2011.09.14 SP 魂の人間賛歌 第13回 アメリカの理想を詠う〔上〕


【ハービー・ハンコック】 アメリカ創価大学へ、素晴らしい歌「希望の光」、をプレゼントしてくださり、本当にありがとうございます。

 学生の皆さんはもちろん、私たちにとっても嬉しいサプライズでした。

 ♪
 希望の光を 世界に広げて
 自由と人道の旗を
 ついに朗らかに翻(ひるがえ)すのだ
 *** *** ***
 この悩める世界が
 我ら皆を待ちわびている
 我らの勇敢なる心が
 その呼びかけに応じる限り……

先生が綴(つづ)ってくださった歌詞の一節一節が、試練に立ち向かう、すべての友への限りない励ましです。大いなる「希望の光」が、まさにアメリカ創価大学から輝き広がっています。

【池田SGl会長】 ありがとうございます。開学十周年のせめてものお祝いにと、準備を進めました。

 歌をつくるということは、何度やっても大変です。喜んでいただき、安心しました(笑い)。

 お二人の盟友であるアメリカ芸術部の作曲家ウェイン・グリーンさんが、一緒に曲を練ってくれました。何度も打ち合わせを重ねて、見事に仕上げていただき、心から感謝に堪えません。

【ウェイン・ショーター】 この時代の闇を払い、新しい歴史を開きゆこうとする「一人立つ精神」が漲(みなぎ)る歌です。

 「新しい歴史を築け!」との師の呼びかけと、それに呼応する弟子の誓願によって、正しい精神が受け継がれ、未来へと流れていく ──
そうした姿が彷彿(ほうふつ)として描かれた歌です。

 私たちの同志であるウェイン・グリーンが先生と一体で作曲に当たったことも、何よりの誇りです。

【池田】 皆さん方が、いかに深く強く麗(うるわ)しい同志愛と友情で結ばれているか。よく存じ上げております。

 五年前に東京牧口記念会館で、お二人をはじめアメリカ芸術部の皆さんが力強い合唱「私は奮い立つ」を披露してくれました。一生涯、私の胸奥から離れない響きです。あの歌を作詞・作曲してくれたのも、ウェイン・グリーンさんでしたね。

【ハンコック】 おっしゃる通りです。

 師弟不二の労作業で、新しい「希望の光」という名曲が生まれたことに感動を禁じ得ません。

【池田】 歌は、つくるに際しても、歌うに際しても、心と心を一つに結び、新しい創造の生命をわきたたせる、妙(たえ)なる力を持っています。

 この夏、東北学生部が主催した音楽祭にも、ハンコックさんからメッセージをいただき、参加された友人も驚き、皆が喜ばれていたそうです。

【ハンコック】 光栄です。メッセージに記した通り、私自身、今も、日々演奏するピアノの鍵(けん)の一打一打に祈りとエールを込めながら演奏しています。被災者の皆様と一緒に歩みゆく思いでおります。

【池田】 ありがとうございます。

 メッセージには、「音楽には、何が起ころうと、それを生かして、春のように花を咲かせていく力があります」とありました。まったく同感です。

 この音楽の持つ究極の力を、お二人は人生を通して示し切ってこられた。東北の被災地の青年たちも、その魂を受け継ぎ、「ロック・ザ・ハート(心を揺り動かせ)」とのテーマを掲げて、力強く歌声を響かせました。

【ショーター】 尊い取り組みです。

 音楽は、大目的のために、また家族のために、自分自身のために、変革し、戦う力を与えてくれます。

 それは、試練が襲いかかってきた時に、逃げ隠れしたり、人に押しつけたりせずに、立ち向かっていく力です。

 たとえ、人生にひとたび絶望してしまっても、踏み止まって、再び生き抜いていこうと、立ち上がる力です。

【池田】 その力を、青年がいやまして奮い起こしていけるように、私たちはさらに励ましを贈っていきたい。

 以前、ショーターさんが敬愛を込めて語っておられた、偉大なサックス奏者ジョン・コルトレーン氏の忘れ得ぬ言葉があります。

 「悲しみや苦しみに打ち勝ち、乗り越えたあと、人は必ず強くなる。以前とは比べものにならないほどに」(『ジョン・コルトレーン
インタヴューズ』小川公貴・金成有希訳、シンコーミュージック・エンタテイメント)

