2010.04.29 SP 御書と青年〔6〕「立正安国の旗」〔上〕



【棚野男子部長】池田先生、輝きわたる「5月3日」、誠におめでとうございます。第3代会長にご就任されて50年、先生が指揮を執ってくださった創価学会の大発展は「奇跡の中の奇跡」です。高名な識者も、「釈尊の一代の説法は、50年と言われています。その50年を現実に超え、世界192ヵ国・地域に仏法を広められた池田先生の功績は、類を見ない人類貢献の歴史です」と驚嘆されていました。私たち青年部は喜びと誇りに燃えて、前進しています。

【池田名誉会長】ありがとう! 青年が立ち上がる以上にうれしいことはない。これからの50年を託すのは、君たちです。君たちは不思議にも、今この時、21世紀の広宣流布を成し遂げゆくために、願って躍り出た地涌の勇者です。仏法の眼から見れば、君たちが自ら立てた誓願なのです。使命のない人は一人もいない。
【熊沢女子部長】 女子部も、史上最高の「華陽のスクラム」を朗らかに拡大し
ています。新たに結成された池田華陽会の第3期のメンバーも、はつらつと元気
いっぱいです。

【名誉会長】広布の若き太陽の皆さんの活躍を、全国、全世界の父母たちも、どれほど喜んでいることか。何の遠慮もいりません。思う存分、歴史を残しなさい。創価の宋来を頼むよ!
【棚野】 はい。池田先生が32歳で会長に就任されたのは、昭和35年(1960年)です。この年は、日蓮大聖人が、鎌倉幕府の最高権力者である北条時頼(ときより)に「立正安国論」を提出された文応元年(1260年)から、ちょうど700年に当たっていました。そして今年、「青年の月」7月には、満750年の佳節を迎えます。青年部は、必ず大勝利で飾ってまいります。そこで今回は、「立正安国」の精神について、おうかがいしたいと思います。


◆ 21世紀における立正安国とは?

【名誉会長】「立正安国」は、日蓮仏法の根幹です。「大聖人の御一代の弘法は、立正安国論に始まり、立正安国論に終わる」とも言われます。この「立正安国」の実践を忘れたら、日蓮仏法は存在しないといっても過言ではありません。

【棚野】先日、学生部のメンバーから質問を受けました。「『立正安国論』が書かれたのは13世紀の鎌倉時代です。21世紀の現代で、立正安国とは、具体的にはどういうことなのでしょうか」と。
【名誉会長】難しいことを聞くね(笑い)。だけど、学生部は真剣だ。簡潔であって、核心を突いた質問です。私は、ますます「立正安国」が必要な時代に入ったと思う。人類が待望してやまぬ世界平和のために、立正安国の思想が不可欠なのです。世界の各地で、大きな自然災害も続いている。経済の不況が長引き、人々の心も動揺している。だからこそ、揺るがぬ「精神の柱」「哲学の柱」が求められています。「立正」とは「正(しょう)を立てる」。すなわち「正義の旗」を打ち立てることです。真実の生命尊厳の思想を根幹としていくことです。ゆえに正しい思想、正しい信念を持った君たち青年が、現実の社会の真っ只中で勇気"をもって立ち上がること、それ自体が「立正」なのです。

【熊沢】はい。私たちの日々の広布の行動が「立正安国」に直結しているということですね。海外の女子部から、安国の「国」は日本だけを指すのか、との疑問を聞きました。

【名誉会長】立正安国の「国」について、日寛上人の文段(もんだん)には「意は閻浮及び未来に通ずべし」と説かれています。安国の「国」とは、広々と「全世界」そして「永続する未来」へ開かれているのです。そもそも「国」といっても、時代とともに、機構や体制なども変化を続けています。「立正安国」とは、もっと普遍的な地球文明の次元へと広がっていく理念です。
【熊沢】単に鎌倉幕府のための立正安国ではない、ということですね。

【名誉会長】その通りです。安国の本義は、国家体制の安泰ではありません。あくまでも、民衆自身の幸福、万人の国土の安穏を意味します。「民衆のための立正安国」「人間のための立正安国」「青年のための立正安国」なのです。大聖人が「立正安国論」に認められている「国」には、「口(くにがまえ)」に「民」を入れた「クニ」の文字が多いことは、よく知られています。国は「民が生きる場」と想定されているのです。

