１９７０年に公開された『砂丘（Zabriskie Point）』は、ミケランジェロ・アントニオーニ監督が米国資本で撮ったアメリカ映画です。

原題の「ザブリスキー・ポイント」は、映画に登場するデス・ヴァレーにある丘陵の名称になります。

大学キャンパスの一室で、学生達がストライキについて議論しています。
マーク・フレシェット（役名:マーク）は、「大義の為に死ぬ気はあるが、退屈はしない。」と言って会議を退席したことにより、急進派の批判を浴びます。
キャンパスの抗議活動で大勢の学生が逮捕された後、マーク・フレシェットはルームメイトを救出しようと警察署を訪れます。
待機する様に言われたにも拘わらず、立ち入り禁止区域に入ってルームメイトの保釈について尋ねたマーク・フレシェットは、拒否されそして逮捕されてしまいます。

釈放後、マーク・フレシェットと別の友人はロサンゼルスの銃砲店で護身の名目で銃を購入します。

ロサンゼルスのダウンタウンのオフィスビルで、不動産経営者ロッド・テイラー（役名:リー・アレン）は、マネキン人形を使った砂漠のリゾート不動産開発「サニー・デューンズ」のテレビ・コマーシャルの内容を検討しています。

一方、マーク・フレシェットは、キャンパス内で起こった学生と警察の衝突に遭遇します。
一部の学生は催涙ガスを浴びせられ、カメラは負傷した学生達の姿を映し出します。

マーク・プレシェットがトランクの中にある銃に手を伸ばすと、ロサンゼルスの警察官が何者かに射殺される姿が目に入ります。
キャンパスから逃走したマーク・フレシェットは、市バスに乗ってカリフォルニア州ホーソーン郊外に向かい、商店でサンドイッチを信用買いで購入しようとしますが断られます。
その後、歩いてホーソーン市営空港にたどり着いたマーク・フレシェットは、小型のセスナを盗んで砂漠へと飛び立ちます。

その頃、ダリア・ハルブリン（役名:ダリア）は、上司のロッド・テイラーに会う為に、砂漠の中をフェニックスに向けて運転しています。
その途中、ダリア・ハルプリンはロサンゼルスから来た子供達の世話をしている男性を探します。
彼女はモハーベ砂漠のロードハウスの近くで少年たちを見付けましたが、彼等は彼女をからかい、嘲笑したことにより、ダリア・ハルプリンは車でその場を離れます。

セスナからラジエーターに水を入れているダリア・ハルプリンの姿を名に留めたマーク・フレシェットは、彼女の上空すれすれを幾度も飛翔し挑発します。

マーク・フレシェットは彼女に拾わせる為に、セスナの窓から赤いTシャツを投げます。
好奇心に駆られ始めたダリア・ハルブリンは、顔に笑みを浮かべてTシャツを拾い上げます。
着陸したマーク・フレシェットは、砂漠の老人の小屋でダリア・ハルブリンと会い、彼女の運転する車でザブリスキー・ポイントまで彷徨った後、砂丘で抱擁し合います。
他の身元不明の若者達も砂丘で抱擁し合っている様が映し出され、彼等の姿に呼応したかの様に砂塵が吹き上がります。

その後、高速道路のパトロール隊員が不審に思ったダリア・ハルプリンを尋問します。

マーク・フレシェットは簡易トイレの陰に隠れて警官を狙いますが、ダリア・ハルプリンが二人の間に立つことで阻止します。
ダリア・ハルプリンはマーク・フレシェットに、ロサンゼルスで警官を殺したのは彼なのかを尋ねます。
彼は実際はそうしたかったものの、他の誰かが先に警官を撃ったことを告げます。
ダリア・ハルプリンはマーク・フレシェットに、サイケデリックな色に塗装し終えたセスナに乗るのを思い留まらせようとしますが、マーク・フレシェットは飛び立ってしまいます。

