随筆 我らの勝利の大道 25 10/08/21

◆悠久の天空を仰いで (上)



月天子我らが友を照らしゆけ

一日一日「健康」と「充実」の前進を


 堂々と
  また満々と
    平和への
  大行進の
    旗を振りゆけ

 昭和二十二年の夏八月、わが人生の師・戸田城聖先生と初めてお会いする前夜、十九歳の私が読んでいたのは、ゲーテであった。 終戦後の混沌の只中にあって、ゲーテとの心の対話が、平和の師子王たる戸田先生への求道の序奏となったことは確かである。 それから六十年余の今、私は、ドイツのワイマール・ゲーテ協会のオステン顧問と、ゲーテを語る対話を開始した。 青春の探究の心で、ゲーテの「生命の詩」を語り合い、世界の青年たちに伝えていけることが嬉しい。 ゲーテは歌った。

 「宇宙は
   決して倦むことなく
  喜びのしるしを
   伝えている
  蒼穹(=青空)は
   もう何千年も前から
  語りつづけている
   平和の声」

 ゲーテの開かれた心は、宇宙の森羅万象が奏でゆく平和と歓喜の生命の調べを、生き生きと聴き取っていたといってよい。

     ◇

 この夏、「ペルセウス座流星群」が、夜空のカンバスに、幾筋もの光の道を描いていった。 十七年前、私は、訪れた群馬の地で、この流星群を見つめながら、青年たちと語り合い、和歌を詠んだ。


 大宇宙
  我らを祝して
    流星群
  花火の如く
   宝石まきたり

 流星といえば、消えることなき思い出がある。 空襲警報のサイレンが鳴った戦時中の夜。防空壕で息を潜めて見上げた空に、きらりと星が流れた。 「あの星は、この宇宙は、愚かな地球の争いをどう見ているのだろう」 一日も早く、悲惨な戦火が止み、平和で安らかな夜が地上に訪れることを願わずにはいられなかった。 流れ星に願いを託す――その心の光景は、今も昔も変わらない。 今年の五月、わが創価大学工学部の超小型人工衛星「Negai〝☆」が、宇宙の旅に出た。 この人工衛星は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき」とともに打ち上げられ、所期の目的通りに地球を周回。宇宙空間で情報処理実験も行った。加えて、創大生のアイデアで、そこに子どもたちの「願い」も一緒にのせたのだ。 「わたしの夢は地球の平和です」「天文学者になりたいです!」等々――。子どもたちから寄せられた夢は八千人分にも及んだ。 そのデータをマイクロフィルムに収め、人工衛星は宇宙へ飛び立った。計算上では、地球を五百周以上も周回し、八千人の子どもたちの夢とともに〝流れ星〝になったのである。子どもたちが〝流れ星〝に託した夢は、未来の社会を照らす平和と希望の光だ。 あの戦時中、私が流星に願った夢を、今、後継の友が平和のロマンとして広げてくれた。私の心の天空に輝く「創価教育八十周年」の勝利の光ともなった。


感歎と畏敬の心で

 天上に広がる大宇宙――この無限の空間に、古来、人びとは魅せられ、感歎と畏敬の念を抱いてきた。 ある時は天空を仰いで祈りを捧げ、ある時は輝く星を航路の指標としてきた。 東京・八王子でも肉眼で観測できるアンドロメダ銀河は、約二百三十万光年も離れている。 秒速三十万キロの光が、一年間に進む距離を一光年という。だから今、地球で見るアンドロメダ銀河は、約二百三十万年前の姿ということになる。実に、人類が〝猿人〝であった時代に放たれた光なのだ。 星々との対話は、悠遠なる時間との対話でもある。 ブラジルの天文学者モウラン博士は語られた。 「私たちが宇宙を見て、宇宙を勉強することによって、自分が宇宙と比べて、とても小さな存在だという謙虚さをしっかり学べば、その人間から生まれる力は、限りないものであると思うのです」 夜空を見上げ、月光と語り、星々の瞬きに心を澄ませる。このような大宇宙との関わりが、心をどれほど豊かにしてくれることか。 御本尊には「大日天王」も「大月天王」も「大明星天王」も、本有の尊形として厳然とお認めであられる。 朗々と勤行・唱題する時、この身は現実の生活の場にいながらにして、宇宙を悠然と包み込むような大境涯を開いていけるのだ。