 人類の前途には、これからも、さまざまな苦難が立ちはだゆるでしょう。しかし、断じて乗り越えていかねばならない。また絶対に「変毒為薬(へんどくいやく)」して勝ち越えていける力が、人間には具(そな)わっています。

【ハンコツク】 今回の東日本大震災をはじめ、近年、これまでは考えもしなかった、今までの人生で見なかったような出来事や災害が増えてきています。

 現代の直面する挑戦課題は、人類が存続できるかどうか、そのものを問いかけています。だからこそ、大切なのは、どのように行動していくかです。

 私自身、さまざまな困難にもぶつかってきました。その中で学んだことがあります。それは、困難な環境そのものは一時的な事象で終わったとしても、その困難にどう対処していくかによって、永続的な影響がもたらされるということです。

【ショーター】 そうですね。特に、人生における、いくつかの決定的な分岐点は無視することはできません。

 なかでも、9・11「米同時多発テロ」事件は、私に大きな影響を与えました。その後、私自身は新たな使命感を抱くようになりました。

 ***♪***

【池田】 「9・11」から、今年で十年 ──
。私は妻と共に、犠牲になられたすべての方々に、あらためて懇(ねんご)ろに追善の祈りを捧げました。追善は平和の土台でもあります。

 光に満ちた希望の二十一世紀の幕開けが一転して、テロによる暗雲に覆(おお)われた衝撃は、言葉に言い表せません。

 「9・11」は、生命の尊厳を踏みにじる、いかなる暴力も断じて許さぬという「誓いの日」です。お二人は、あの日、どこにおられましたか?

【ハンコック】 その日、私は事件のあったニューヨークのマンハッタンにいました。ホテルで、朝、仕事仲間の一人からの電話で起こされたのです。

 彼に言われるまま、テレビのスイッチを入れ、度肝を抜かれました。ちょうど二機目の飛行機が建物に衝突する直前だったのです。

 初めは、外国の軍隊が侵略してきたのかと思いました。何が起こっているのか理解できませんでした。ニューヨークは全くの混乱状態に陥り、私は四日間、そこから出ることができませんでした。

【ショーター】 私は、フロリダ州のマイアミにいました。私たちの住んでいたコンドミニアム(分譲マンション)のジム(体操施設)で、ランニングマシンを使いながら他の人々とテレビを見ていました。突然、ニュースキャスターが大きな声で叫び出しました。テレビ画面に衝突のシーンが何度も繰り返し映し出されていました。

 アメリカは「無敵」であるとの観念が突然、打ち砕かれる思いでした。

 なぜ、このような悲劇が起こったのか。人々は当初、「彼らはアメリカ人を憎んでいる」と言っていましたが、私は、もっと深い問題だと感じました。

 なぜなら、あの建物にいて犠牲になった方の中には、イスラム系の人々も大勢いたからです。本当に疑問だらけで、世界の出来事について自分がいかに無知であるかを思い知らされました。その時、アメリカに関する私の考えや気持ちに、変化や転換、超克(ちょうこく)、そして目覚めが生まれました。

【ハンコック】 当時、大変な混乱状態でした。我々に必要なことは、「我々の行為の何が、あの暴力行為につながったのか」「我々のやってきた行為の中に、あの暴力行為を引き起こす何かがあったのか」ということを反省するだけでなく、「人々にアメリカ人をもっと肯定的な目で見てもらえるようにするために我々のできることは何か」についても考えるように働きかけ、励ますことでした。

【池田】 傷つき苦悩するアメリカの人々と共に悩み、共に新たな蘇生の一歩を踏み出すため、お二人はそれぞれ、事件の直後から演奏のツアーに出られたと伺いました。

 仏法者として、芸術家として、人間として、やむにやまれぬ使命感にかられての行動だったと推察します。

【ハンコック】 私は当時、自分が正しい姿勢を持てるようにと、本当にたくさんのお題目を唱えました。ツアーの中では対話や癒し、立ち上がること、共通の長所を称え合うことの必要性について、単刀直入に発言しました。

