セミナーで、ベトナムの工場労働者の賃金は中国沿岸部の2分の1、日本の40分の1という話をした直後だったこともあり、店員さんが時給いくらで雇用されているのだろうかなどとお寿司をつまみながらぼんやりと考えました。
私はいま日本が抱える最も深刻な問題は格差拡大だと考えています。
日本で外国人労働者が増えることと地方都市でワーキングプアーと呼ばれる人が増えていることは本質的には同根の問題です。
もちろん外国人労働者が増えることは望ましいことでそれ自体は議論の余地はありません。問題は外国人と同じような仕事をする日本人の所得が下がり、日本国内の人々の所得格差が急速に拡大していることです。
こうした事実を多くの日本人はあまり意識してないかもしれません。あるいは3Kと言われるような仕事をしてもらっている姿を見ると有難いと感じるかもしれません。
しかしマクロでみると、とんでもない事態が進行しているわけで我々日本人は生き方自体を真剣に見つめ直す必要があります。
先進国にとってグローバル化の脅威は「雇用が奪われることではなく、賃金が下がることだ」というのは経済学者の間では定説となっています。
イギリスのエコノミスト誌は「新興国の経済発展を脅威と考える人々の多くは、雇用が低賃金国に奪われることを問題視しているが、そうではない。本当の脅威は賃金の低下であって雇用自体ではない」(The Economist, September 16, 2006)と述べ、中産階級の没落は先進国共通の現象であり、避けられないことだと結論づけています。
実例として、2001年以降、アメリカの中間層では労働生産性が15%も上昇したにもかかわらず、実質賃金は4%下落したことをあげています。
数年前まではグローバル化の恩恵が主張されることがしばしばで、「少数の未熟練労働者の賃金は低下するが、大多数の労働者は恩恵を受ける」という主張が日本でも多かったように思います。
しかし、グローバル化によって先進国においては、現実には大多数の労働者は損失をこうむっていると考えるべきでしょう。
アメリカ経済は2000年のITバブル崩壊で一時的には景気が後退しましたが、すぐに持ち直し、過去6年以上にわたって3%台の経済成長が続いています。
アメリカのGDPが3%台の伸びを示してきたにもかかわらず、中間層の実質賃金は4%下落したという事実は中産階級の没落に拍車が掛かっていることを如実に示しています。
では誰が得をしたのでしょうか?
企業とその経営者たちです。
アメリカ全体で生み出した付加価値のうち、企業セクターの取り分(=資本分配率)が上昇しています。
そして、その当然の結果として、経営者層を含む高額所得者の所得が急増し、アメリカでは、トップ1%の高額所得者が全所得の16%を占めるに至っています。
ちなみに80年時点では8%でしたからトップ1%がアメリカ全体の所得の取り分を倍増させたことになります。
アメリカほど極端ではありませんが、ヨーロッパや日本でも同様のことが起きています。
グローバル化が進んだために、企業から見ると、優秀な労働力を低賃金で使えるようになったわけです。赤坂のお寿司屋さんも同じです。このため企業の収益率が上昇しています。
このように、先進国では総資本と総労働の利害対立が鮮明になっています。マルクスが140年も昔に『資本論』のなかで提起した問題は、21世紀の世界で現実のものになってきたわけです。
日本における格差拡大の要因として、「小泉政権下で地方の公共事業が減らされたため」、「規制緩和によって競争が激化して弱者が淘汰された」などをあげる人がいますが、5年くらいの短期で見るとこの主張も正しいと思います。
しかし、20年くらいの長期スパンで考えると、グローバル化とIT化という2つの大波が同時に押し寄せるなか、高所得の先進国に身を置く我々にとって格差拡大は、あらがうことのできない宿命のようなものだと捉えるべきでしょう。
これをマクロ政策によって是正するには、財政政策によって所得を再分配するしか方法はありません。
すなわち、法人税を強化し、所得税や消費税を減税する方向の税制改革が必要になるでしょう。
しかし、それは政治家の仕事であって私の仕事ではありません。
企業と資本家の取り分が増え、この傾向が趨勢的に今後も続く世界で生き残る道は(1)企業家になる、(2)投資家になる、という二つの選択肢しかないのは自明でしょう。