走れないメロス① | (旧)薄口コラム

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先日知り合ったオッチャンに、シェイクスピアを薦められて、それでとりあえず一冊と、ヴェニスの商人を読んでいます。


劇の台本がそのまま本になっている作りのこの本を読んでいて、昨年仲間とやった軽い劇を思い出しました。






下の奴は以前、僕が所属していたプレゼンやる団体でどういうわけか劇をやることになった時に書いた原稿です。


「走れメロス」に現代の特徴ぶち込んで、メンバーのキャラたったコメディにしようと、みんなで考えたやつです。


たぶんこれだけじゃまったく伝わらないと思いますが、一応思い出部会ものなので、アップさせてください。




これやっているときに、劇作家の人ってホントすごいとおもいました。






序章







ナレーション 父も母も無く、妹と二人だけで暮らしてきたメロスは、村の或る律気な一牧人を、近々、十六になる妹の花婿として迎える事になっていた。間近に迫った結婚式のために、メロスは花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる遠く離れたシクラスの市にやって来た。



メロスは先ず、その品々を買い集め、それからこの町で石工をしている竹馬の友セリヌンティウスの下を訪ねてみるつもりだった。久しく逢わなかった友との再会を思い胸を躍らすメロスは、ふと、歩いているうちにまちの様子を怪しく思った。ひっそりしている。もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか尋ねた。若い衆はあたりをはばかりながら、わずかに答えた。



「王は私たちが悪心を抱いているのだと申します。人を信じられぬ王様が、人を殺すのです。」



邪悪に対しては、人一倍に敏感なメロスは、王の暴挙を聞いて激怒した。「呆れた王だ。生かして置けぬ。」メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ王城にはいって行った。たちまち彼は、巡邏の警吏に捕縛され、メロスは、王の前に引き出された。懐中からは短剣が出て来たので、騒は大きくなった。







一章 王宮でのやり取り







ディオニス「この短刀で何をするつもりであったか。言え!」(静かに威厳をもって)



メロス  「市民が悪心を抱いていると決めつけ次々と殺している暴君の手から市を救うのだ。」



     (悪びれず自身の笑みを浮かべて)



ディオニス「おまえがか?」(憫笑しながら)。



      「仕方の無いやつじゃ。おまえには、わしの孤独がわからぬ。」



メロス  「言うな!」(王の話をさえぎるようにいきり立って)



      「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑って居られる。」



ディオニス(一呼吸おいて)「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのはおま



      えたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もともと私慾のかたまりさ。信じ



      ては、ならぬ。」(着いて呟くように)



      (ほっと溜息をつく)



      「わしだって、平和を望んでいるのだが…。」(少しうつむき加減で)



メロス  (間をおいて感情的に)「なんの為の平和だ。自分の地位を守る為か。」



      (嘲笑したあとに)「罪の無い人を殺して、何が平和だ。」



ディオニス(怒りつつ)「だまれ!下賤の者。」



      (顔を挙げてメロスを見る)



      「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見えていて



       ならぬ。おまえだって、いまに、磔になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」



メロス  (凛として)「ああ、王は悧巧だ。自惚れているがよい。私は、ちゃんと死ぬる覚悟



      で居るのに。命乞いなど決してしない。」



      (少しためらいながら)



      「ただ、――」



      (口をつぐんで足もとに視線を落とし、ためらいを浮かべながら「ただ、私に情をか



       けたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に亭



       主を持たせてやりたいのです。三日のうちに、私は村で結婚式を挙げさせ、必ず、



       ここへ帰って来ます。」



ディオニス(低く笑いながら)「ばかな、とんでもない嘘を言う。逃がした小鳥が帰って来ると



      いうのか。」



メロス  (必死な表情で言い張るように)「そうです。帰って来るのです。」



     「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。妹が、私の帰りを待ってい



      るのだ。そんなに私を信じられないならば、よろしい、この市にセリヌンティウス



      という石工がいます。私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。



      私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人を



      絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」



ディオニス(残虐な気持で、そっと北叟笑んで)「生意気なことをいう。だがまあよい。願いを



      聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。くれたら、



      その身代りを、きっと殺すぞ。ちょっとおくれて来るがいい。おまえの罪は、永遠



      にゆるしてやろうぞ。」



メロス  (驚きを浮かべて)「なに、何をおっしゃる。」



ディオニス(小馬鹿にした様子で)「はは。いのちが大事だったら、おくれて来い。おまえの心



      は、わかっているぞ。」



メロス  (口惜しそうな表情で地団駄を踏み、唇をかみしめる。






つづく