【棚野】先生と、中国の国学大師・饒宗頤(じょうそうい)博士との対談でも、論じ合われましたね。「口」に「王(玉)」を入れた「国」の字は、もともと「王の領地」を表します。それに対し、「立正安国論」に「クニ{国構えに民}」の字が用いられていることに、饒博士も感嘆されていました。

【名誉会長】 大事なのは民衆です。民衆が根本です。民衆が平和で安穏に暮らせる社会をつくらなければならない。そのためにこそ、「生命尊厳」「人間尊敬」の思想を厳然と確立することです。一人一人の生命は限りなく尊極である。「生命軽視」「人間蔑視」の風潮を断じてはびこらせない。どこまでも「一人を大切にする社会」「万人の幸福を実現する社会」を築く。それが21世紀の立正安国の実践です。


◆ 仏と魔の戦い

【熊沢】 80年前、創価学会が創立されたのは、二つの世界大戦の合間でした。そして50年前、池田先生が会長に就任された時は、厳しい冷戦の渦中でした。その中で、生命の尊厳を師子吼され、平和への対話の潮流を広げてくださいました。

【名誉会長】 御聖訓には「此の世界は第六天の魔王の所領なり」(御書1081ページ)と喝破されています。人間を不幸にし、社会を混乱させる魔性の働きが渦巻いているのが現実の世界です。妙法を根本に、その魔性を打ち破って、幸福にして平和な楽土を築きゆく闘争が「立正安国」といってよい。ゆえに、仏と魔の戦いなのです。その戦場は、人間の「生命」であり「心」です。そこにすべて起因する。だから、「立正安国」は一対一の対話から始めるのです。

【熊沢】 対話を通した、一人一人の心の変革ですね。

【名誉会長】そうです。「立正安国論」も、主人と客の対話で展開されていきます。「立正安国論」には仰せです。改めて拝しておきたい。「あなたは一刻も早く、誤った信仰の寸心を改めて、速(すみ)やかに実乗(じつじょう=法華経)の一善に帰依しなさい。そうすれば、すなわち、この三界は皆、仏国である。仏国であるならば、どうして衰微することがあろうか。十方の国土はことごとく宝土である。宝土であるならば、どうして破壊されることがあろうか」(同32ページ、通解)ここには、立正安国の方程式が示されています。国土の繁栄と平和を願うならば、人間の心に「正義の柱」を立てねばならない。一切は人間生命の変革から始まるのです。そして社会の中に、磐石なる「民衆の平和勢力」を築き上げていくことです。そうでなければ、いつまでたっても、人類社会は権力の魔性に翻弄され、不幸な流転を繰り返さざるを得ません。

◆ 全人類の宿命転換を

【棚野】「一人の人間における偉大な人間革命は、やがて一国の宿命の転換をも成し遂げ、さらに全人類の宿命の転換をも可能にする」 ── 。この小説『人間革命』のテーマは、まさに「立正安国」の現代的な展開ですね。「立正」=「人間革命」。「安国」=「全人類の宿命の転換」と言い換えられます。

【名誉会長】その誇り高き主役は、君たち青年です。今や妙法は世界192ヵ国・地域へと広がった。「立正安国」の具体的な展開は、若き妙法の青年たちが日本へ、世界へ、「人間革命」の連帯を、さらに広げていくことです。生き生きと社会に貢献していくことです。
【棚野】 それは、教育、学術、芸術、経済、政治、スポーツなど、ありとあら
ゆる分野に、正しき哲学と信念を持った若き人材が躍り出ていくということです
ね。

【名誉会長】さらに言えば、仏法への理解を広げ、共感する人を増やしていくことも、「立正安国」の行動です。生命尊厳の思想を広め、人類の境涯そのものを高めるために、多くの人と対話し、心広々と「善の連帯」を結んでいくのです。
【棚野】反対に人間自身の可能性を否定し、差別をもたらす思想とは戦うことですね。

【名誉会長】 「立正」は「破邪」と一体です。人間の尊厳を脅かすものとの戦いです。私が深い交友を結んだ、アルゼンチンのアドルフォ・ペレス=エスキベル博士は、非道な軍事政権(1976年~83年)との闘争を貫かれた。博士自身、14ヵ月にわたって投獄され、電気ショックなどの拷問を受けました。しかし、断じて負けなかった。やがて世界から"「良心の囚人」を釈放せよ!"との声がわき起こり、出獄。80年にノーベル平和質を受賞し、83年には、ついに民政が復活しました。博士が戦ったのは、人間を「モノ」と見る権力の魔性です。博士の「生命の尊厳」「自由と正義」を守るための、闘争が、世界の人々にどれほどの勇気と希望を贈ったか。深い深い信頼で結ばれた「平和と人権の同志」です。


