随筆 我らの勝利の大道 30 10/09/21

◆「人間革命」と我が人生 ㊦

 真剣に
  人間革命
   成しゆかん
  永遠の幸福
    盤石なりせば

 わが創価大学の講堂には、闘魂光る大文豪の像が並び立っている。 フランスのビクトル・ユゴー、そして、ロシアのレフ・トルストイである。

二人の巨人の展望

 二人の巨人が、それぞれに志向し、提唱していたビジョンがあった。それこそ「人間革命」である。 一八七六年の六月、ユゴーは、女性作家ジョルジュ・サンドヘ追悼を送った。 「フランス革命を完成させ、人間革命に着手することが定めとされている今世紀において、男女平等は、人間の平等の一部をなすゆえに、偉大なる女性がなくてはならないのです」 あのフランス革命から、百年近い歳月を経て、ユゴーは「人間革命」を呼びかけ、その誇り高き担い手たる女性に、深い敬意を表していたのである。 今年が没後百年となるトルストイも、その目指したところは、「人間革命」であったといってよい。 創価大学の名誉教授で、ロシア文学者の藤沼貴先生の手になる大著の評伝『トルストイ』でも、この点に鋭く光が当てられている。 トルストイは、「社会機構を変革することより、人の心を変えることのほうが何倍もむつかしい」ことを十分に認識していた。それでも、あえて、この困難な「内面世界の変革」に挑んでいったのである。 事実、トルストイは晩年の著作で語っている。「すべての人の畢生の事業は、時々刻々よりよき人になる事である」 要するに「人間革命」である。これなくしては、いかなる社会改革も画竜点晴を欠くのだ。 トルストイ翁は、もしも社会の改善を望むならば、その成否は「すべての人がよりよくなる」ことに掛かっており、その目的のために「諸君の中で出来る事はただ一つ」だと指摘した。 すなわち「自分がよりよき人になる事である」と叫んだのである。 ゆえに、自らの「人間革命」から始めよ! よりよき自分自身へ、勇気の一歩を踏み出せ! 新たな歴史は、そこから必ず力強く回転を開始するのだ。 牧口先生、戸田先生に続く我らの人間革命の運動は、人類史の最先端を進んでいることを忘れまい。

     

 師あり
  弟子あり
    広布あり

 これは、昭和五十四年の五月三日、わが原点を確かめつつ、小説『人間革命』の原稿を綴じた冊子の扉に記した言葉である。 ――私は戸田先生の七回忌(昭和三十九年)にあたり、いよいよ『人間革命』の執筆に取り組むことを宣言した。そして、永遠なる平和の誓願の天地・沖縄で、第一章「黎明」の章を綴り始めたのである。 この縁深き「うるま島」の同志の威風堂々たる前進が、本当に嬉しい。


弟子が偉業を宣揚

 私が「法悟空」のペンネームで連載を開始したのは、聖教新聞の昭和四十年の新年号からであった。 当初の構想では、昭和二十年の七月三日、戸田先生が出獄されてからのご生涯を描くことで、伝記小説としての使命は果たせると考えていた。 しかし、ご生前の足跡を辿るだけでは、恩師の本当の偉業は表現しきれない。歴史の常として、人間の真の偉大さや、思想・哲学の真価は、しばしば同時代には正当に評価されず、後世においてこそ、明らかになるものだからである。 まして、戸田先生が生涯を捧げられた広宣流布は、一代限りで完結するものでは決してない。師から弟子へと脈々と継承していく戦いである。つまり、後に残った弟子がいかに戦い、何を成し遂げたかによって、その一切は決まるのだ。 「よき弟子をもつときんば師弟・仏果にいたり・あしき弟子をたくはひぬれば師弟・地獄にをつといへり、師弟相違せばなに事も成べからず」(御書九〇〇ページ)とは、日蓮大聖人の厳粛なる仰せである。 戸田先生が逝去された時、学会は約八十万世帯であった。私は全精魂を傾けて広宣流布の指揮を執り、同志と共に、十倍以上の地涌の陣列を築いてきた。 先生が、ご自身の事業が最悪の状況下、私に「大学を創ろう」と語られた夢を実現するために、創価大学、創価学園、さらにアメリカ創価大学を創立した。 「広宣流布は文化運動だ。立正安国だよ」と、戸田先生は言われた。その言葉を現代社会で展開するために、民主音楽協会(民音)、東洋哲学研究所、東京富士美術館、戸田記念国際平和研究所などを創立した。 さらに、先生が「君は世界の広宣流布の道を開くのだ」と期待された通りに、世界に妙法の種を蒔き続けてきた。 それが今日、世界百九十二カ国・地域に幸の花が咲き薫るまでになった。


永遠不滅の流れを

 ともあれ、弟子が師匠の誓願を受け継ぎ、その構想を実現する。広宣流布を事実のうえで伸展させる――この師弟不二という、まことの後継の弟子の戦いを書き記さなければ、戸田先生、さらには牧口先生の本当の偉大さを宣揚することはできない。 こう結論した私は、小説『人間革命』第十二巻で、戸田先生のご逝去までを綴ったあと、引き続いて『新`人間革命』の執筆を開始したのである。 この『新・人間革命』を通して、真実の師弟の道を示し、人類の幸福と平和のために、広宣流布の流れを永遠ならしめたい。そして、その原動力たる創価学会を恒久化する方程式を明確に残さんと、今日も私はペンを執り続けている。


