随筆 人間世紀の光 209 09/10/24
◆創価一貫教育の大城 (下)

教育の世界は、何にもまして「励ましの心」の世界である。また、そうでなければならない。 現在、私が対談を進めている中国教育学会会長の顧明遠先生も、「愛がなければ教育はない」との信念を語ってくださった。「心を育む」ためには、まず、こちらが真心を注いでいくことだ。 ――ある年の創価学園の卒業式のこと。 この晴れの日に、どこか寂しそうな顔があった。実は、大学への進学が決まらず、浪人することになったメンバーだった。 終了後、皆を呼んで、「負けるな!」と固い握手を交わした。力強く握り返してきた手の感触を、私は忘れない。 また、ある時には、「この一年は、必ず五年にも十年にも匹敵するものになるよ!」と、真剣に励ました。 長い人生である。勝つこともあれば、負けることもある。将来、勝ち続けていくために、今の悔しい試練もある。これから勝てばよいのだ。 私は、一人ひとりにサーチライトを当てるように、東京でも関西でも、励ましのエールを送り続けた。 奮起を誓い、難関大学に合格し、凱旋の報告をしてくれた友もいた。後年、向学の炎を燃やして博士号を取得したメンバーもいる。 高校に入学して間もなく、お父さんを亡くした学園生がいた。

 美しき
  心と心の
   父子の詩
  三世に薫らむ
    諸天の守りは

 私は一首を贈り、彼と妹を激励した。今、その彼は、ドイツ国立重イオン研究所で原子核研究の国際プロジェクトをリードし、マインツ大学の教授にも就任している。 苦労を厭わず、立派な仕事を果たし、創立者に応えたい、お母さんに喜んでもらおうという心が嬉しい。 今、私が対話を重ねる、アメリカのエマソン協会のサーラ・ワイダー前会長は、創価教育の特徴として「学生たちが常に激励を受けている。それは学生を力づける激励であり、さらなる努力を促す激励である」「そして創価の教育には、感謝の心がある。それは共に学ぶことへの感謝でもある」と論じてくださった。 感謝といえば、学園や創大を志願してくれた若き友、また受験を勧め、励ましてくれた方々のことが、私と妻の心から離れることはない。 “皆、学園生、創大生“との思いで、大成長を願い、ご一家の繁栄勝利を祈り続けてきた。これが、私ども夫婦の偽らざる心である。



 世界まで
  我らの舞台は
   無限なり
  希望に生きぬけ
    われに勝ちゆけ

 第三の育成は、「世界市民の育成」である。 それは、いかなる国の人びととも、慢心にも卑屈にもならず、一個の「人間」として、堂々と誠実に交流できる「実力」と人類に貢献しゆく「開かれた心」を持つことだ。 そのためには、「世界を知る」ことが欠かせない。知らないことが、偏見や先入観を生む。学ぶ勇気が、自分の心を世界に向かって開くことになる。語学力も大切だ。 ともかく、日本の小さな物差しではなく、地球規模のスケールで考え、手を打っていけるリーダーが躍り出なければならない。 私が「君たちの舞台は世界だ」と語り、学園生や創大生に、世界の指導者や一流の文化人や芸術と触れ合う機会を数多く作ってきたのも、そのためである。 現在、ロシア語同時通訳の第一人者として活躍する関西校・創大出身のメンバーは、私が学園のお茶会の席で、「日本は、まだロシア語の通訳が少ない」と語ったことが、通訳を目指すきっかけとなったという。 そして昭和五十六年(一九八一年)五月、私の三度目のソ連(当時)訪問の折には、彼女は学生の代表として共に訪ソし、大いに啓発を受けたようである。 モスクワ大学への留学が決まった時、私は門出を祝して声をかけた。 「皆に好かれるようになるんだよ。皆から慕われるようになりなさい」 その通りに、よき先輩後輩と励まし合いながら、自らが関わった日露双方の方々に親しまれ、慕われながら、平和友好の道を毅然と歩み続けてくれている。 先月、私は、創価一貫教育の創立者として、韓国の名門・弘益大学から、栄えある名誉文学博士号を拝受した。あまりにも深きご厚情に、感謝は尽きない。 この弘益大学とは、既に二十年来の交流がある。 その発端について、大教育者であられる李勉榮理事長が語ってくださった。 以前、韓国を訪れた数人の創大生が、同大学を訪問した。突然の来訪にもかかわらず、懇談の機会をもってくださったのが、李理事長(当時、総長)であった。創大生は帰国後も丁重な礼状などを送り、友好を深めていったというのである。 この交流を通して、理事長は「創価大学生の誠実で真面目な態度に感心しました」と大変に喜ばれ、信頼してくださったのである。 今、先輩たちが築いた伝統を継承し、学園生、創大生たちは、私と同じ思いで、はつらつと人間外交を進めてくれている。頼もしい限りである。 先日、女子留学生日本語弁論大会(東京西大会)で、韓国出身の創大生が“友情の波を世界に!“と堂々と語り、優勝した。わが留学生の成長と活躍も本当に嬉しい。      

