命宝2
国民健康保険は、医師の保険医辞退の対象ではなく、標的となったのは、賃金労働者の
健康保険である被用者保険であり、なかでも、組合健保であった。そのため、多くのサラ
リーマン家庭が深刻な影響を受けたのである。
被用者保険の加入者と、その被扶養者は、医師にかかると、まず、全額、現金で支払い、
領収書を社会保険事務所や健康保険組合に提出し、払い戻しを受けることになる。
それだけでも煩雑なうえに、組合健保については、現行料金から値上げされた、医師会
が定める"新料金"が請求された。この差額は患者の自己負担となる。
それによって、病気になっても、金銭的な問題から、早期受診を控える人もいた。また、
治療を中断せざるをえない人も出た。
一九七一年(昭和四十六年)七月半ばには宮城県で、息子夫婦に医療費の過重な負担が
かかることを苦にして、息子の被扶養者になっていた老婦人が、自殺するという悲惨な出
来事が起こっている。
すべての国民が、医療保険に加入し、その適用を受ける国民皆保険は、日本の社会保障
制度の根幹をなすものであった。それを根底から揺るがす医師会の対応である。
医師会側は医療制度の抜本的な改革を主張しており、政府がそれに応え切れていないこ
とも事実であった。しかし、国民の生命を人質に取るような結果になったことから、医師
会は、人びとの怒りを買うことになった。
保険医辞退は、政府と医師会で合意が成立し、一カ月で終わったが、医師会は、医療費
の大幅引き上げ等を要求。事態は、難航し続けていたのである。
山本伸一は、そうした状況を見ながら、医師の良心という問題を、考えずにはいられな
かった。彼は思った。
"人命を預かる医師という仕事は、聖職である。医療制度の改革も重要である。しかし、
それ以上に、医師が生命の尊厳を守ろうとする信念をもち、慈悲の心を培うことこそ、最
重要のテーマではないか......"
国民健康保険は、医師の保険医辞退の対象ではなく、標的となったのは、賃金労働者の
健康保険である被用者保険であり、なかでも、組合健保であった。そのため、多くのサラ
リーマン家庭が深刻な影響を受けたのである。
被用者保険の加入者と、その被扶養者は、医師にかかると、まず、全額、現金で支払い、
領収書を社会保険事務所や健康保険組合に提出し、払い戻しを受けることになる。
それだけでも煩雑なうえに、組合健保については、現行料金から値上げされた、医師会
が定める"新料金"が請求された。この差額は患者の自己負担となる。
それによって、病気になっても、金銭的な問題から、早期受診を控える人もいた。また、
治療を中断せざるをえない人も出た。
一九七一年(昭和四十六年)七月半ばには宮城県で、息子夫婦に医療費の過重な負担が
かかることを苦にして、息子の被扶養者になっていた老婦人が、自殺するという悲惨な出
来事が起こっている。
すべての国民が、医療保険に加入し、その適用を受ける国民皆保険は、日本の社会保障
制度の根幹をなすものであった。それを根底から揺るがす医師会の対応である。
医師会側は医療制度の抜本的な改革を主張しており、政府がそれに応え切れていないこ
とも事実であった。しかし、国民の生命を人質に取るような結果になったことから、医師
会は、人びとの怒りを買うことになった。
保険医辞退は、政府と医師会で合意が成立し、一カ月で終わったが、医師会は、医療費
の大幅引き上げ等を要求。事態は、難航し続けていたのである。
山本伸一は、そうした状況を見ながら、医師の良心という問題を、考えずにはいられな
かった。彼は思った。
"人命を預かる医師という仕事は、聖職である。医療制度の改革も重要である。しかし、
それ以上に、医師が生命の尊厳を守ろうとする信念をもち、慈悲の心を培うことこそ、最
重要のテーマではないか......"