、あの人からの電話だったらと思うからだ。


山田「‥‥‥」
伊野尾「なんだ?会社からか?」(食器洗いをしながら言う)
山田「‥‥‥いや、なんでもない」


♪~‥‥‥

着信音は切れて、間違い電話かと思った瞬間、2度目の着信音が鳴る。

♪~

伊野尾「出なくて大丈夫か?」
山田「知らない電話番号からなんだ」
伊野尾「‥‥‥出たくないなら出るな」


心臓がドクンとなる。
イヤなカンジというか、胸の奥のザワザワが蘇る。


♪~‥‥‥


どうしようと考えていると、着信音は切れた。
『090』この後の数字をちゃんと見るのはイヤだったけど
ケータイの番号を見たけど、あの人の番号じゃない。知らない番号。
そりゃ、あの人だって番号を変えてるかもしれないけど、それでも一応ホッとする。


伊野尾「山田はアドレス帳外の電話には出なくて、防犯対策にはいいけど、もし宅配便からの電話だったらどうするんだ?」
山田「えっ?」

伊野尾「たとえば佐川急便とか、代引きみたいにお金を払わなくちゃいけないときは、必ず前もって『これから家に行きます』の電話がかかるぞ。俺はいつも、知らないヤツからの電話だったら『何かに当選して荷物が来たから宅配便から電話が来たのか?!』って思うんだよな。当選したのに荷物を届けられなくて向こうに返るパターンってあるじゃん。山田はそう思ったことないのか?」

山田「無いよwwそもそも何かに応募すること自体無いからな~。でももし当選したなら、家に不在届が入ってるんじゃない?なのにお金払うときと同じで前もって電話かかるなんて、それこそ怪しまなきゃ!いのちゃんおもしろいこと言うな」
伊野尾「‥‥‥たしかにそうだな。俺はネットとか商品買ったバーコードのとか、たまに懸賞に応募するんだよな。だからそう思ってたけど、山田と比べて俺って欲あるなって今思った」

いのちゃんと二人して笑う。

こうしたささやかな幸せが、ずっと続いたらいいのにな――――。


――――――


♠︎伊野尾side♠︎

山田に着信があった次の日。
今日は中島が来る日だ。

課長「‥‥‥それで中島さんは午後から来られる。皆、くれぐれも失礼の無いように」

朝礼で課長がそう言い、俺は山田のほうを見る。山田は怯えた顔をしているのだろうかと思って見たけど、意外にも山田は凛々しい顔つきで、まっすぐに課長の話を聞いていた。

伊野尾「山田、アイツと顔合わせるのイヤだろ?だったら会議だけ欠席してろよ」
山田「‥‥‥そう思ったけど、俺‥‥‥」



山田「あの人と顔合わせて、フツーに仕事しようと思う」



伊野尾「え‥‥‥。でも発作とか頭痛とか大丈夫か?」
山田「分からない。でも、俺いろいろ考えたんだ。俺なりの解決方法とかも考えた」


‥‥‥山田なりの解決方法?
なんだろう‥‥?それは?

山田「俺とあの人は、結局こうして会う運命だったのかななんて思ったんだけど、どうであれ、俺が逃げ続ける限り、またこうして会うんだろうなって。‥‥‥だから顔を合わせることにするよ。‥‥‥願わくば、もうあの人が俺のことをキライになってくれてたらいいんだけど」
伊野尾「‥‥‥‥‥」



山田「もし、予想と違って最悪のパターンになったら、そのときは決着をつけようって考えてる」



伊野尾「決着って‥‥‥?」
山田「フフッ。ないしょー♡」

山田はいつも通りの、おちゃめなカンジで、人差し指を口もとにつけて笑った。
だけどなんとなく感じた。
『決着』の意味は、そんな笑いごとではないんじゃないか‥‥‥と。


――――――


会議が始まり、会議室で皆が輪になる状態で座る。俺と山田は隣同士で座った。俺のもう片方の隣には薮が座っている。つまり山田と薮が俺を囲んでいる。
俺たちの席は、課長が話す席から一番遠い席を選んだ。

課長のあいさつの後に中島が入ってくるだろうと思いきや


コツコツコツ


課長に続けて、黙って中島が会議室に入ってきた。

心の準備も何もあったもんじゃないから、山田は大丈夫かと見ると、少し険しい顔つきになっていた。

伊野尾「山田(小声)」
山田「苦しいけど、なんとか」
山田は少し下を向いた。

課長「えー‥‥では、新商品の製品内容について‥‥‥」

課長が話す間、中島のほうを見た。中島はニコニコと笑っている。
1時間ほどで会議は終わり、先に中島は出て行った。

山田「あぁ‥‥‥しんどかった。下ばっか向いてたけど、我ながらスゲーがんばった」
伊野尾「あぁ、山田マジでがんばったよ。エライぞ」
薮「おーい。二人とも企画課室に戻ろうぜ」

課長「伊野尾。あとでこの書類を企画課室へ運んでおいてくれ」


‥‥‥おいおい、たまたま偶然、課長の目に止まる位置に立っていたからと、俺だけ頼まれたぞ。まぁいいけど。

伊野尾「山田と薮は先に行ってろ。量少ないから一人で運べるし、俺一人であとから行くから」
そう言いながら課長と書類を整理する。
もし山田が一人なら危ないと思い、横目で山田を見ると、山田は「分かった」と言って薮といっしょに行くようだった。




伊野尾「‥‥‥よいしょと」

俺が書類を持って、会議室を出て廊下を曲がると




ガッ!



急に俺の腕が、誰かにつかまれた。



書類を落とさぬようにとあわてて体勢をもとに戻して、誰かと予想しながら顔を上げる。



伊野尾「‥‥‥‥‥‥」



俺の腕をつかんだヤツは、中島裕翔だった。




第64話へつづく