     ◇

 「人間を人間たらしめる条件」とは、一体、何か。 私が対談を重ねてきた、アメリカ実践哲学協会のマリノフ会長の結論は、明快であった。人間の条件とは、〝自分自身の最大の価値を発揮していこうとする成長の心〝である、と。 そのうえで、マリノフ会長は語ってくださった。 「成長を達成するためには、最良の教師が必要です。すなわち師弟の実践に生きることが、根本的な人間の条件なのです。 その人間の条件を、具体的な運動として展開しているのが、創価学会の師弟と人間革命の実践であるといえます」 深いご理解に、あらためて感謝したい。 五十年前の十月二日、世界広宣流布への旅に出発した私の心には、大確信が燃えていた。 ――わが師・戸田先生が教えてくださった「人間革命」の思想は、いずこの天地においても、必ず幸福と平和の花を咲かせる。いな絶対に開花させてみせる。まず自分が動いて、一人の同志を励ますことだ。一人の友と語ることだ――。 今、不思議にも創立八十周年に際し、日本も世界も、力ある新しきリーダーが颯爽と登場している。 自らが祈り、学び、戦い、「人間革命」した分だけ、わが使命の国土の「広宣流布」が前進すると定めて、偉大な師子奮迅の歴史を残していただきたい。 ドイツの大建築家ブルーノ・タウトは論じている。 「すぐれた弟子とは、師の本来の思想を継承し拡充してこれを彼等自身の環境、その国の風土および国民のもつ特殊な条件に適応させ、そこから新しいものを創造する建築家をいうのである」 広宣流布という「永遠の都」の大建設も、同じだ。


活字に魂を込めて

 私は、誉れの同志の尊き「人間革命」の軌跡を、一人でも多く綴り残していきたいと願っている。それこそ、真の活字文化への貢献であると信ずるからだ。 ロシアの大作家ドストエフスキーは言った。 「勇気と美しい生涯の実例は、スキャンダルや醜悪な事件より、百倍も大きな利益を社会に貢献するのではなかろうか」 「美しい生涯、勇敢な功業に関する物語は、懐疑と否定の現代において、社会の疾病とたたかうための、もっともよい武器ではないのだろうか?」 まことに、その通りだ。 私は現在、「聖教新聞」をはじめ、「潮」「第三文明」「パンプキン」「灯台」、さらに「東洋学術研究」の各紙誌で対談・鼎談を行っている。 一つ一つ「活字」として厳然と残していく。必ず、それが人類の精神遺産を豊かにし、未来への光になると確信するからだ。 喜ばしいことに、「潮」は本年、創刊五十周年の歴史を刻んだ。「第三文明」も、この十一月で同じく創刊五十周年を迎える。いよいよの大発展を祈りたい。

     ◇

 「嘘と虚偽が明らかに社会を崩壊させる」と、英国グラスゴー大学の哲学者ハチスン博士は語っていた。 戸田先生は、嘘と虚偽に満ちた低俗な雑誌や、くだらない本を読んでいるような青年に対しては、それはそれは厳しかった。烈火の如く叱咤なされた。 「良書を読め!」「一流の本に親しめ!」と、青年たちの柔軟な心に、限りない成長と向上の種子を蒔いてくださった。 「一冊の書物に求められている真の問題は、《その書物が人間の魂を救ったか?》ということだ」――この言葉を書き留めたのは、アメリカの民衆詩人ホイットマンである。名著には、人間の魂を向上させずにはおかぬエネルギーがある。 ゆえに、次代を担う未来部ならびに青年部には、良書を読んでもらいたい。 徹底して、一流の書に触れてもらいたい。 この秋は教学の「任用試験」も行われる。人類の太陽の経典「御書」に、大いに挑戦していただきたい。 「浅きを去って深きに就くは丈夫の心なり」(御書五〇九ページ等) 青年よ、断じて、易きに流されるな。若き君たちには、絶大なる可能性が眠っているのだ。

 君よ、読め、学べ!
 友よ、書け、語れ!

 労苦を厭わず、大志に向かって前進する君たちの眼前には、輝かしい未来が広がっているのだ!

大ロマンがここに

 「それにしても、私の生涯は、何という小説であろう!」と、英雄ナポレオンは言った。 広宣流布という大ロマンに生き抜く民衆の「人間革命」の物語は、世界史の英雄たちをして、「これこそ偉大なり!」と驚嘆させるに違いない。 しかし、「人間革命」とは、特別なことでは決してない。今ここで、自分ができることから、勇気の行動を起こすことである。 御書には「一丈のほり(堀)を・こへぬもの十丈・二十丈のほりを・こうべきか」(九一二ページ)と記されている。 どんな小さなことでもよい。大事なことは、一日一日の生活の中で、眼前の「一丈のほり」を勇敢に飛び越えていくことだ。 信心の極意は「いよいよ」の心である。今の状況が良かろうが、悪かろうが、前へ、前へ!――。たゆまぬ挑戦また挑戦、不屈の努力また努力こそ、「人間革命」の道なのだ。 大聖人は「力あらば一文一句なりともかた(談)らせ給うべし」(同一三六一ページ)とも仰せである。 広宣流布の拡大も、友のため、人びとのため、勇気の第一声を明るく朗らかに発することから広がる。 君よ、君でなければ創ることのできぬ、偉大な使命の物語を創れ! そして、共々に、師弟の勝利の大叙事詩を生き抜いていこうではないか!

 広宣と
  創価の後継
   我が弟子よ
  本有の舞台で
   宝剣抜きとれ