シドニー・ポラック監督が１９７３年に撮った『追憶（The Way We Were）』は、脚本家のアーサー・ローレンツが体験した学生運動とマッカーシズムが吹き荒れたハリウッドが描かれた恋愛映画として、高校生の頃からこれまで何度も鑑賞してきました。

学生運動に傾倒する小説家志望のバーブラ・ストライサンド（役名:ケイティ・モロスキー）と、リベラルな思想を持つ文才ある人気者の同級生ロバート・レッドフォード（役名:ハベル・ガードナー）は、大学を卒業した後は夫々の道を歩みます。

第二次世界大戦の最中、バーブラ・ストライサンドは、ニューヨークのバーで軍服を身に纏ったロバート・レッドフォードとの再会をきっかけとして、彼との恋が芽生えます。

バーブラ・ストライサンドは、その生真面目さと社会的意識の違いから、ロバート・レッドフォードの友人達とは上手くコミュニケーションを取ることが出来ないながらも、戦争終結後にハリウッドの脚本家として認められ始めたロバート・レッドフォードと結婚します。

アメリカ社会に吹き荒れたマッカーシズムの波はハリウッドにも押し寄せ、彼等と親交のある映画監督の家にも盗聴器が仕掛けられる様になります。

憤ったバーブラ・ストライサンドが、同志達と共に政府への抗議活動を繰り広げたことで、ロバート・レッドフォードの執筆活動に影響が生じ始めます。

ロバート・レッドフォードはバーブラ・ストライサンドに活動を控える様に頼み込みますが、理不尽な状況を看過出来ないバーブラ・ストライサンドは、身重の体にも拘わらず抗議活動を続けます。

或る日、埋められない溝に疲れを感じ始めたロバート・レッドフォードが、学生時代の女性友達と親密な関係になっていることを知ったバーブラ・ストライサンドの心は、深く傷付きます。

苦渋の決断の末２人は離婚を決意し、バーブラ・ストライサンドの出産の無事を見届けたロバート・レッドフォードは、彼女の許を去ります。

それから数年が経ち、妻と思（おぼ）しき女性と歩いているロバート・レッドフォードの姿を見かけた政治活動中のバーブラ・ストライサンドは、別れて以来初めて言葉を交わします。

娘の健やかな成長や互いの再婚について報告し合った後、バーブラ・ストライサンドはロバート・レッドフォードに夫婦同伴で家に来るように誘います。

本作は、『ローマの休日』（監督:ウィリアム・ワイラー　１９５４）の真の脚本家であるダルトン・トランボ等の映画人が被った、ハリウッドの赤狩り（レッド・バージ）を背景にした社会派作品の一面がありますが、平たい観方をすれば、真面目で器用とは言い難い女性と社交的で器用な男性による恋愛映画ではないかと思います。

近年思うことですが、この映画は観る時期によって印象が異なる作品ではないかと考えます。

バーブラ・ストライサンド演じる社会派ケイティの一般世間に対する非社会性に、ロバート・レッドフォードが振り回されるのが切なくも哀しいという印象を受けますが、互いに愛し合っているにも拘わらず生活を共に出来ない男女の運命を、マッカーシズムを扱った映画の時間枠内で描こうとしたことから、バーブラ・ストライサンドの性格を生硬に寄せて撮ったのではないかと想像します。

この映画は、バーブラ・ストライサンドが信条を貫き、ロバート・レッドフォードが家庭生活者となるという展開になりますが、昔観た時は、この作品の収束は２人にとって避けられない選択ではあったものの、映画としてはある種のハッピーエンドではないかと思っておりました。

しかしながら、今では本作に描かれる男女の別離は、相手を思いやるが故の強い愛が為せる「身の引き」に由るものかも知れないと考えるようになって来ました。

信念を曲げなかった映画人への憶（おも）いが、監督のシドニー・ポラックや脚本家のアーサー・ローレンツにはあったのではないかと想像する、マーヴィン・ハムリッシュ作曲の主題曲が心と軀に染み入るシドニー・ポラック監督作品として好きな映画です。

PS:この映画では、セルジオ・レオーネ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』（１９８４）で、ロバート・デ・ニーロと長き縁で結ばれるマックスを演じたジェームズ・ウッズが、バーブラ・ストライサンドの政治活動の同志として登場します。

ロバート・レッドフォードにダンス・パートナーのバーブラ・ストライサンドを奪われる姿は、後年のマックス役や『カジノ』（監督:マーチン・スコセッシ　１９９５）でシャロン・ストーンの情夫レスターを演じたジェームズ・ウッズとは直ぐには結び付かないのではないかと考えます。

⇒この文章は２０１８年１月掲載の文章を、大幅加筆・変更してこの度差替えたものです。

§『追憶（The Way We Were）』

ジェームズ・ウッズ（中央）、バーブラ・ストライサンド（右）↑

バーブラ・ストライサンド↑

ロバート・レッドフォード↑

バーブラ・ストライサンド、ロバート・レッドフォード↑

ロバート・レッドフォード、バーブラ・ストライサンド↑

ロバート・レッドフォード、バーブラ・ストライサンド↑

ロバート・レッドフォード（中央）、バーブラ・ストライサンド（右）↑

ロバート・レッドフォード、バーブラ・ストライサンド↑

バーブラ・ストライサンド、ロバート・レッドフォード↑

追憶 （The Way We Were）

追憶（The Way We Were）