 聴衆は、失われたものについての、重苦しく、悲しい、内省的な音楽を予想していたと思います。しかし、私は「そのような音楽は演奏しません。明るく楽しく、啓発的で、創造力と希望をかき立てる、まるで不死鳥(ふしちょう)が灰の中から昇ってくるような音楽にします」と言いました。

 「アメリカは大丈夫です。元気になります。このような行為が二度と起こらない環境や世界をどうやったら創れるか、その答えを見つけるには人間の内面を見つめる必要があります」
── このことを、すべての人々に伝えるために演奏ツアーを活用することが自分の使命であると思いました。

 すでに多くの言葉が飛び交っていましたので、長々と語りたくはありませんでした。スピーチは、ほんの数分、簡潔な言葉を述べるにとどめて、音楽のもつ歓喜と創造力に私たちの言いたいことを語らせました。

【ショーター】 そうだね。どこで公演しても、アメリカの偉大さとか、アメリカになされた不正について語ったり、アメリカは天使で、中東は悪魔であるかのような話は、決してしませんでした。演奏を終えると、多くの人々が称賛の言葉を送ってくれました。聴衆の皆さんは「このような音楽がもっと必要だ。このような本物の文化がもっと必要だ」と言ってくれました。

【池田】 「文化の戦人(いくさびと)」の信念に感銘しました。智慧を働かせて、聡明に皆をリードしていくことが、永遠に栄え続けていく道です。

 文化とは、人間性を破壊しようとする蛮性(ばんせい)との闘争です。人間の絆を引き裂く分断との闘争です。生命の善性(ぜんせい)を目覚めさせ、結び合わせる戦いです。

 この「文化」の真髄の力を、いざという時に、お二人は全生命で発揮され、魂の共鳴を広げていかれたのです。

【ショーター】 ありがとうございます。私自身、英語の「文化(culture)」という言葉は、極めて重要な価値と理念を表すいくつかの言葉の頭文字から成り立っていると思っています。

 Cは結びつき(connection)、Uは団結(unity)、Lは学ぶこと(learning)、Tは粘り強さ(tenacity)、二つ目のUは不屈(undaunted)、Rは弾力的な結合力(resilience)、Eは永遠(eternal)を、それぞれ示します。

【池田】 一つ一つが的確であり、重要な定義ですね。私も仏法者として、“暴力的な報復は、また新たな報復を生み、悪循環となる。相手の善の心を信じ、差異ではなく共通点を探すところから始めてこそ、平和は生まれる”と訴えてきました。

 テロの直後、アメリカで発刊された書籍『灰の中から』にも寄稿しました。

 「仏法では、『人間の生命は、全宇宙の財宝よりも尊い』と説く。その生命をいとも簡単に踏みにじるテロは、どんな大義や主張を掲げようとも、絶対悪である。ましてや、宗教の名においてテロが行われたとしたら、それは“宗教の自殺行為”であろう。人間を救うべき宗教にとって、絶対に許されるものではない」と。

【ショーター】 心から賛同します。

 『灰の中から』の副題は「米国へのテロ攻撃に応(こた)える心の声」でしたね。仏教、キリスト教、イスラム、ユダヤ教、ヒンズー教の各宗教を代表するリーダーをはじめ、世界の精神的指導者七十人が寄稿しています。メディアでも大きく取り上げられ、多くのアメリカ人が求めて手にしました。

 池田先生は、そのなかで「たとえ時間がかかったとしても、人間にそなわる善性を信じ、そこに呼びかけ、働きかけていく『文明間の対話』という地道な精神的営為(えいい)を、あらゆるレベルで重層的に進めていくことが肝要ではないだろうか」と呼びかけられています。

 まさに先生が示されている通り、理想の世界を創造するためには、「学習」や「対話」というプロセスが大切です。「急がば回れ」です。それは互いに学び合いながら、マイナスをプラスへ..