ロサンゼルスのホーソーン空港では警察とマスコミが彼を待ち構えており、着陸したセスナを滑走路に沿ってパトカーが追いかけます。

マーク・プレシェットは地上走行中のセスナの方向転換を試みますが、警官に射殺されてしまいます。
カー・ラジオでマークの死を知ったダリア・ハルプリンは、不動産経営者ロッド・テイラーが所有するフェニックス近くの岩が露出した高台に建つ豪華な「砂漠ベルヒテスガーデン」に車で向かいますが、そこには３人の裕福な女性がプールサイドで日光浴をしています。

彼女はマーク・フレシェットの死を悼み、家の中にある滝の中に身を沈めます。
ロッド・テイラーは、「サニー・デューンズ」の開発会議に没頭しています。
休憩中、ダリア・ハルブリンの姿を見つけた彼は、欣びの表情で彼女に声を掛けます。

一人で階下に行ったダリア・ハルブリンは、彼女のために用意されていた客室を見つけますが、ドアを少し開けた後、再び閉めてしまいます。
廊下にいるネイティブ・アメリカンの若い家政婦を見て、ダリア・ハルプリンは黙って立ち去ります。

彼女は車で走り去りますが、車から降りるために立ち止まって高台の家を振り返ると、家がオレンジ色の炎のうねりと共に繰り返し吹き飛ばされる幻想を見ます。

ミケランジェロ・アントニオーニ監督が『欲望』（１９６７）の３年後に撮ったこの映画は、当時のアメリカの若者文化であったカウンター・カルチャーを色濃く反映している様に思います。

この映画は、『欲望』でも感じることですが、ある程度の縦糸としてのプロットがありながらも、連続するイメージにより別空間に引き込まれる様な感覚を覚えます。

この作品の中で特に印象に残るシーンは、砂色に染まったダリア・ハルプリンとマーク・フレシェットが、古代彫刻の様にザブリスキー・ポイントの砂丘で抱擁するシーンです。

２人で抱き合っていた姿がやがて、３人となり４人となり、最終的には大勢の男女の抱擁シーンとなる映像を観ていると、広大な自然の中に溶け込んだ小さな人間の存在が、感情の昂まりと共に次第に存在感を増したかの様な印象を受けました。
キャンパスの群衆と個人、広大なデス・ヴァレーを背景に遠景で映し出されるセスナ機と、自動車やダリア・ハルプリンとマーク・フレシェットが映し出されることで、個々人の存在が対比的に描かれているのかも知れません。
それは、もしかするとマーチン・スコセッシが編集を担当した映画『ウッドストック/愛と平和と音楽の三日間』（監督:マイケル・ウォドレー　１９７０）に記録された、人間性回復を求める集会「ヒューマン・ビーイン（Human Be-In）」の側面を有したとされる、１９６９年８月開催のウッドストック・フェスティバル（Woodstock Music and Art Festival）の４０万を超える若者達が、それぞれの個人が力を持つことの意義を確認したことに繋がるのかも知れません。
商業資本や権力に他する反動が、マーク・フレシェットの行動の源泉であるかの様に進行するこの映画の中で、ザブリスキー・ポイントで砂漠のリゾート不動産開発社員のダリア・ハルブリン抱擁した後、マーク・フレシェットの思想を受け継いだかの様に、彼女が「砂漠ベルヒテスガーデン」の爆破を彼女がイメージする流れには感銘を覚えます。

ピンク・フロイドの曲をバックに、建物がオレンジ色の炎を上げて爆破炎上する映像がスローモーションで何度も映し出される、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の先鋭的な作品として好きな映画です。

PS:この映画のサウンドトラック盤にはピンク・フロイド、ヤングブラッズ、カレイドスコープ、ジェリー・ガルシア、バティ・ベイジ、ローリング・ストーンズ、ロイ・オーピソン等の曲が含まれています。

§『砂丘』

マーク・フレシェット↑

マーク・フレシェット↑

マーク・フレシェットの操縦する飛行機とうつ伏せのダリア・ハルプリン↑

ダリア・ハルプリン↑

マーク・フレシェット、ダリア・ハルプリン↑

ダリア・ハルプリン↑

§「Dark Side Of The Moon ～Pink Floyd～」

英国盤（左、SHVL804　MAT:2/2、2TL/1HO）、日本盤（右、EOP80778）

砂丘 （Zabriskie Point）

砂丘（Zabriskie Point）