お前たち腰抜けと違って、俺の1日に無駄はない。お前の1時間は、俺にとっての1秒だ。
 俺はいつも、必要なことを必要なだけ、事前に決めた分だけを必ずやり遂げる。
 だが、その過密さ、人生の充実ゆえに訪れる油断があったのかもしれない。猫は、油断ならないファイターだった。猫は、形ばかりのクズどもとは違う。
 腰をおろした瞬間だった。猫は迅雷のごとき素早さで、俺にのりあげ、俺を足蹴にしてご満悦だった。猫は、油断を見逃すことはない。ただの一度もだ。お前たちが何度も見過ごしてきた、この俺の油断を、猫は見逃さなかった。
 この地区では一瞬の油断が命とりになる。頭である自分には油断はなによりも大敵だった。
 猫はただ、俺に屈辱をあたえるためだけに膝を軽く足蹴にした。しかも、何度もだ。その一足一足は、"お前は未熟だ””お前は未熟だ”という確固たるメッセージだった。
 猫は俺を馬鹿にし、しかし同時に"気が付け、轟洋介、お前はもっと強くなれる"といってるかのようでもあった。



お前たちがこれまでくらってきた敗北と、俺のそれはまったく違う。
 俺は、そこから必要な教訓を得て学び、より強い男になってきた。
 今回もだ。猫はとてもすばやいし、柔らかく、そして、伸びる。だが俺はもっと強くなる。



 この獣がもしお前たちの首筋に牙をたてたら?爪をたてたら?
 答えは死。簡単にENDだ。