◆ 弾圧を恐れず諫暁

【熊沢】大聖人は「立正安国論」の提出をはじめ、御生涯で幾度も国主諫暁をされています。弾圧の危険を顧みず、大聖人は厳然と言論戦を重ねられています。
【名誉会長】 大聖人は、その理由について、「但偏(ただ ひとえ)に国の為法の為人の為にして身の為に之を申さず」(同35ページ)と仰せです。大聖人の諫暁は、天変地異、大飢饉や疫病、幕府の無策によって、塗炭の苦しみに喘ぐ民衆を救わんがためです。またそれは、正しい宗教の真髄を示される戦いでもありました。当時、権力者は、自己の保身のために各宗派に祈祷を行わせていた。宗教の側も、その権力に迎合して癒着し、民衆救済の戦いなど微塵もなかった。民衆の幸福と安穏のためには、この根底の意識を転換せねばならない。「立正安国論」は、「宗教の革命」とともに「指導者の革命」を訴えられた書でもあるのです。

【棚野】 まさしく、烈々たる民衆救済の精神に貫かれています。

【名誉会長】 自界叛逆難(内乱)、そして他国侵逼難(侵略戦争)が起きることを経文に照らして予言し、権力者を諫められたのも、罪なき民衆が犠牲になる戦争を絶対に起こしてはならない、との御心からであったと拝される。戦争ほど残酷なものはない。6年前、フィリピンの名門キャピトル大学の創立者であられる、ラウレアナ・ロサレス先生と語り合ったことが忘れられません(2004年6月、東京)。ロサレス先生は、第2次世界大戦で、約2万人が犠牲になったとされる、日本軍による「バターン死の行進」の生存者でした。ロサレス先生は、当時、16歳の乙女であった。先生は語られた。「私は、人間が同じ人間に対し、このような残虐行為を働くのを、2度と目にしたくありません。生命の尊厳を教える教育こそが、このような蛮行を繰り返さないために不可欠なのです」本当に偉大な"教育の母"でした。

【熊沢】 今月には、後継のフアレス学長のご一家が、創価世界女性会館を訪れ、「ラウレアナ・ロサレス教育・人道賞」を池田先生に授与されました。先生が世界に築かれた平和の宝の結合を、私たちは受け継いでまいります。


◆ 雰囲気に流される弱さを打ち破れ

【名誉会長】 軍国主義の嵐が吹き荒れた20世紀の日本で、「今こそ国家諫暁の時ではないか」と決然と立ち上がられたのが、牧口先生、戸田先生です。あの時代に「立正安国」を叫び切ることは、まさに死身弘法の大闘争でした。初代、2代会長の身命を賭した獄中闘争こそ、学会の平和運動の原点です。立正安国の戦いの出発点です。戸田先生は、権力の恐ろしさを知り抜いておられた。だからこそ「青年は心して政治を監視せよ」と訴えられたのです。

【棚野】 池田先生も冤罪で牢に入られました。ありとあらゆる三障四魔の難を受け切り、すべてを勝ち越えてこられました。

【名誉会長】 私には、創価の師弟という、金剛不壊の立正安国の柱があるからです。ともあれ、正義は断じて勝たねばならない。勝たねば、立正安国は実現できない。そのために、私は、巌(いわお)の如き信念の、絶対に負けない青年を育てたい。

【熊沢】 はい。強く強く前進してまいります。ある実験の結果を聞きました。それは、ブランド好きといわれる日本人が、もしブランドがなかったら何を基準に買い物をするかという実験です。その結果、最大の基準となったのは、「周りの人と同じものかどうか」ということでした(笑い)。

【名誉会長】 大勢や雰囲気に流される日本人の気質は、なかなか変わらない。周りが右を向けば、右を向く。左を向けば、左を向く。こうした風潮は、全体主義がはびこる温床となる。トインビー博士は、私に語られました。「ファシズムに対する最善の防御とは、社会正義を最大限可能なかぎり確立することです」正しいことは正しいと言い切る。自分の信念を貫く。社会の土壌を根底から変革する。平和と人権の大哲学を、一人一人の胸中に打ち立てていく。その青年の陣列を築き上げることが、立正安国の勝利の道なのです。