日立製カーエアコン
日立さん関連で記憶に新しいニュースというと、何でしょうね。
・口径17.45mの世界最大トンネル掘削機バーサ ( 米シアトル、2017年4月4日貫通、日立造船製 )
・英国高速鉄道車両1396両受注 ( 2018年7月現在、日立製作所 )
紛うことなき世界に冠たる日本企業の一翼!
ではあるものの、工業製品というのは、連綿と培われたノウハウの集成。
カーエアコンの世界シェアで断トツTOPであるデンソーさんと比べるのは、可哀想な気もします。

上の画像は、Z31系日産フェアレディーZ ( 昭和62年5月登録 PZ31 ) クーラーコンデンサー。
配管接続部で明らかに漏れてます。 R12フロンガス全量喪失。
この車両のクーラーシステムは日立製でありまして、クーラー構成パーツALL製造廃止。
ガス無し状態で何年も放置され、外観目視の段階でコンプレッサーや圧力スイッチもアウトと判定。
とてもレアな重症事案であるものの・・・・・
ブログご覧になられ神戸からお越し下さったお客様のご要望は、フルレストアも厭わずとの心意気で
一筋縄でいきそうもないのは明らかでしたが猪突猛進、突撃ラッパを吹き鳴らしたのでありました!
と書くと威勢いいですが実際は牛歩鈍足。 対処方法は幾種類もあるはずで独断専行はご法度。
選ぶ方策で信頼性とコストは大きく変化するので、カナメの判断はオーナー様に委ねるべきでしょう。
この、理想と妥協を織り上げていく作業がまた大変で、一月くらいの時間はすぐに経ってしまいますね。
1) クーラーコンプレッサー
渉猟したところ、日立正規店から限りなく新品のような優良リビルト品をGET。
これは非常に幸運でした。 値段はそこそこ張りましたが。
※社外メーカー製のリビルト品には、独自の保証規定が定めてあるものです。
しかしこの正規リビルト品は無保証。 壊れはしないのでしょうが少し戸惑うものはありました。
修理完了から記事執筆まで4度の夏を無事越えているので、取り越し苦労ではあったのですが。
2) クーラーコンデンサー
車歴それほど古くない車両の場合、安い社外新品も流通しています。
それに対抗してのことなんでしょうね、ラジエターやコンデンサー純正新品の価格は
昔と比べると随分抑えた設定になっているように思います。
しかしこのフェアレディーZの場合、そういう出来合いの品は皆無 = ワンオフする一手。
あっ、冷媒漏止剤を使う非正規修理とかいう選択肢は、私の中では全く有り得ません。(笑)
懇意のラジエター屋さん曰く、「この車両のコンデンサーは接続部で大抵漏れる」とのこと。
プレート片側ボルト固定方式アルミジョイントは、コンプレッサー配管接続部でよく見られます。
ボルト締めても平たい部分が当るだけなので、構造上きつく締めてもシール性とは無関係。
Oリングが嵌る溝の深さとゴム性状がミソという、単純ながらも繊細な設計が要求される箇所・・・・・