 「天行は健なり。君子もって自強して息まず」(『易経』)――天の運行が健やかなように、人間もまた、たゆまず前進を続ける。 幾多の先人が希求してきた、天と合致した生命の健康と充実の軌道を、月月・日日に闊歩しているのが、私たちの信仰の人生なのである。


     ◇

 月天子
  我らが友を
   照らしゆけ
  慈愛の光で
    幸を包みて

 昭和四十六年の六月、北海道の大沼湖畔で、水面に金波銀波を映して皓々と輝く月天子を撮影した。その一期一会の月光のドラマは、今も忘れることはできない。 大自然が心を開いて見せてくれた、こうした出あいの一瞬一瞬が、後に私の「自然との対話」写真展に広がっていったのである。 近年も、私は折々に月を写真に収めてきた。 友との懇談や執筆などの合間、ほんの数秒、眼を夜空に向け、シャッターを押すのが常である。 群雲を破って、王者のように輝き現れる満月。母の慈愛の眼差しのように、優しい光を注ぐ満月……。 満月は、円融円満の妙法の象徴でもある。 夫に先立たれた妙心尼御前を激励された御手紙には「妙の文字は花のこのみと・なるがごとく半月の満月となるがごとく変じて仏とならせ給う文字なり」(御書一四八四ページ)と綴られている。 わが同志が、妙法の満ちゆく功力に照らされて、所願満足の満月のような人生を飾られることを、私も妻も祈る日々である。 十五年前の秋、大津市の琵琶湖畔にある滋賀文化会館で、関西の友と見つめたロマンの満月よ。 さらにその四年後、青き海を望む九州・宮崎の研修道場で、創価の三色旗の彼方に、勝利また勝利の笑顔で昇った、あの月天子よ。 四季折々、同志と共に、夫婦して眼に映した満月の思い出は尽きない。


人間の心も無限!

 人類を月に到達させたアメリカの「アポロ計画」の中心者であったジャストロウ博士から、一枚の写真を頂戴したことがある。 漆黒の闇に浮かぶ、海の「青」と雲の「白」、そして大地の「茶」に彩られた地球――その写真は、宇宙船「アポロ11号」から撮影されたものであった。 一九九三年、博士とアメリカ創価大学(ロサンゼルス・キャンパス)で語り合った折、博士からご提案をいただいて、創価学園ではウィルソン山天文台との交信による天体観測の授業が行われるようになった。 この実績が評価されて、関西校では、二〇〇〇年二月に、日本の学校で初めてNASA(米航空宇宙局)の教育プログラム「アースカム」に参加。今では、実に三十二回連続という、世界一の参加記録を更新している。 学園生は、宇宙からの視点で、大切な地球をいかに守るかを学び合っている。 私と対談集を発刊した、アメリカの思想家カズンズ氏は、「宇宙への偉大な上昇」が、それに応じて人間の「思想の上昇」をもたらすことを期待されていた。氏は「宇宙の中で、人間の心の無限性ほど偉大なものはない」とも断言された。 未来を担いゆく青少年は、偏狭な国境や陰湿な差別などない、悠久の星空を仰ぎ、自然と語りながら、心の宇宙を大きく広げていってほしい。 心が広がれば、世界が広がる。人生が豊かになる。 心が強くなれば、何ものにも負けない。多くの人をも護っていける。 その汝自身の心を鍛え、磨くことが人間革命だ。

 今年の五月には、カナダの名門ラバル大学の素晴らしき大教育者ドゥニ・ブリエール学長ご一行をお迎えした。 このラバル大学で愛唱されている校歌の一節を、創価の青年に贈りたい。

 「学べ夢を抱け
  信ずる心
  問いかける心を
  ともに持て
  創造せよ発明せよ
  心楽しく連帯せよ
  宇宙を見つめ
  その究極を探究し
  偉大なる道を
  舞いながら歩みゆけ」