突然ですが問題です【日本語編64】──話 話し 隣 隣り【解答?編】〈1〉〈2〉 | tobiの日本語ブログ それ以上は言葉の神様に訊いてください

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mixi日記2011年08月22日から
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1765987060&owner_id=5019671

 まず問題を再掲する。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1761951348&owner_id=5019671

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【問題】
 下記の( )の部分を漢字にしなさい。
  1) (はなし)が合う
  2) (はなし)合う
  3) (となり)の家
  4) (となり)合う
  5) (となり)合わせ
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【解答?例】
  1) 話
  2) 話し
  3) 隣
  4) 隣り/隣?
  5) 隣り/隣

 1)~3)は簡単だろう。
 ただ、近年、1)と2)の区別がつかない人が増えている印象がある。「話しが合う」「話しをする」などの書き方を目にする。「はなし」で変換すると「話し」も出てくるからだろう。
 ちょっとヤな予感がするのは、そのうちWeb辞書あたりが「お話する」もアリと言いだすような。現状ではさすがにムチャだけど。
「話(を)する」と「お話しする」だとちょっとまぎらわしいかな。
「世話をする」の「世話」は「名詞」。
「お世話する」の「世話する」は「動詞」(熟語動詞なのかサ変動詞なのか、正確な呼称はよくわからない)。「世話をする」の助詞の「を」を省略すると「世話する」になる。名詞なのか動詞なのかは微妙になる。
 だったら、「話をする」&「お話する」でもさほどおかしくない?

 問題は4)と5)。
 まず4)を辞書でひく。
■Web辞書(『大辞泉』から)
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?p=%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%82%8A%E3%81%82%E3%81%86&stype=0&dtype=0&dname=0na
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となり‐あ・う〔‐あふ〕【隣(り)合う】
[動ワ五(ハ四)]互いに隣となる。「電車で―・って座る」
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 これを見る限り、「隣り」でも「隣」でもOKということになる。ちなみに『大辞林』のほうは「隣り合う」しか認めていない。まあ、国語辞典に送り仮名のことを聞いちゃダメか。
 手元の用字用語集もMacintoshの「ことえり」も「隣り合う」。あんまり聞かないけど「隣る」という動詞に「合う」がついたのだから、「隣り合う」が素直だろう。
 

 次は5)。
■Web辞書(『大辞泉』から)
http://dic.yahoo.co.jp/dsearch?p=%E9%9A%A3%E3%82%8A%E5%90%88%E3%82%8F%E3%81%9B&stype=0&dtype=0
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となり‐あわせ〔‐あはせ〕【隣(り)合(わ)せ】
互いに隣り合っていること。「―に座る」
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 これも「隣り」でも「隣」でもOKということになる。ちなみに『大辞林』のほうは「隣り合(わ)せ」にしている。
 これは微妙。「向かい合わせ」と同じように動詞に「合う」がついたのなら「隣り合わせ」。「背中合わせ」のように名詞に「合う」がついたのなら「隣合わせ」。どっちなんだろ。


話 話し 隣 隣り〈2〉
mixi日記2011年08月28日から

 ↑の日記にいただいたコメントを読んで考えこんでしまった。
 まず、いただいたコメントを転載する。
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はじめまして。自分も最近気になっていました。

辞書で「り」を省略しているのは文部科学省の「送り仮名の付け方」の通則6の許容に則っているからではないでしょうか。
だから名詞としての「隣」ではなく、飽くまで動詞の「隣る」の連用形だと思います。

文部科学省の送り仮名の付け方
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k19730618001/k19730618001.html

> 通則6
> 本則 複合の語(通則7を適用する語を除く。)の送り仮名は,その複合の語を書き表す漢字の,それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による。
> (省略)
> 許容 読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる。
> 〔例〕 書き抜く(書抜く) 申し込む(申込む) 打ち合わせる(打ち合せる・打合せる) 向かい合わせる(向い合せる) 聞き苦しい(聞苦しい) 待ち遠しい(待遠しい)

「となり」や「はなし」が紛らわしいのは、(告示の通則4の例外にも定めてありますが)動名詞の送り仮名を省略して書かれることが一般的になってしまったことや、連用形の活用を省略できるといった例外がたくさんあるからかなー(私見)。

それと「おはなしする」は「名詞+する」の表現形だと思われます。
「ランチする」「お茶する」「おトイレする」などです。
つまりこの「はなし」も名詞で、「お話する」と表記するほうが好ましいかな。
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 以下、いただいたコメントを細かく見ていく。細かく見ると、インネンにような記述が出てくるのはご容赦いただきたい。

>辞書で「り」を省略しているのは文部科学省の「送り仮名の付け方」の通則6の許容に則っているからではないでしょうか。
 そうか。そう言えばそういうものがあった。失念していました。
 ただ、辞書がどの程度「送り仮名の付け方」に従っているのかは、なんとも言えないと思う。
 この告示が出たのは、昭和48年(1973)。たいていの辞書はそより長い歴史をもっているんじゃないだろうか。じゃあ辞書類が何を基準にしているかと言うと、なんとも言えない。独自の基準なんだろう。
 個人的には、mixiのコメントなんかだとWeb辞書をベースにして書くことにしている(引用がラクだから)。もう少し正確に言うと、送り仮名は漢字変換ツールまかせで、漢字の使い分けは蓄積された豊富な知識まかせ。だからメチャクチャ(←やかましいわ!)
 通常の仕事モードだと、送り仮名や漢字の使い分けに関して辞書は信用していない。辞書によってブレが大きすぎて、何を信用していいのかわからない。 もっぱら頼りにするのは『朝日新聞の用語の手引き』。ただし、送り仮名に関してはわからないことが多い。
 ちょっと送り仮名のページを確認してみた。朝日新聞は「送り仮名の付け方」の本則に準拠し、「許容」をとっていない。まあそうだろう。「正誤」を重視する辞書と違い、新聞は誰にでもわかりやすい「基準」であることを重視している。
 今回の問題に関する『朝日新聞の用語の手引き』の記述。