接続部分がダメなことを知ってしまった以上は、コンデンサー側のみ素直に元のまま造るのはNG。
車両側アルミ配管も取り外し、デンソー製ユニオンナット方式に換装。
クーリングファンが後引きタイプの車種の場合、間隙あると不利なので、隙間スポンジを追加します。
こういう辺りは手抜き厳禁!!
3) クーラー高圧側・低圧側ホース
以前、昭和の時代のトランザム、アメ車屋さんがレストア失敗したのを救ったことがありました。
クーラーシステム内部全体にドロドロとした黒い汚物! この犯人、ホース内面のゴム溶解でした。
だからクーラー修理にあたっては、配管内部の状況観察が不可欠なんです。
中古車として再販されたR12車は特に要注意。 代替フロン等を過去に使われ悪影響が出てるかも。
幸いながら、このフェアレディーZのケースでは、内面チェックと洗浄だけでOK判定になりました。
2本のゴム製クーラーホースがエキマニ側の場合、予算があれば遮熱被覆を装着するのが吉♪
4) クーラー室内ユニット
室内の熱気奪って冷風を出す仕組み。 エバポレータとエキスパンションバルブが入っています。
奥まった場所に組み込まれたパーツなので、すんなり目視チェックは出来ないのですが、
USBファイバースコープが2000円未満で買えたので、車種によってはそれが活躍するシーンも。
で、問題になるのは、室内ユニットで漏れてなさそうな場合の対応。
「車歴30年の車両ですから替えましょう。」 知恵を使わぬ分、手っ取り早くて、しかも確実。
大半の人がそう思うかもですが、果たしてそうなんでしょうか? 中には例外的な事案もあるんです。
PZ31フェアレディーZのエバポ&エキパン画像にご注目! 低圧側と高圧側とに跨るようにエキパンが装着されてます。 これは、非常に珍しいバイパス方式。 フロスト制御で、コンプレッサーをON/OFFするのではなく、 バイパス量の変化で対応させるという高級車向けの設計。 古いクラウン等のEPR機構を、エキパンだけで担います。 やるな、日立さん♪ しかし、他車種でほとんど見ないような特殊パーツは、 製造廃止食らった場合、非常に難儀するのでありました。 現車のエキパン再利用前提でエバポのみワンオフするか、 一般的なエキパン利用で製作し換装するか、はてさて・・・ |
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アルミニウム材には、白い粉や黒ずみといったアルミ特有の腐食兆候が表れます。
一見同じに見えてもですね、マグネシウムを含んだアルミ合金は、耐食性が高かったりします。
そういう諸々鑑みて、この子はとても30年経った品には見えませんでした。
多分15年~20年目くらいで一度交換されているのでは? と推察しました。
水槽にドボンと浸けて耐圧テスト。
冷凍庫利用して、氷温~常温でのエキパン機能テスト。 どちらも合格!
ですので換装も辞さない覚悟のお客様に、替えないご提案をする稀有な例になりました。
再使用するにあたっては、外観および内部の洗浄と、ゴム製Oリング接触面の研磨、
Oリング全数適切な径を選択して交換といった、一通りのことはしています。
あと、これまた珍しいことなのですが、クーラー室内ユニットの樹脂製ケースに歪みが出てました。
日産さん日立さん、これは減点。 もう少しプラの厚み持たせて丈夫に造ってくれないと。
ケース接合部に隙間があると風が漏れます。 対策として金属板加工して補強する必要がありました。
5) 電動ファン、ブロワモーター、ヒーターレジスタ、内気外気切替フラップ、ヒーターフラップ
システム構成パーツのどれか一つでも不調きたすといけません。
一般論ですが、案外と盲点なのはワイヤー式のヒーターフラップ。 ( Z31系はバキューム方式 )
長年の使用でワイヤー固定位置がずれたりします。 MAXクールでフラップ全閉になるよう微調整。
あとフラップ作用時の音も重要。 パタン、カタコンと軽薄な音になってませんか?
フラップ表裏には必ずスポンジ類が貼られていますが、古車では大抵痛んでいます。
このフェアレディーZでは、ブロワモーターハウジングに内気外気切替フラップが装着されており
表裏張替の必要性を感じたので、この部分もきっちりフルオーバーホールしました。
ブロワモーターの細かいフィン部の清掃は、かなり面倒なんですが、勿論のこと手抜き厳禁♪
6) レシーバータンク、圧力スイッチ
別名「リキッドタンク」とも呼ばれるレシーバータンクの役割は、
・ 冷媒の気液分離と安定供給 : エキパンに液化された冷媒だけを送ります
・ ゴミや水分の除去 : ストレーナーと乾燥剤が封入されており、エキパンを保護しています
前者の機能は半永久的なので、予算抑えたい場合には真っ先にここが割愛されるでしょう。
しかし問題になるのは、粒子状ペレット乾燥剤の存在なのです。
粉砕されたペレットが、配管内部に散ってしまった事例も実際経験しています。
また、乾燥剤の能力はとても短命で、純新品でも僅か数十分の大気開放で除湿性能はゼロに。
それらのことを熟知してしまうと、万難排してでもレシーバータンクは替えたいですね。
作業順序も拘って、一番最後に交換し、替え終わると直ぐに真空引き開始するのが 匠の精神。

上の画像は、フェアレディーZのクーラー修理、してやったりの完成図。
中央に見える円筒形のレシーバータンクと、その横で光っているのが圧力スイッチ。 共に新品!
無加工でそのまま使える流用情報があれば値千金なのですが、
この事案ではそういう品々を見つけれず、ハイエース用のトヨタ純正パーツを移植しました。
オリジナルの位置に何の違和感もなく装着出来たとは思うのですが・・・・・
エキマニ・過給器のほぼ真横というこの場所は、配置としては最低最悪。 大きな減点だと思います。
レシーバータンクは、高圧系統に属するので本来は涼しい場所に置き、放熱塗装するのが理想。
配管一から作り直して、場所を移動させる案も出るでしょうが、コストは更に増大します。
ならば発想の転換。
次善の策として、熱い場所にそれら配される車種限定で、遮熱してやるべきだと考えるんです。
画像を縮小したので少し解りにくいですが、レシーバータンクの胴の部分全周と、
エキマニ近くを這う高圧配管には、高品質の遮熱素材を巻いています。
あと、後日別件での作業のついでに、エキマニ等に遮熱塗装を施すことも出来ました。
そうです。 このクーラー復活を皮切りに、その後何度も京都まで通って下さってます。
NETで検索して参考になる情報ほとんどない時、逆にちょっとウキウキします。
自分の頭で考えて、悩んだり部品選んだりする時間全てを含めると目先の利益はないですが、
良い仕事の勲章として、信頼はあとから必ずついてきます。 そのことが何よりも嬉しいですね♪^^