 偉大なる
  文武の伝統
    受け継ぎし
  創価の王子は
     何と頼もし

 それは、昭和五十六年の秋十一月一日のことである。 学会本部に掛かってきた一本の電話の声は、喜びに弾んでいた。サッカーの試合を終えたばかりの創価高校の学園生が、会場近くの公衆電話から掛けてきたのであった。 「東京大会の準決勝に勝ちました。決勝戦はテレビで放映されます!」 私は、直ちに、この“第一報“を入れてくれた友への伝言を、校長に託した。 「やったな!本当におめでとう」 チームは決勝に勝ち、年明けの全国高校サッカー選手権大会に、学園として初出場。正月二日の初戦にも、美事、勝利を飾ったのである。 日本中の創価の友が、喜びと誇りに沸き上がった。当時の選手たちも、応援してくれた仲間も、皆、立派なリーダーと育っている。 たった一通の手紙、報告、一本の電話であっても、学園生、創大生の勝利の報告は、何ものにも勝る喜びである。
 

 インドネシアが誇る不屈の大文豪プラムディヤ先生は、私が対談するワヒド元大統領の親友であられた。その代表作の中で、インドネシア大学の前身に学んだ信念の医学者が、若き学生たちに、民衆のための行動を訴える名場面がある。 「なにが人間をして崇高たらしめるかといえば、それは一にも二にも良い教育である。良い教育こそが崇高で良い行ないの基礎になる」 「ひとびとの魂を治癒し、その未来をどう切り拓いていくか、それもまたわれわれの任務でなければならない。教育を受けた諸君がその任務を担わなくていったい誰が担うのか」 事実、この学府から、近代インドネシアの夜明けを開く勇者たちが澎湃と躍り出たのである。 この烈々たる勇気と大情熱は、先日、創価大学にお迎えした、インドネシア大学のグミラル学長はじめ、諸先生方に脈打っていることを、私は感銘深く感じ取った。  「明るい未来を迎えるために闇を突き破るのは、教育を受けた者ひとりひとりの責務である」 このプラムディヤ先生の信念は、私たち創価教育の決意でもある。

 学びゆけ
  また学びゆけ
   指導者に
  なりゆく君の
    前途のためにと



 わが創価の教育機関は、今、次なる峰へ、大きく前進を始めた。 創価学園では、二〇一一年三月に向け、総合教育棟が建設中である。アメリカ創価大学の講堂と新・教室棟の建設も順調に進み、明年秋の完成へ、建設の槌音を響かせている。さらに、創大の新総合教育棟は、二〇一三年の完成を目指している。 モスクワ大学のサドーブニチィ総長は、深い信頼を語ってくださった。 「創価大学をはじめ、創価一貫教育そのものが、人びとに尽くす人材を育んでおられます」 さらにまた、アメリカ実践哲学協会のマリノフ会長も、「創価一貫教育は、人類にとって最高の啓発を与える崇高な理念の上に構築されています」と讃えておられる。 創価教育八十周年を前に、創価大学、創価学園、アメリカ創価大学など、わが一貫教育の卒業生は世界で約八万人を数える。「八」の文字の如く、未来は洋々と末広がりだ。 まさに、鳳雛から鳳に成長した創価同窓の弟子たちが、その使命光る翼を世界に開いて、地球を舞台に雄飛する時代が始まったのだ! 民衆の幸福と勝利の世紀を開くために! 世界の平和の大道を限りなく開くために!

 いざや征け
  創価の同窓
   悠然と
  白馬にまたがり
    勝利を目指して