『あなた、◯○さんの小説に出てくる女の子にそっくりだわ』
まだ暑さの残る10月のはじめ、お客様から言われた言葉。
「???」
よく状況が飲み込めず、なんとお返事したらよいか
考えてしまった。
弾んでいく会話の中で、
自分がクルミドコーヒーで働き始めた経緯をお話していると
『やっぱり!ほんとうにあの小説に出てくる子みたい!』
とってもうれしそうにおっしゃった。
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この出来事がわたしの中で幸せな記憶として残っている。
言葉にするのは難しいのだけれど、
姿形が視覚で理解できるような
漫画やアニメの中の人ではなく、
小説という読んだ人だけの
想像上の世界のひとになれたから
なのかもしれない。
(昔、スヌー◯ーに出てくる黄色い小さな鳥に似てると言われた。もはや人ではない笑)
小説はその人の中だけで生き続けるもの。
きっと彼女の人生に寄り添うように、
その小説があったのだと思う。
◼︎
「なんでこんなことやってるんだろう?」
と、ここ数日問い続けたけれど
明確な答えはでない。
けれども、こんな瞬間に立ち会えたならとても幸せだ。
昔読んだ小説のことを
生活していく中でふと思い出すように、
それぞれの人生の中で、
ここで過ごした時間をふと思い出してもらえたら。
長い長い時間の
ほんの一瞬をともにした場所。
それくらいさりげなくていい。
わかりやすい派手な演出なんかより、
春の青い香りのするやさしい風、小さな新芽たち。
読んでいた本のページをめくる感触。
テーブルにぼんやり浮かぶ光と影。
ぽたぽたと時を刻む珈琲の水滴。
はらはら散る色鮮やかなまあるい葉っぱや細長い葉っぱ。
今のわたしにできることは、
そんな日常をひっそり整えていくことなのかもしれない。
かつて自分が大好きだったお店のことを考えながら、
そう思った。
今度のお休みには、その小説読んでみようっと。
(おきい