  1) (はなし)が合う→話が合う
  2) (はなし)合う →話し合う
  3) (となり)の家 →隣の家
  4) (となり)合う →隣り合う
  5) (となり)合わせ→隣り合わせ

 こんなとこだろうな。名詞の「隣」を「合わせる」なんて屁理屈は認めていない(泣)。
「おはなしする」に関しては記述が見つからないが、フツーに考えれば「お話しする」だろうな。

>「となり」や「はなし」が紛らわしいのは、(告示の通則4の例外にも定めてありますが)動名詞の送り仮名を省略して書かれることが一般的になってしまったことや、連用形の活用を省略できるといった例外がたくさんあるからかなー(私見)
 まず瑣末な用語の問題。日本語の文法用語に「動名詞」ってあるのだろうか。Wikipediaを見ると「言語学における準動詞の一種で、印欧語で動詞が名詞としての機能を持って使われるようになること」とある。当方の感覚も同様。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%95%E5%90%8D%E8%A9%9E

 ↑の通則4に出てくる「活用のある語から転じた名詞」くらいの言い方が無難だろう。
 通則4は以下のものをあげている。
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例外 次の語は,送り仮名を付けない。
謡 虞 趣 氷 印  頂 帯 畳
卸 煙 恋 志 次 隣 富 恥 話 光 舞
折 係 掛(かかり) 組 肥 並(なみ) 巻 割
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 これはさほどむずかしくないだろう。「活用のある語から転じた名詞」なのか、元々名詞なのかは考えたくない。
  このほかの例外として知られるのが伝統工芸品。「織」「染」「塗」「焼」「彫」などは送り仮名をつけない。ただまぎらわしいのは工法には送り仮名をつける ことが多いこと。その結果、「素焼きの益子焼」「木彫りの鎌倉彫」のようなことが起きる(こんな例文はありえないけど)。
 さらにメンドーなのは【許容】の部分。
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許容 読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる。
〔例〕 曇り(曇) 届け(届) 願い(願) 晴れ(晴)
当たり(当り) 代わり(代り) 向かい(向い)
狩り(狩) 答え(答) 問い(問) 祭り(祭) 群れ(群)
憩い(憩)
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「読み間違えるおそれのない場合」なんて、何を基準にするのだろう。個人の主観に頼る気か? これを認めはじめるとキリがなく、収拾がつかなくなる。
 たいていの複合語は片っ端から送り仮名が不要になる。昔かかわった雑誌でそういうルールを採用していた。
  打ち合わせる/打合わせ/打合せ日
 みたいな法則で、校正の責任者以外誰も正確なことを理解していなかったorz。新聞が「許容」を認めないのは正しい態度だろう。
 以上を踏まえてもう一度問題を見る。許容を認めるなら、以下のようになる(はず)。

  1) (はなし)が合う→話が合う
  2) (はなし)合う →話(し)合う
  3) (となり)の家 →隣の家
  4) (となり)合う →隣(り)合う
  5) (となり)合わせ→隣(り)合(わ)せ

 いただいたコメントの最後のほうにあった以下の記述には疑問がある。
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それと「おはなしする」は「名詞+する」の表現形だと思われます。
「ランチする」「お茶する」「おトイレする」などです。
つまりこの「はなし」も名詞で、「お話する」と表記するほうが好ましいかな。
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「おはなしする」を「名詞+する」と考えるのはちょっと無理だろう。
 当方も〈だったら、「話をする」&「お話する」でもさほどおかしくない?〉とは書いたが、それは「お話をする」の「を」を省略したという解釈。これだって現段階では通用しないと思う。フツーの校正者なら、「お話しする」に修正する。
「名詞+する」の話を始めると長くなるけど、基本的に許されるのは下記の2つだと思う。

  1)熟語動詞(仮)として辞書に認められているもの
  「許容する」「通用する」……etc.。なかには「参考する」なんてのもある。
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-869.html
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-1854.html
「話」は熟語動詞(仮)ではないから、「話する」「お話する」はヘン。
 あれ? 熟語動詞(仮)は「お(ご)~する」にはなりにくいのか?
「ご許容する」「ご通用する」は×だろう。使えそうなのは「お返事する」くらい?

  2)外来語(おそらく名詞と動詞の両方の品詞があるもの)に「する」がつくもの
  「インサートする」「コメントする」「スタートする」「プレイする」……etc.。
  「ハッスルする」は死語。
  「スポーツする」「ランチする」は厳密には微妙な用法だと思う。たぶん原語に動詞の働きがないからでは。「スポーツをする」は○で、「ランチをする」が×の理由は不明。

 ただ、このあたりは微妙な例が多い。「お茶する」あたりはまだ俗用って気がするが、「誤用」と断じる自信はない。


【20111014追記】
 妙な例を思いついてしまった。
 子供が母親にねだる。
「ねぇ、なんかおはなしして……」
 これはたぶん「お話をして」の「を」が落ちた形だろう。そう考えるなら「お話して」になる。
 女性が恋人にねだる。
「ねぇ、なんかはなしして……」
 これも同様だろう。
 これを逆に考える。
「ねぇ、なんか話して……」の「話」は「はなし」か「はな」か?