『イースター・パレード』（１９５０年）や『上流社会』（１９５６）などのミュージカル映画でメガホンを取ったチャールズ・ウォルタース監督がレスリー・キャロンを主役にポール・ギャリコの小説「七つの人形の恋物語」をミュージカル映画化し、カンヌ国際映画祭娯楽映画賞とアカデミー賞ドラマ・コメディ音楽賞を受賞した『リリー（Lili）』（１９５３）は、ファンタジー色の濃いミュージカル作品として強い印象を与える作品ではないかと考えます。

父親を亡くして身寄りが無くなってしまった１６歳のレスリー・キャロン（役名：リリー・ドーリエ）は、父親の友人が住む町にやって来ますが、既に友人は亡くなっていることを知らされます。

途方に暮れる彼女は、移動カーニバルの魔術師ジャン＝ピエール・オーモン（役名：’マーク’、マーカス・ザ・マグニフィセント）に声を掛けられ、カーニバルのウェイトレスの職を世話してもらったことで彼に夢中になます。

しかし、仕事そっちのけで舞台上のジャン＝ピエール・オーモンの魔術ショーに見入ってしまったことで、せっかく得た職を解雇されてしまいます。

魔術ショーの助手ザ・ザ・ガボール（役名：ロザリー）と恋仲であるジャン＝ピエール・オーモンは、困り果てたレスリー・キャロンに家に戻るように勧めますが、行く当てのない彼女は深く思い詰めてします。

その時、戦争で負傷した為にダンサーから人形遣いになったメル・ファーラー（役名：ポール）は、失意の彼女に、彼の操る人形を通して彼女と会話を始めます。

レスリー・キャロンは、メル・ファーラーの操る生意気な少年キャロット・トップ、狡賢い狐レイナルド、自惚れ屋のバレリーナのマルグリット、そして臆病な巨人ゴロとの会話を始めます。

そして、生気を取り戻した彼女は、集まってきたカーニバルの団員に見守られながら人形達と「ハイ・リリー・ハイ・ロー（Hi-Lili, Hi-Lo）」を歌います。

メル・ファーラーと相棒のジャコット（カート・カズナー）が演じる人形とレスリー・キャロンのキュートな会話は、カーニバルの売り物として人気を博すようになります。

人気者としてカーニバルに留まることになったレスリー・キャロンですが、ジャン＝ピエール・オーモンへの変わらぬ想いから、レスリー・キャロンは魔術ショーの助手ザ・ザ・ガボールの代わりに自分が助手になることを夢見る様になります。

カジノに引き抜かれたジャン＝ピエール・オーモンがカーニバルを去る時、助手のザ・ザ・ガボールは自分が彼の妻であることを皆に告げたことでショックを受けたレスリー・キャロンは、カーニバルを去る決意をします。

その様な時に、独創的なレスリー・キャロンと人形劇の掛け合いに興味を持ったスカウトが、パリのショーへの出演をオファーします。

立ち去ろうとするレスリー・キャロンを少年キャロット・トップと狐のレイナルドの人形達が引き留めようと彼女を抱き締めますが、我に返ったレスリー・キャロンは、幕の奥で人形を操っているメル・ファーラーに向かって、１人の人間としてこれ以上カーニバルに留まることは出来ないと告げ立ち去ります。

しかし、歩を進めるうちに、レスリー・キャロンはメル・ファーラーの愛が人形達を通じて自分を柔らかく包み込んでくれていたことに気付き始めます。

自分は、この作品で描かれるレスリー・キャロン演じるリリーを観ているとフェデリコ・フェリーニの『道』（１９５４）に出てくるジュリエッタ・マシーナ（役名：ジェルソミーナ）を思い浮かべてしまいます。

『リリー』に横溢するファンタジー・テイストに比べると、ロベルト・ロッセリーニ監督下でイタリア・ネオレアリズモ映画を体感したフェデリコ・フェリーニの『道』はリアリズムにシフトしている感じがしますが、共に興行芸人との恋愛を描きながら、曇りの無い鏡の様な女性が周りの人物を映し出す作品として重なる部分を感じるのかも知れません。

この作品のレスリー・キャロンと人形達の掛け合いの素晴らしさと、少女風な踊りから手品師の妻に扮した華麗なダンス、そしてラスト近くの人形達とメル・ファーラーとのダンスはローラン・プティのシャンゼリゼ・バレエ団出身のレスリー・キャロンの真骨頂ではないかと考えます。

この映画を観ていると、メル・ファーラーの鬱屈した感情が性格の異なる４人の人形に分かれて、想いを寄せるレスリー・キャロンと会話を交わしているのではないかと感じることがあります。

そして、レスリー・キャロンが彼等を人形ではなく人として接する展開と、ラストに彼女を親身に想っていた４人の人形達がメル・ファーラー自身であったことに気付く流れには、何度観ても軀の揺れを覚えます。

名曲「ハイ・リリー・ハイ・ロー」のチャーミングな曲調が全編に煌めく極上のミュージカル・ファンタジーとして大好きな作品です。

ＰＳ　内容はファンタジー・テイスト溢れる作品ですが、この映画でメル・ファーラーが操る人形達によって語られる幾つかの示唆に富んだセリフには心を揺さぶられます。

『ブリガドーン』（監督：ヴィンセント・ミネリ　１９５４）もファンタジックなミュージカル作品でしたが、奥深いセリフが心に残る作品でした。

☆この文章は２０１８年９月掲載の文章の大幅変更・追記による差替えです。

§『リリー（Lili）』

メル・ファーラー、カート・カズナー、レスリー・キャロン、ジャン＝ピエール・オーモン↑

ウエイトレスとして働くレスリー・キャロン↑

レスリー・キャロン↑

レスリー・キャロン↑

キャロット・トップと歌うレスリー・キャロン

レスリー・キャロン、ジャン＝ピエール・オーモン↑

レスリー・キャロン、ジャン＝ピエール・オーモン、ザ・ザ・ガボール↑

ジャン＝ピエール・オーモン、レスリー・キャロン↑

メル・ファーラー↑

§ショーティ・ロジャース（ｔｐ）の「ジジ・ジャズ」

『恋の手ほどき（Gigi）』（監督：ヴィンセント・ミネリ　１９５８）の楽曲をジャズ・アレンジしたショーテイ・ロジャースのアルバムの表紙になったレスリー・キャロン

§ビル・エヴェンス（ｐ）の「インテュィション」

「ハイ・リリー・ハイ・ロー（Hi-Lili, Hi-Lo）」収録