フェデリコ・フェリーニ監督の『カビリアの夜』（１９５７）を観たのは、大学の夏休みに札幌に帰省していた時の自主上映会でした（１９８３年）。

フェデリコ・フェリーニの『道』（１９５４）をＴＶで観て感激し、植草甚一の著書で幾度も『８１/２』（１９６３）が取り上げられていたので、期待と共に上映会に出向きました。

当時は、レンタル・ビデオ出現以前でしたので、映画特集での単発上映か、ミニ・シアターや同好者主催の自主上映会等でないと、往年の名作は観られなかった記憶があります。

ローマの夜の街で客を待つ川沿いの小屋に住むジュリエッタ・マシーナ（役名：カビリア）が、金目当ての恋人に川に突き落とされます。

傷心のジュリエッタ・マシーナが立ち寄った見世物小屋で舞台上に呼び出されて、催眠術にかけられてしまった彼女は、催眠術師の演じるオスカルという青年に、黒髪の長かった少女時代の心で接します。

舞台上で気を失ってしまったジュリエッタ・マシーナでしたが、催眠状態で見せた彼女の純な姿に引き寄せられたフランソワ・ペリエ（役名：オスカル・ドノフリオ）との出逢いの後、次第に彼に恋愛感情を抱く様になります。

その直前、聖母教会の巡礼に参加して倖せへの祈りを捧げていたジュリエッタ・マシーナは、ドリアン・グレイ（役名：ジェシー）と喧嘩した有名俳優アメディオ・ナッツァーリ（役名：ラッツァーリ）に自宅に呼ばれてセレブリティの暮らし振りと恋愛模様を目にしていたこともあり、フランソワ・ペリエの求愛への疑念が次第に運命的な出逢いであるとの確信に至ります。

同監督の作品を観るとカトリックの素地を感じることが多いですが、『カビリアの夜』は彼の作品中でも、比較的直截的な形で宗教が扱われている作品ではないかと思います。

作品では、カトリック社会の中でも天から降り注ぐ光量が決して多いとは言えない人々に、監督がレフ板を用いた間接光を当てている様に自分には感じられるのですが、一般の映画に求めるような調和的な救済が、この映画の主たるテーマや結実とは異なっていることに気付いた時に慄然とした記憶があります。

それでも、この作品が強く心に残るのは、ジュリエッタ・マシーナ演じるカビリアの無垢な部分に触れることにより得られる暖かい感覚が、映画を観た後に体の奥からゆっくりと染み出てくるからなのかも知れません。

本作は、名コリオグラファーのボブ・フォッシーがメガホンを取った、シャーリー・マクレーン主演の『スイート・チャリティ』で、１９６９年にミュージカル・リメイクされております。

『カビリアの夜』はニーノ・ロータの音楽が全編を彩りますが、個人的に魅かれる音楽的な演出として、仲間のフランカ・マーツィ（役名：ワンダ）達の前でジュリエッタ・マシーナが屈託無く踊るマンボのシーンがあります（※）。

催眠術や巡礼の幻想的なシーンと共に、彼女の魂に宿る原石の煌めきが垣間見える様な気がします。

（※）アメディオ・ナッツァーリに連れられて入った高級クラブでも、ジュリエッタ・マシーナのマンボ・ダンスが観られます。

★本件は２０１８年１月３０日記載コメントの大幅変更・追記による差替えになります。

§『カビリアの夜』